議場-012 国を乗っ取る輩である
衛兵は偽バイローンの声が聞こえていないかのように、じっと第一皇子が偽バイローンへ飛びかからないように防いでいる。
偽バイローンはさらに、
「第三者までが、サテンが反逆者だと訴えに来たんです。誰もが、サテンが犯人だって思うってもんさ」
と言って、大声をだし、
「その男、王陛下をだまし、国を乗っ取る輩である。厳重にとらえ、地下牢へ落とし込め!」
とサテンを指して言う。衛兵はその通りだと言うように、サテンの腕をねじり上げて立たせた。偽バイローンはそんな衛兵を見て笑い、第一皇子へ、
「軍議を止めたいって、言ってませんでしたっけね?」
と聞いた。皇子は偽バイローンへ向き直る。
「おまえは何をしたいんだ?」
「真なる王の統べる国を作るのです」
と偽バイローンが夢見るように言うと、第一皇子は不愉快そうな顔になり、
「洗脳する為の夢物語なぞいらん」
と言うと、偽バイローンは侮蔑をむき出しにして、
「龍王の統べる国をここペルシールにも作るんだ。俺らの国だ。人間の王などいない、龍王の国さ!」
と言い放ち、
「妾にちょっとやってみたり、ふらっと来たインチキ龍に渡してみたり、そんな事をされて黙っていられる民じゃねぇ」
と言う。しかし、第一皇子が、
「いもしない龍王を持ち上げて、おまえが良いようにする土地を作りたいのか?」
と真顔で聞いた。偽バイローンは鼻の上に皺を寄せ、鼻を鳴らす。かと思うと、くるりと向きを変えて、窓に向かって両手を掲げ、
「陛下よ! 龍王よ! ここへ我を支える為にお越し下された、偉大なる我が龍王よ! 人間にその偉大さを見せつけたまえ!」
と大声を上げたのだった。
バウンの目には、目の前で、ガラスがびりびりっと響きはじめたように見えた。しかし、すぐ横にあるサテンの気配の方が怖かった。バウンは立ち上がっているサテンを見上げながらも、さらに、じりじりと距離を取る。衛兵も無意識のうちに、身体を離した。サテンの腕を取ってねじり上げているのだが、足を肩幅に開くように向きを変えつつ拳一つ分の距離を作った。人々が押し合いながら、廊下を壁伝いに逃げ始めていた。議場を、軍議を、と中で議長が叫んでいたが、貴族以外は次から次へと逃げ出していた。みな、窓を見上げて震えあがって、壁を伝って歩きながら、自分の神に口の中で祈り続けた。しかし、偽バイローンが、
「みなを救おう。龍王こそが救いである。龍王を見よ! 龍王をたたえよ。おろそかにすれば恐怖が、たたえれば栄光が、その身に降りかかって来る。ほら、窓を見よ!」
と言うと、人々は立ち止まり、窓を見て、震えながら膝まづく。廊下には議場からでてきた人々が次々に膝を付き、祈るの用に両手を胸の上で組んで、頭を垂れて、口の中で謝罪とも感謝ともつかない言葉を唱え続ける人で埋まり始めたのだった。
「上手い足止めをする」
そうつぶやいたのは、ゆったりと衛兵達の手を外したサテンだった。第一皇子が顔を向けると、サテンは抑えられた時に跳ねた髪を片手でかき上げていた。それは、操られ窓にぶつかり、押さえつけ馬乗りにされていたとは思えない程、余裕に満ちた顔だった。バウンは議場の入口の扉の枠にしがみつき、じっとサテンを睨んでいた。なぜ、この恐怖が周りの人には分からないのかが不思議だった。そして、この恐怖がある限り、あの窓に龍だ。龍王がいる、と叫ぶ男の声が、上っ面を走っているようにしか聞こえてこない、と気が付いていた。偽バイローンにサテンの声が聞こえたようだ。しかし、鼻で笑って、
「城の人間がバカなだけさ」
と言って、廊下の中央を歩き始めた。人々は廊下に膝をついて、窓に向かって必死に何かを祈っている。命乞いか、龍をたたえる言葉を並べたてているのか、分からないのだが、目の前を歩いて行く偽バイローンの姿は全く目に入っていないようだ。
「まて」
と言って後を追った第一皇子だった。それを衛兵が槍の柄で、とっさに止める。
「陛下、そちらは龍王の御前です。陛下は龍王のお血筋なれど、無礼は許されませぬゆえ」
と遠慮がちに言いながらも、ほぼ腕づくで止めようとした。




