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終章
第一皇子は駆けながら、これは違う。自分ではない、と思っていた。
自分は王の優しさで、今、この瞬間、ここに招かれているだけなんだと思っていた。ペルシール。この地方の騒乱を納めたら。国を平定させたなら、自分の行くべきは、城の外だと思いながら。
議場の裏に続く隠し扉の近くに、ミラーナの姿があった。第一皇子の部屋から出て行った皇子が心配で、議場の間なら安心だからと侍女たちに守られて、密かにやって来て、観覧席の緞帳近くで、泣きそうな顔で第一皇子を見ていた。
王の言葉はなぜか隅々まで届き、こんな端っこにいるミラーナにも聞こえていた。そして、第一皇子をあざける王の言葉に怒り、第一皇子を助ける為に言い募る王の言葉に顔色を変え、第一皇子が王の言葉に従って、中央の階段を颯爽と歩く姿を眺めて、泣き出していた。「行ってしまう、皇子がどこかに行ってしまう」と、議長席に近づく皇子を見ながら、泣いていた。
議場の入口に現れた、真っ白い光にしか見えなかった青年は、王の言葉を聞いて徐々に、色を取り戻し、気が付くと、いつもの第一皇子に姿が戻って行ったのだった。その姿を見て、人々はまるで何事も無かったかのように、議長席へ向き直る。
王の、
「軍議を始める」
と言う声に、人々の応えの声が返るのだった。




