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最強パーティの専属荷運び人  作者: 智慧砂猫


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第9話 海の遺跡

 三人はワープポータルを通じて大陸西部の海岸近くに出た。


 美しい砂浜は太陽の下で白々と輝き、ざざあと波が穏やかに揺れて濡らす。なんともそこにいるだけで心地よく、安心感すら湧いてくる。


 大陸西部はダンジョンの外でも当たり前のように魔物がうろついているが、ワープポータル周辺には結界があって寄り付かないので、ちょっとした観光スポットとしても用いられる。ビーチで肌を焼きに来たり、釣りを楽しむ者の姿が見えた。


「なんというかアレだね。バカンスって感じだ」

「あんたは肌焼いたりしねえの?」

「どっちかっていうと釣りかな。ぼーっと待つのが好きなんだ」

「我輩はどちらも苦手である。あえていうなら陽射しで死にそう」

「ンなもん着てるから暑いんだろうが、さっさと脱げこの!」

「や~め~て~! これがないと我輩のメンタルが死んじゃう!」


 ぐいぐいと兜を引っ張られて必死に抵抗するクローディアを見て、シレントはくすくす笑いながら、ボンサックをぎゅっと肩に担ぎ直す。


「そろそろ行こう。陽が落ちたら海の遺跡の危険度があがる」

「おう。仕方ねえな」


 そうまでして脱がしたいのだろうか、とシレントが苦笑いを浮かべた。


 海の遺跡は海岸沿いを歩いた先にある。以前は神殿のように使われていたのであろう建物は入口の前を大きく二本の柱が倒れていて、その瓦礫を超えた先にある入口から入っていく。


 ダンジョン化した遺跡は入口を抜けた瞬間に内部が異空間となっており、外見からは想像もできないほどの広大なエリアが彼らの前に姿を現す。


 壁に埋まっている魔力を含んだクリスタルが輝いていて洞窟の内部は明るく、見通しが良い。その代わりに足場はがたがたで水たまりがいくつもあり、どこもかしこも濡れていて滑りやすい。


「これはまた広い……。深部へ向かう通路までが遠いのであるな」

「お前は来たことねえのか、クローディア?」

「水が鎧の中に入るとすごく不快だ、海に近いダンジョンには来ないのである」


 なんともまあ下らない都合だことで、とレアナは呆れて肩を竦めた。


「ところで、お二方。此処にはどのような魔物が────」


 棲息しているのか、と尋ねようとして背後から飛んできた何かを容赦なく斬り捨てた。地面に転がったのは人間ほど大きなコウモリだった。


「……えっ、こわい。こんなのがいるとは」

「今のを斬り捨てる判断ができた君も怖いよ、おじさんは」


 的確なタイミングで飛んできたコウモリを撃墜。鎧にかすり傷ひとつ付いていない。クローディアは剣を鞘にしまいながら、不思議そうに首を傾げた。


「我輩は普段通りの仕事をしたのだ。この聖剣が握っているだけで勝手に動いてくれる。代々伝わる家宝であると父から冒険者になったお祝いに貰った」


「ンな刃毀れしまくってるボロボロの剣が? 折れちまわねえか?」


 今にも折れそうなガタガタの剣。大型のコウモリくらいなら魔力を込めて斬れば倒せるだろうが、白金級ともなると特異な魔物たちも相手にする。竜のウロコや牙にぶつかれば、簡単に折れてしまうのではないかと心配になった。


 クローディアは自信たっぷりに胸をどんと張った。


「当たり前だ、これはどんなものでも斬り裂けるのだぞ。さきほどのコウモリ程度、何匹来たところで我が刃が朽ちることはない。ないのだが────」


 太い手足のあるサメのような生き物がぎらりと虚ろな瞳で獲物を見つける。クローディアはあっという間に立ったまま気絶してしまった。


「とんでもねえビビリじゃねえか」

「ハハハ。こいつって見た目怖いもんね。デカいわりには弱いけど」


 のっしのっしと走ってきて大きな口を開く。獲物に食らいつこうとする本能的な行動。斧の一振りで、バラバラに吹き飛んだ。ぶよぶよとした体と細く脆い骨。硬いのは牙くらいなものであるがゆえに相手にもならなかった。


「おい。起きろって、毎回これだとたまんねえぞ」

「……ハッ!……すまない、えばったところで本来は小心者ゆえ」

「見りゃ分かる。頼むぜ、マジで」


 次から次へと、血の臭いに誘われて魔物たちがやってくる。しかし、死体には目もくれない。彼らが狙っているのは生餌。魔力を多分に含んだ良質な餌。つまり、人間だ。魔物同士での争奪戦が始まろうとしていた。


「二人共。楽しく話す時間はおしまいだ、戦闘準備」

「わかってら。任せときな、片っ端からぶっ殺してやる」

「我輩、ちょっとお腹痛いかもしれない」


 一斉に飛び掛かって来た魔物たちは、互いに邪魔をしあいながらシレントたちを喰らおうとする。金級ダンジョンの魔物は総じて体が大きく成長しており、どの個体も、多くの冒険者たちを苦戦させてきた。


 だが、レアナは白金級。次から次へと斧を振り回して軽快に駆け、跳ね、どんどん仕留めていく。クローディアも気分が悪そうにしながら、生き残らねばと剣を振るう。どちらも白金級の名に違わぬ戦力として魔物たちを駆逐する。


 ところで、シレントはといえば、あまりにやることがないので、ベストの胸ポケットに入れていた煙草に火を点けて、一服しながら眺めた。


「う~ん、金級だと二人が強すぎて僕は暇だな」


 そう言ったのも束の間。背後から忍び寄って来た黒い大きな蜥蜴の魔物が這いよった。シャドウゲッコーという姿を消せる種で、ギルドでも稀に討伐依頼が出る程度には危険な魔物だ。壁や天井を這って音もなく近付き、背後に迫ってゆっくり口を開けて隙を狙う。ひと息でシレントを丸のみしようとして────。


「へえ、珍しいな。海の遺跡では滅多と見ないレア魔物じゃないか」


 ボンサックで頭上から思いきり殴りつけた。あらゆる荷物が入って重量を増した魔法のバッグは、その威力も当然、重量とシレントの膂力に依存する。シャドウゲッコーの頭部は深くへこみ、地面へ強く叩きつけられると沈黙した。


 そのままシレントは座って、またゆっくり煙草を吸い始める。


「シレント! 結構片付いたが、どうだ。稼げそうかな?」


「最下層だから微妙だね。シャドウゲッコーがいたから、コイツの尻尾は五万くらいで売れるよ。珍味なもんで、欲しがる人が多いらしいんだ」


 滅多と見かけないので食べる機会も少なく、味はシレントも知らない。珍味というだけで決して美味しいものでもないので、一度食べたら満足すると言われている。売値を聞くとレアナもニカッと笑った。


「そりゃいい、今夜の酒代ができた!」

「君は少し禁酒すべきじゃないか。飲み過ぎだよ、肝臓壊すよ」

「煙草吸って肺ぶっ壊してる奴に言われたかねえよ~だ!」


 どちらもやらないクローディアは、そんなやり取りに苦笑する。


「貴殿ら、どっちもどっちではないか?」

「なんだぁ、お前。まさか酒も煙草もしねーのか」

「興味ないのである」


 すっぱり切られると、二人もなんとなく気まずくなった。


「……あ~、なんだ。まあとにかくもう少し稼ごうぜ」

「そうだね。僕らのひと晩の食事代だけだと全然足りてないしね」

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