第68話 想いを背負って
みんなで撮影するための第二舞台はドルハダスとの戦闘で壊れたままだった。町の崩壊した今、復興に忙しくて戦ってなどいられない。闘技場は家を奪われた人々や怪我人などを迎え入れるシェルターの代わりだ。修理する暇はなかった。
痛々しい姿はトラウマすら蘇りそうな場所で待っていたシレントたちに、続々と合流する。ヴァーリーとレオ、ルル。クローディアにシャーロット。エッセレもやってきて、皆で二列に並んだ。前列は屈んで、記録魔石を持ってきた机に置いてシャーロットが起動して準備する。
「皆さま、よろしいですか。一分間の記録になります。試作品なので長時間は不可能だそうで……。皆、ニッコリ笑ってくださいよ~!」
記録魔石に魔力を充填する。刻まれた印が光り、全員を薄っすら照らす。
シャーロットがぱたぱたと駆けて目の前でつまずきそうになるのをグレンが支える。あまりに整った顔と無口な彼を見て、顔が赤くなった。
「すすす、すみません! タイプだったので……じゃなかった、疲れていてつまずいてしまって。ご迷惑をお掛けしてしまいました」
「気にしなくていい。それよりもう撮ってるんだろう、並んで」
これはこれは、と皆が興味津々に二人を見つめる。シレントの腕をレアナがぎゅっと掴んで「あっちだけずるいだろ」と対抗意識を燃やす。
ルルはヴァーリーとレオの腕を抱いてぎゅっと親子のように引き寄せた。
「おやおや。私は蚊帳の外のようだね、残念」
アルバートが肩を竦めると、両サイドをクローディアとエッセレが埋める。
「両手に花というのは悪くないのではないかね、アルバート殿」
「ほらほらお爺ちゃん、ぴーすですよ、ぴーす!」
「ハハ。これでは介護されているような気分になってしまうんだが……」
そんな光景にみんなで笑って。楽しい一分は、ほんの一瞬だった。
映像を記録できるのは最初の一度だけ。そのあとはいくら魔力を込めても、記録したものが再生されるだけだ。繰り返し見ては笑って、明日には死ぬかもしれないのに楽しく過ごしていた。
シレントは、それが申し訳ない気持ちでいっぱいだった。もっと努力ができていれば。対話ができていれば。決断が早ければ。あらゆる視野でみたときの自分の優柔不断で怠惰な性格が仇になっているのだと分かる。
「なに辛気臭い顔をしとるんだ、お前は」
「ヴァーリー。大体察してるだろ、似たような歳なんだ」
「察したくもないが?」
「お前な……。まあいいよ。今日が会うのも最後の人がいるのかなって」
「その台詞は私やレオのものだろう」
やれやれと小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「死地へ行かない人間にとって、この記録がどれだけ残酷になるか。考えたこともないだろう。君たちは武人で、我々は君たちの勝利を祈るだけの一般人だ」
「言われるとキツいな……」
「だからこそではないか。まったく昔から馬鹿な男だな」
ばしっと背中を強く叩いて、ヴァーリーは彼を励ました。
「ならば生きて帰ってきたらいい。それだけのことだろう。────全員、生きて帰れるように最善を尽くせ。お前にはできることだ、違うか?」
無茶なことを言ってくれる、と思いながらも拳は固く握られた。
「ああ。頑張ってみるよ」
ひと足先に舞台を後にして、シレントは少し風に当たりに外へ出た。
闘技場の周辺は助けを求めた市民たちが暗い顔で座り込んでいたり、会話もなく焚火の前で寄り添い合っている。端には、遺体を包んだ袋がいくつかあった。もう何人も精神的なストレスで体調を崩したり、そのまま亡くなったりもした。
「酷い有様だろう」
声を掛けられて振り向くと、隣にはグレンが立っていた。
「俺の弟も死んだ。あちらに積まれた死体袋のひとつがそうだ」
「そうか、君は弟を……。魔族が憎いのか?」
「いや。なんとも思っていない。弟とは仲が悪かった」
視線は死体袋に向いていて、仲が悪かったわりには悲しそうな顔だった。
「本当に何も思わないのか。大事な弟だったんだろ」
「もっと言葉が交わせていれば違ったのか、と思うことはある」
淡々と。グレンは普段よりも口数を多くして言葉を紡ぐ。
「俺は言葉足らずで、弟はひと言多い性格だった。それゆえに俺たちは仲が悪く、弟が家を出たときには捨て台詞のように『あんたのせいだ』と言ったんだ。だが、結果はあれだ。魔族のせいではない。俺たちの関係が悪かった。ひとえにそれが原因でしかない。殺されたのは結果論だ、興味もない」
考えても、いまさら死んだものをどうしろと言うのか。グレンは後悔をしながらも過ぎてしまったことをあまり深く考えなかった。
「だが、ひとつだけ。この背負った罪を軽くしてくれるのなら、俺はお前を信じたい。本当に魔族たちと戦って、彼らを説得できるのであれば」
「……どうかな。確実な約束はできないよ。状況はややこしいからね」
議会派率いる軍勢を止めるのは不可能だ。彼らが辿り着くまでにゼロたちを説得する。もしそれが叶わなければ、戦うしかない。そのうえで勝利して議会派の貴族たちを黙らせるだけの交渉材料として生きていてもらわねばならない。
条件が厳しすぎる。そう言わざるを得なかった。
「だけど、僕たちに任せてくれ。駄目だったとしても、せめて彼らを倒すくらいはしてみせるさ。その代わり、君こそ町を頼むよ。魔物の襲撃は防げない」
「分かっている。エッセレ嬢が既にあちこちを駆け回ってくれた」
さすが手の回し方が慣れてるなぁと感心する。伊達にギルドの受付嬢をしているわけではない。そのうえ、戦闘要員としても十分過ぎる。あれほど有能な人間をスカンダリに売ったギルド上層部の目は節穴だなと笑った。
「さ、僕はそろそろ休むかな。あまり見ていると不安になってくるから」
「そうした方がいいだろう。俺と会うのはこれが最後だ、武運を」
「ありがとう。そっちこそ、都市の防衛は任せた。……じゃあ、また」




