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最強パーティの専属荷運び人  作者: 智慧砂猫


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第71話 白銀なりし退魔の剣

「誰か、ルルを助けてやってくれ!」


 シレントがそう叫んで、ドルハダスに突っ込んでいく。ボンサックの中から取り出したのは大柄のナイフだ。魔力を通せば切れ味を増す。


 その隙にヴァーリーが転がったルルを抱きかかえた。


「治療するまで時間を稼いでくれたまえ、私がなんとか……」

「いえ、待ってください、師匠……!」


 全身に冷や汗を掻きながらもルルは自分の傷口に手を押し付けて炎で焼いた。


「治療なんか後回しでいい、あれを倒すのが先よ……!」

「わかった。ではせめて私の結界の中にはいなさい」


 両足がない以上、戦うことはできない。今はシレントたちが戦っているが、弱っている者から狙われてはどうしようもなくなる。球状の結界内部にルルを残してヴァーリーも戦闘に加わった。


 だが、いくら打ち込んでも。斬っても。突いても。魔法を叩き込んでも、ドルハダスの身体にはほとんど傷がつかない。ついには、アルバートの衝撃を貫通させる打撃までも、ほとんど通らなくなり始めた。


「いやはや、抵抗が激しいってのは嬉しいねえ。俺ひとりのために何人が死ぬ気で戦ってやがるんだって話よ。なにしろ格が違う。なあ、そうだろ」


 ドルハダスは鉄球をパッと手から落として、無抵抗に全員の攻撃を受けた。微動だにせず、レアナの斧すらほとんど切れていない。


「お前らは確かに強くなった。そりゃすげえもんさ、以前ならもう全員死んでる。だがひとつだけ勘違いをしてるぜ。頑丈なのは魔族共通だ。じゃあ、さっきから魔力ひとつで鉄球を振り回してるのが俺の能力か。いいや、違うね」


 傷が再生すると同時に、喰い込んだ斧や僅かに刺さった槍が押し返されていく。ぎょっとして咄嗟に全員が離れ、体勢を整えて様子を窺う。


「俺は戦えば戦うほど、攻撃を受ければ受けるほど耐久力が上がる。生半可な攻撃じゃ、もう倒せねえんだよ。初っ端でデカい技叩き込まなかったのが失敗。なあ、レアナ。首を落としてりゃ違ったのによ」


 はあ、と笑顔で大きなため息を吐く。


「終わりだ。これ以上戦ったところで俺には傷もつけらんねえ」

「……僕はそうじゃないと思ってるよ」

「あ? ンだよ、まだやれることがあんのか、シレント?」


 くすくす笑って馬鹿にする。最も切れ味の鋭いレアナの斧ですら通らないのに、誰が自分を傷つけることができるというのか。何をしてくれるのやらと眺めていると、またしてもシレントがボンサックから引っ張り出した煙玉に顔を顰めた。


「目くらましばっかりじゃねえか。不意討ち如きでどうにかなるほど、もう身体は柔らかくねえぞ。眼球ひとつにしたって、龍の牙にも匹敵する硬さだ」


「やってみなくちゃ分からないさ。君を満足させられるかもな」


 煙玉が投げられる。ドルハダスは、それが足下に転がる瞬間に自分の周囲を囲む結界に閉じ込められた。ヴァーリーの張った強靭な結界の意図は分からない。だが、何か妙だと感じて鉄球をぶつけた。


「おっと、諦めたまえ。私の魔力を相当ぶちこんでる。力自慢の君とはいえ、そう簡単には壊せないだろう。君は攻めよりも守りに特化してるはずだ」


「スカしたヒゲして偉そうに。そうだとしても俺をどう殺すんだか」


 完全に煙に覆われて、何を見せてくれるのかと期待していたとき、ふと違和感に気付く。誰も攻めてこないのは、まだ分かる。だが、なんの気配も感じないのだ。殺気以上に、これまでは魔力すら感知してきた。なのに、何も感じない。


