議場-015 まるで棒読みだった
王はきつく目をつぶり、絞り出すように先を続けた。
「これほどの幸運に恵まれ、我らが苦労のかいがあったと言うものじゃ。今、ここで、わしは宣言いたしたい」
まるで棒読みだった。しかし、静かな音の消えた世界で、王は言葉を紡ぎ続ける。奇妙な王の動きに見えた。第一皇子は食い入るように王を見て、王がつぶっていた目を開くと、すいっと一歩前に出た。王の脇で、ララルーアが手を胸の前で握りしめて驚愕したように第一皇子を見つめていた。美しい、第五皇子よりもよほど美しい生き物がすぐそこにいた。内側から光を発光するするその姿は、どう見ても人ではなく、見たこともない生き物だった。しかし、なぜか、王が良く知っているものだと思えた。なぜなのか、ララルーアには分からない。ララルーアの逆側に、後ろに控えた場所に、アントラックが立っていた。第一皇子の顔を見ると驚いたような表情はしたが、片手を胸にあて敬意を示した。その姿が、第一皇子が何者か一目で気づいたようにも見えた。それは、この姿をしていても第一皇子だと分かった、と言うようにも見えたし、この姿の人物が何者であったか初めから知っていた、と言うようにも見えた。
王は、第五皇子の腕をぐっと引っ張り自分の前へ立たせた。と、その時、第一皇子が低い声で王へ問うた。
「王陛下、それが陛下の真実のお気持ちであられますか? 本当に、私には、王としての資質はないと」
「もちろんじゃ。だからこそ悩んでおる」
「ならば!」
と言った後、ずいっと前へ踏み出した。ララルーアがひぃっと一歩後ろに下がった。足元に石の様に固まっていた衛兵たちへ、踵をぶつけて、二度目の悲鳴を上げたのだが、それ以上に、この光る存在が怖いと感じた。美しい、と思っていたのに、わけの分からない力を頬に受けて、背筋の下から震えが上がった。第一皇子は気づかない。王をしっかりと見て、王以外は目に入らない。
「ならば、なぜ! 私に、第一皇子と言う地位と呼称を与えたのです。なぜ、私からこの地位を奪ってしまわれなかったのですか!」
そう言った後、
「さっさと取り上げれば良かったのです。私が王の血筋を訴えて、龍の血筋だと騒いだ時に!」
と痛みを絞りだすような声だった。王は静かに第一皇子を見つめていた。そして言った。
「だからこそ、今、おまえから、地位を奪っおうとしているのである。さぞや、納得いったであろう?」
嫌な聞き方だった。皇子は口の端を噛んで黙った。サテンが王の顔を見降ろしていた。王はそれに気づいたのか反射的に、思い切り首を動かす。さっと、サテンを見た瞬間、王の目は、怒りにかっと燃え上がったように見えた。と、その時、アントラックの飄々とした声がかかった。
「では、陛下。第五皇子であれば、傀儡の王にはならないとおっしゃって、おられるのでしょうか?」
丁寧な言葉遣いだったか、肩をすくめる仕草は、礼儀を無視したものだった。王は気にしていないようで、振り返ってにやりと笑う。
「もちろんじゃ。このララルーアを、あれほど綺麗にあしらえる者はなかなかおるまい」
ララルーアが顔を上げ、徐々に顔に血の気が上がり、興奮しだして、何か第五皇子に言おうとした。しかし、第五皇子は首を横に振り、自分の口に指を充て、その仕草だけで黙らせる。それを見て、王が大きく息を吸う。そして、
「わしの決意を申そう。この第五皇子が」
「陛下!」
と、アントラックが王の言葉を止めた。王は不愉快そうな顔をしたが、それでも、アントラックの言葉に耳を傾けた。アントラックは、王に目を受けたまま、第五皇子に問いかけた。
「殿下、殿下の慕う陛下は誰でしょうかね? ここにおわしますか?」
「もちろん居られる」
と言って、にこりと笑った。先ほどララルーアをあしらったのと同じ顔、同じ動きで、すっと顔を上げたかと思うと、目を細め、
「そこに居わす」
とサテンに向かって視線を飛ばした。




