議場-016 絶対なる君主であられる!
第五皇子はサテンを見ながら声を上げた。
「このお方こそが陛下でおられる。人間のような小さな世界を超えた、我らが神にも等しいお方」
と言う声はどこか狂気じみていた。しかし、第五皇子は気にも留めずに、
「このお方こそ、我らが王。絶対なる君主であられる!」
まるで自慢するかのように答えた。アントラックはうなずいて、王へ言った。
「第五皇子が傀儡になられないとは言えませぬな」
言われている第五皇子は顔色一つ変えずに、慌てた様子で腕をつかんできたララルーアに、指で叩いて囁いて、宥めようと話しかける。まるで、アントラックの言葉を聞いていない。王は、笑った。こっけいな話を聞いた、と言うように笑った。
「あの第一皇子は、わしが玉座の間で第五皇子を救いに行っている間に、ここにて、王になろうと議場中を騙しておったのじゃ。兵たちの声を聞いたか? 彼らに、陛下と呼ばせていたのじゃ。我がいなければ、勝手に王として振る舞って、みなに陛下を呼ばす者。こんなものを、王にできるか? 王にならずに己を王と呼ばすものと、己の尊敬するものを王と称えて喜ぶ者とはわけが違う。どちらが王位にふさわしいかだと? わしは他者を王と呼べる、器が大きい第五皇子を次代にしたいと思う」
と言った。アントラックはそれ以上は聞かなかった。王は、さらに、
「みなのもの聞いていたであろう。第五皇子こそが、この国の王にふさわしい。わが世継は、この第五皇子にしようと思う」
周囲にいた近習たちは、一人二人と膝をつき、第五皇子に頭を垂れた。ララルーアが紅潮した顔で満面の笑顔を作って膝を折り、
「おめでとうございます」
と王と第五皇子に喜びの声を掛けた。第五皇子は知らん顔で、サテンの方へ視線を向けたままだった。と思うと、ついっと足を踏み出した。王を後にし、ララルーアを背後に残して。第一皇子は茫然とした顔で、低くつぶやく。
「王になって陛下の横に立ちたいと言う思いが、僭越であったのかもしれない」
誰にも聞こえない小さなつぶやきだった。しかし、サテンには聞こえたようだ。細く目を細め第一皇子を見つめる。銀の髪に青海色の瞳の青年は、どう見ても王の子には見えなかった。その第一皇子に、サテンが穏やかに、低く他には聞こえにくい声で、
「親のように思う男の横に立ちたかっただけだ。尊敬している父の横に立ちたいと思うのは、誰でも思うことだ。美徳であって、汚してはならない思いだろう」
と言った。第一皇子は首を左右に振った。
「議場の場で、私は何度も、権威や権力があればと思っていた。陛下はよくご覧になっていた」
「私利私欲ではなく、国と人々を思ってのことだ」
皇子の目には、苦い思いが浮かんでいた。そんな風に思っていたのも、単に王になりたかったからだ、と言う気がしてならない。言い訳が必要だったのだ、と自分で自分を疑い始める。王は第一皇子に背を向けて、議場へ向かって歩き始めた。入口の、固まっている儀仗兵の脇に来ると、顔だけをサテンへ向けて、
「時を戻したもらおうか」
と言った。と、その瞬間。驚いたような人々の声がわんっと耳に飛び込んできた。アントラックは、王へ続いて議場へ向かいながら、第一皇子に告げた。
「ペルシール地方の内乱は本物です。これから軍議が始まりましょう。龍神を信じる、妄信の輩が、己の危険を顧みず、手当たり次第に村を占拠してまわる」
第一皇子がはっと顔を上げると、アントラックはまっすぐに王を追う。議場の扉をくぐった王は、中央にある階段通路へと足を勧める。人々は、突然現れた王を、驚いたように見上げ、王に気づくと片膝をついて礼を取る。次々と膝をつく人々を、王は見渡しながら歩みを進める。その後ろをララルーアが続き、その後をアントラックが歩いていたのだが、アントラックが、ふいに立ち止まって後ろ見た。第五皇子が、議場の入口近くから、廊下の向こうへ、サテンの方へ駈け出していくところだった。アントラックの動きに気づいた王が、階段の途中で足を止めて振り返る。と、同時に気づいたララルーアが、第五皇子を見つけて悲鳴を上げた。
「第五皇子、何をしていっらっしゃるのです!」