(なんだ、まさか尻尾撒いて逃げたんじゃ────いや、違う)


 ヴァーリーの張った結界が外部への感知を遮断している。視界を奪い、気配まで消しておきながら攻めてこない。奇妙な感覚に襲われ、ドルハダスは鉄球をなんどもぶつけて跳ねさせながら瞬時に結界を破壊した。


 周囲を高速で回転させた鉄球の巻き起こす風が煙も吹き飛ばす。


「────ハッ。なんだよ、そいつは」


 目の前にいたのは、クローディアだ。剣を高く掲げて聖剣に魔力を籠めている。供給源はひとりではない。シレントが、ヴァーリーが、レアナが、シャーロットが、ルルが。全員が、魔力を聖剣に注いでいる。異様なまでの輝きは雲さえ衝き抜け天へと届く。ドルハダスは思わず見惚れてしまった。


『余と戦うには、貴公は弱すぎる』


 思い出したくもない思い出に、思わず笑みが溢れた。

 クローディアが騎士だったからか、その姿がゼロに似ているからか。


「ちっ、結局お前さんには勝てないままだったな」


 白銀の輝きを持った刃が振り下ろされる瞬間、ふと浮かんだ顔。

 誰よりも気高く、美しく、強い者。憧れ、敬い、愛した女の顔だった。


「うち滅びよ!────《白銀なりし退魔の剣(デュランダル・レイ)》!」


 聖剣の刃にドルハダスは真正面から挑んだ。全身全霊、全ての魔力を込めて鉄球にまとわせて、己が拳のようにぶつける。


(わかってる。勝てるはずがねえ。だとしても────)


 止めきれない。大地が砕けていく。踏ん張れば踏ん張るほど、全身が悲鳴をあげる。なのに、表情は晴れやかで、豪快で、満ち足りていた。


「いいねえ! 殺し合いってのはこうでなくちゃなあ!」


 まっすぐ衝き抜けた聖剣の輝きに呑まれる。インサニアをダンジョン化させている結界がひび割れ、都市全体に衝撃波が奔った。一帯を更地に変え、ダンジョンそのものを半壊させてみせる。────ドルハダスは、まだ立っていた。


「なんという怪物か、吾輩の聖剣のフルパワーでもまだ……!?」

「いや、よく見るんだ。もう彼に戦う力は残ってない」


 そうだ。シレントはすぐに気付いた。彼は立っているのが精いっぱいだ。今にも倒れそうな体をなんとか支えているだけで、鉄球は消えさり、残っていた腕さえもズタズタの満身創痍。決着はついた。


「……なんでえ、トドメを刺せよ。カッコつかねえだろうが」


 ぐらりと巨躯が揺れて膝を突く。全員で力を合わせたことで余力のある面々とは逆に、ドルハダスには自分の身体を守る魔力さえ残っていない。


「僕らは殺す気で戦ったが、生きているなら殺しはしない。決着はついた」


 シレントの思想に従って、全員が決着した以上、戦う理由がなくなった。


「そうかそうか……。甘い連中だ、そういうところは嫌いじゃねえよ。だとしても俺は死ななきゃならねえ。いや、死にたい。もう満足しちまった」


 どすんと仰向けに倒れて、くくっ、と自虐的に笑う。


「五百年も、俺は執念に取り憑かれた。戦って死ぬ。それだけが俺の生きがいだ。殺す愉しみは十分すぎちまって、あとは死ぬ愉しみだけが残った。俺はこの本能を否定しねえ。それでも殺さねえってんなら好きにしろ」


 目を瞑り、大きく息を吸い込む。


「寝る。────後は任せとくぜ、ヴォリーダ」


 空から降って来たもうひとりの魔族。ドルハダスの前に降り立ったそれは、包帯によって遮られた視界でも正確に敵を全員、視ていた。


「ご苦労だった、ドルハダス。次の試練は手厳しくいくとしよう」

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