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最強パーティの専属荷運び人  作者: 智慧砂猫


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第6話 切っ掛け

 最深部での大暴れは血の海をつくり、あまり飛び散らないようにゆっくり踏みしめるように歩く。ボンサックの中は特別な空間になっていて、状態が保存される仕組みになっているから急ぐ理由もない。


 ロード・ゴブリンが出現していた証拠に大きな指を切り落とす。


「上位ダンジョンじゃ支配種なんてよく見かけるけど、こんな初心者向けのゴブリンの巣窟でも湧くとはね。ダンジョン化の影響は大きいのかな」


「だとしても、あの小賢しさは金級案件だろ。弱い分マシだけどよ」


 巨大な図体を踏みつけて、レアナは眉間にしわを寄せた。


「これじゃ、しばらくは安全が確保されるまで封鎖だな」

「仕方ないさ。今回は僕らが早くに処理できて良かったと思おう」

「そ~だな。これでちったあ報酬もデカくなってるといいんだが」


 巣窟からの帰り道は静かだ。本来はダンジョンから外部へ魔物が出ることはないが、ゴブリンやコボルトなど、一部に限ってはそうではない。すっかり逃げてしまって、今はシレントたちが巣窟の支配者だった。


「ゴブリン、いないね。あまり森をウロつかれるのも良くないんだが」


「大半は殺しちまったから、せいぜい数十匹だろ。森は広いし、来るのは冒険者ばっかりだ。そのうちいつも通りになる。それより聞きたいんだけどさ、」


 なんとなく、申し訳くなってレアナが尋ねた。


「私がお前の命令を無視して突っ込んだこと、怒ってねえの?」


 人質がいる状態での突撃はハイリスクだ。上手くやれる自信がレアナにはあったし、失敗するはずがないと確信した行動だが、責められてもおかしくない。以前までの仲間ならば執拗に叱責してきたことを、シレントは咎めなかった。


 それどころか、そんな事実がなかったかのように普通に振る舞っていた。


「え? あぁ、うん。別に上手く行ったならいいんじゃないか?」


 結果的に上手くいった。なら、その行動は正しかった。シレントは、それ以上に何を考えればいいのか分からない。


「上手く行かなかったときのことを考えて臆病になったら、それこそ失敗するだろ? でも君は、確実にできるという自信があって突っ込んだ。なら、僕の考えよりは正しかったってことさ。おじさん、歳だけ重ねて冒険者としては二流だから」


 自虐的で楽し気な顔。なんの曇りもなく、本心からそう思っているのだと分かる。優しさと甘さを詰め込んだ性格の男に、ぽつりと尊敬の念が浮かぶ。


「あんたが相棒で良かったよ。なあ、名前で呼んでもいいか?」

「もちろんだ。僕もそっちの方が嬉しい」

「おう。これからどんどん呼ばせてもらうぜ、シレント」

「はは、こそばゆいけど良いね。若い子に名前呼んでもらえると」


 ジーンズのポケットに手を突っ込んだ瞬間、斧が道を塞ぐ。


「煙草は身体に悪いぜ、シレント」

「ははは……そっちは許してくれなかったかぁ」


 こりゃ目を盗んで吸うしかない、と煙草をポケットに戻す。

 いくらやめようと思っても酒より融通が利かない相手なのだ。


「どうしてそんなに嫌がるんだい。もしかして煙たいのとか、臭いが?」

「親父がよく吸ってたのを思い出すんだよ。ムカつく親父をな」

「あぁ、そういう……。お父様は煙草のせいで病気になったりとか」

「まさか。毎日、咳き込みながら吸ってるよ。やめりゃいいのに」


 父親の話をするレアナの表情は苦々しく、どうにも深入りしない方が良さそうだとシレントは距離を取るように話題を変えた。


「帰ったら仲間を募集しないとね。僕は銀級だけど、レアナはどのラインから戦力を求めたいと考えてるんだ?」


「最低ラインで金級だな。だけどシレントもいるから、やる気があるなら銀でもいい。まあ、私がいて組みたいと思う奴なんざいないだろうが」


 あまり表立って誰も喧嘩を売らないだけで、素顔を知らずともレアナはギルドの厄介者として冒険者の間で知られている。なにしろ毎回、方針の違いで揉めては一匹狼に戻りを繰り返しているのだから。


 それも今回で終わりそうだなあ、とシレントを横目に見た。


「じゃあ、帰ったら募集の告知を受付に頼んでおこうか。白金級だともうパーティを組んでる人も多いかもしれないけど」


「いやあ、逆だ。白金級はむしろソロの方が多い。癖が強いんだよ」


 才能を如何なく発揮したうえで、強さを求めて貪欲なまでに努力を積める者こそが白金級に至る。いわば戦闘マニアばかりが集まった階級であり、パーティに所属する概念を持つ白金級の方が少ない。


 だからこそ同じ階級を求めれば、ソロ冒険者は興味を覚える。どういう人間なのか。どれほどの強さなのか。なぜ仲間を求めるのか、と。


「連中にも私のヤンチャっぷりはうわさになってるだろうけどな!」


 悪行とまではいかないものの、レアナと組みたがるかどうか。

 それでも彼女は図々しく笑い飛ばした。


「必要な縁は必要なときに結ばれるものだよ。君が誰かを探すってことは、君と縁を求めてる誰かがいるってことだから大丈夫さ」


「……おお、なんかそれっぽいこと言うじゃねえの」


 バシバシと肩を叩いて軽快に讃える。

 シレントも仄かな照れ笑いを浮かべた。


「そういやあ、シレントはなんで荷運び人を?」

「え。う~ん……。たくさんの人に笑ってほしかったから、かな」


 ふと尋ねられた切っ掛けについて、シレントは恥ずかしそうに語った。


「最初に受けた仕事は18歳の頃でね。親父の跡を継ぐみたいに、僕もダンジョンへ潜って冒険者に薬を届けたりしたんだ。そのときに『ありがとう、君のおかげでまた頑張れる』って声を掛けてもらってさ。良い笑顔だったんだなあ。そのときから僕は皆に笑顔を届ける仕事だって胸を張れた。だから今がある」


 些細な切っ掛けだ。それでも、ときには遺品や遺体を運び、涙をみることもあった。だが、帰る手段を失ってしまった遺品、遺体を連れ帰った後の遺族は泣き崩れると同時に『やっと帰ってきてくれた、あんたのおかげだ』と感謝を口にする。それが、自分の行いは決して間違っていないと確信させた。


「荷運び人は確かに、多くの人から見ればただの荷物持ちなのかもしれない。でも、そんな仕事でも誰かを笑顔にして、誰かの悲しみを僅かでも癒せると思ったら、僕にはこれより良い仕事なんてないって感じちゃうんだよね」


 話しているときのシレントは、年齢よりもずっと若く映った。これが天職という奴なのだろうとシアナも話を聞いて深く納得するほどに、眩しい笑顔だった。


「んじゃあ、荷運び人を頼りにしてくれる良い仲間を見つけるとすっか!」

「これは嬉しい提案だな。君が認めてくれてるんだ、それで十分だけどね」

「馬鹿言うなっての。そういう良い仲間ってのは多い方が楽しいんだからよ」

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