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最強パーティの専属荷運び人  作者: 智慧砂猫


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第7話 騎士




 帰還した後、事態を全てギルドに伝え、傷ついた冒険者たちは治療師の手で無事に回復することができた。それでも、初めての冒険で支配種に襲われるという命の危険は記憶に強く刻まれ、トラウマとして残り続けるだろう。冒険者として生きていくのは難しい。実力のある冒険者でさえ、そうなることがあるのだから。


 ゴブリンの巣窟はしばらくの間、厳正な管理のもとで封鎖。解放は今後、定期的な調査で支配種が現れる傾向が見られなかった場合に限るとされた。


「────新規の冒険者の募集を一時停止だってよ。今後の安全の見極めができるまでは難しいだろうな。新人冒険者に関しては契約で銀級までは安全を保証すんのがギルドの方針だったから」


 レアナが新聞を広げ、窓辺でコーヒーを飲みながら話しかけた。


「僕は賛成だけどねぇ。いいタイミングだったんじゃない?」


 大量の洗濯物を庭に干して、シレントはぐぐっと体を伸ばす。


「元々、最近は冒険者の数も増えすぎてたろ。そのせいで、魔物から手に入る素材の価値も落ちてて稼ぐのが難しかったらしいよ」


「ははあ、なるほどねぇ……」


 強くなれば済む、という話でもない。冒険者として食べていこうと思えば、日銭を稼がねばならない。ともすればダンジョンの探索に行くしかないのだが、青銅級では行けるダンジョンの多くに制限が掛けられている。


 昇級試験を受けるにしても腕が追いついていないので、ゴブリンの巣窟で耳だの飾りだのを集めて、少しずつでも戦闘に慣れを生む必要があった。


 素材は供給過多となり、買取はしてもらえるものの低価格となってしまう。昇級試験を受けたとしても、いきなり銀級のダンジョンに入って命を落とすか、あるいは幼子のように泣いて逃げ帰るかのどちらかが殆どだ。


「これからは冒険者になる前に、多少の審査はした方がいいかもしれないね。何時間も狩り続けて集めた素材や装飾品が、その日の夕食分にしかならないなんてあんまりだろ? ギルドはそのあたりのサポートする気ないし」


「そりゃ、いちいち育成にまで金積んでたらギルドも負担がデカいだろ。稼ぎ頭が銀級でも三つ星以上。しかも金級、白金級はなおさら少ないんだぜ」


 真面目で退屈な雑談に飽きたレアナが、コーヒーをぐいっと飲み干す。


「新人の連中なんざ苦労して当然だ。私らが必死になって歩いた道を、そう簡単に追いつかれてたまるかっつの。……で、今日はどっか行くか?」


 ロード・ゴブリンの討伐から一週間。仲間を募るためにギルドで告知を行ってもらっている間は、探索および依頼の受諾ができなかった。今日は募集最終日で、午後には終了するので、レアナは出掛けたくてうずうずしていた。


 しかし、シレントにその気はまったくない。いつになくキリッとした表情をして「駄目だ」とたったひと言で済ませてしまう。


 当レアナは納得がいかない。冒険者たるもの、探索に出かけてこそだと訴えたが、シレントはそれでもさっぱり首を縦に振らなかった。


「まずは家の片づけ。この一週間、まだ綺麗になってないじゃないか。自分たちの拠点がこのありさまだと、他の子を迎えられないだろ?」


「言い返せねぇ……。わぁーったよ! 私の部屋は綺麗にしとく!」

「ん。他は僕が片付けてあげるから、それくらいは頑張って」


 我が子を持てば、こんなふうなのだろうか。文句を言いながらも笑って片付けに向かうレアナに、気持ちは晴れ模様だ。少し前にパーティをクビになったのも、この出会いのためだったのかもしれないと忘れてしまうことにした。


「たのも~~~ッ!」


 突然、敷地の外から大きな声がする。どこかノイズ混じりな男女どちらともつかない声を聴いて振り返ると、黒い甲冑に身を包んだ騎士が立っていた。


「こんにちは。入っておいで、何かうちに用かな?」


 律儀に小さな門扉の前で待っていた騎士は、手招きされると門をそおっと開けて、そおって閉めてからシレントのもとへ小さく駆けた。


「我が名はクローディア・セクエンス。こちらで銀級以上の冒険者を求めていると聞いて足を運ばせてもらった。貴殿がレアナ殿であるか」


「僕はシレントだ。レアナのパーティで荷運び人をしている」

「……荷運び人。フム、それでレアナ殿はどこに?」


 興味なさそうにされてしまい、シレントは苦笑いを浮かべる。世間的には荷運び人などその程度だ。いても空気か、あるいは邪魔者扱いされるのが日常。腹が立たないわけではないが、もう慣れたものだった。


「ンだよ。うちになんか用か、そこの甲冑は」


 バルコニーで毛布を天日干ししようと運んでいたレアナが、ひょこっと顔を覗かせた。見下ろした騎士をジッと睨みつけ、不服そうに舌を鳴らす。


「帰ってもらえ。私の相棒に対する態度がなってねえ」

「ム! 我輩の態度が問題と申すか。ただの荷物持ちであろう?」


 その言葉が気に入らなかったレアナは、毛布を干すのをやめて戦斧を手に、バルコニーから飛び降りた。猛獣のように静かな怒りを瞳に秘めて。


「お前、なんのつもりでここに来てんだ。茶化しにきたんなら殺すぞ」

「……できもせぬことを言うでない。道具に使われて偉くなった気か?」


 騎士が剣に手を掛けた瞬間、シレントは静かに動いた。剣を抜こうとした手を押えて、残念なものを見る眼つきでぼつりと言った。


「やめときなよ。暴力で解決するほどのことじゃない」


 ぴくりとも動けない。騎士は驚きに息をひゅっと短く吸い込む。


(荷運び人……これが荷運び人!?)


 軽く押さえられているだけで剣も抜けず、嫌な汗すら滲んだ。


「はい、終わり。分かったならお互いにごめんなさいをしよう」

「シレント……。馬鹿にされたのはお前なんだぞ?」


「ハハハ、良いんだって。僕はそのことで勝手に喧嘩される方が嫌だよ。馬鹿にされたり相手にされないことよりも、ずっと惨めな気分になる」


 窘められてレアナも苛立ちを呑み込んだ。


「……わりぃ。私が怒りすぎた」

「我輩もだ。たかが荷運び人と侮っていたが訂正しよう」


 まだ頭を下げようとしないので、さすがにレアナは斧を置きつつも、騎士の兜をガシッと掴んで脱がせようとする。


「謝るときくらい兜脱げ、それが礼儀かテメー!」

「ぬっ、ぬああ……!? やめろ、脱がすな! これがないと────」


 すぽんっ、と脱がされた兜の中身は、シレントもレアナも目が点になるほどの美少女だった。凛々しい顔つきながら臆病で、兜の中でまとめていた髪がふわっと流れる瞬間のさらりとした動きには目を奪われた。


「かっ、返してくださいぃ……! それがないと駄目なんです、私……!」


 涙目で訴えられるとレアナは持っていた兜を被せた。


「我輩は……その……気が小さくて。少しでも舐められないために顔を隠して、堂々としておるのだ。先ほどの無礼は深く詫びる故、どうか配慮頂きたく」


「悪いけど、もう話が入ってこねえよ」

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