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最強パーティの専属荷運び人  作者: 智慧砂猫


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第27話 毛嫌いの理由

 貴族のパーティなどまっぴらごめんだ。レアナの価値観において触れたくもない階級の人間たちには間違いない。だが、仲間たちに反抗してまで全員を危険に晒す行動はしたくない。諦めて出席の意向を示すことになった。


「それで、誰に伝えるんだよ。ギルドの受付にでも言えばいいのか」

「そのことで我輩から、まだ伝えていないことがあるのだが」


 殆どあげていないようなクローディアの手が僅かに主張する。


「パーティのみ、今年は繰り上げて今夜から二日間するらしいのだ」


 クローディアがおずおずと口にする。


「はあっ? じゃあなにか、これから私らは王城に向かわなきゃいけないってこと。夜までにドレスを仕上げてバカ騒ぎする阿呆共に合わせてこいって?」


 怒気のこもった言葉を中和するようにルルも口を挟む。


「ひと晩でドレスなんて無理ね。それにアタシたちは冒険者だわ、そのまま行けばいいんじゃないかしら。彼らに合わせる理由もないんだし」


 うんうん、と肯定が広がる中、クローディアが反対意見をだす。


「そうはいかん。他の上流階級はともかく、相手は皇太子殿下だ。ドレスコードを守らないのは、招いた皇族への侮辱とも取られかねんだろう」


 ふう、と虚無感たっぷりの息を吐き、さらに重ねて言った。


「ただでさえ冒険者など稼ぎがあろうとも、彼らにとっては貧しい平民の職業だ。我々の態度次第で首を刎ねられては困る」


 尤もな意見には閉口して、じゃあどうするとレアナは首をさすった。


「だからって夜までに私ら全員分の服を用意できねえだろ。無理難題を言ったところで、あっちの都合は変えらんねえし……」


「それならわたくしに任せて頂けませんか?」


 シャーロットがニコニコと胸に手を当てて言った。


「お時間を頂ければ、わたくしが事情を理解していただけるよう伝えてまいります。シレント様には助けて頂いた恩もありますからね」


「あれは僕も助けられた側だけど……まあ、何かしてもらえるなら?」


 シャーロットが何を言いたいのかが、とんと分からない。

 その手段を知っているのは、付き合いの長いルルだけだ。


「皆、知らないみたいだけどシャーロットは貴族よ。ベイリー伯爵家ってあるでしょ。五百年続く名家のご令嬢。普段は身分を隠してるだけ」


 ルルのつぶやきにクローディアがいち早く反応する。


「〝始まりの貴族〟ではないか。なるほど、ベイリー伯爵家とは、名を知ってはいたが、まさかそれが冒険者をしているとは思うまい」


 ベイリー伯爵家をはじめとする三大家門。五百年前、大地が枯れたとき、その中心となって皇族の下で復興に励んだことから、始まりの貴族と呼ばれていた。


「ンだよ、お貴族様が道楽で冒険者してたってのか?」

「違います。わたくしにはどうしても叶えたい夢がありますから」


 箱をどかす仕草で、シャーロットは話を戻す。


「とにかく、本題に帰りましょう。わたくしの身分は皆さまの武器となります。わたくしであれば謁見も難しくはありません」


 今回ばかりは甘えさせてもらおうかと話は纏まったが、レアナはいたずらを叱られた子供のように不機嫌な顔で、目も合わせない。そんな無礼もシャーロットは堂々と気にも留めずに、ひと足先に王城へ向かった。


 まだ陽が落ちる時間でもない。猶予はたっぷりある。


「ねえ、アタシたちはどうする?」


 ルルは空いた時間を有効活用したい。パーティの中で最も弱いのは自分だという自覚から、もし特訓をさせてもらえるならと期待が顔に浮かぶ。


「我輩が稽古をつけよう。レアナ殿は……」

「私はパスだ。散歩してくる」


 手をひらっと振って立ち去っていく。先日とは打って変わっての態度の変わりぶりに違和感を覚えたシレントは彼女を追うことにした。


「二人とも、悪いけど稽古していてくれ。夜までには戻るから」


 そう言って小走りに追って横に並び、顔を覗き込んで心配そうに尋ねた。


「やっぱり変だ、レアナ。踏み込むなと言われたばかりだけど、シャーロットは何も悪くないだろ。理由を言わなきゃ擁護のしようもない」


 不機嫌に巻き込んだのはわかっている。レアナは黙って歩いた。


 しばらく、そのまま。向かったのは中心部から離れてあるひっそりした住宅街。入り組んだ迷路のように複雑な道は、狭い住宅が密集していて何枚もの扉が頭を混乱させそうな光景だった。


 レアナは迷わず進みながら、一軒の家の前で止まった。


「嫌な思い出ってのは蘇るもんでさ。聞いても良い気分にはなんねえぞ」

「覚悟はしてる。良い話ならあんな顔しないだろ?」

「……ほんっとに、良い性格してるぜ。なら来いよ、入ろうぜ」


 玄関を開けると鼻を衝くカビの臭いがした。湿気を孕んだ埃と混ざっていて、酒の臭いまで漂ってくる。床に散乱したビンは一本たりとも片付けられておらず、入ってすぐにあるテーブルに突っ伏した男が紅潮した顔をあげた。


「ただいま、親父。まだ酒浸りか?」

「おぉ、レアナ……。ようやくお前も結婚する気になったか」

「馬鹿言え。私の男には違いねえが、そりゃ仲間でって意味だ」


 酔っぱらった男は残念そうに肩を落として、握りしめた酒のビンをひっくり返す。一滴残っていただけで、それを床に投げて転がす。


「じゃあなんだ、稼ぎでも持ってきてくれたのか」

「部屋を片付けたら金をやるよ。それくらいでき────」


 急に立ちあがり、鬼の形相で娘の肩を掴んだ。


「ふざけんな! あの女みたいに小言でも言いに来たのか!? 大体、まだ冒険者なんかしやがって、そのうち男を作って出て行くんじゃないだろうな! あの貴族の男みたいに、俺の女を掠め取って……ううっ……!」


 膝から崩れ落ち、さめざめと泣いた。そんな父親をレアナは蹴り飛ばす。


「退け。片付けられねえなら金はやらねえ。十分に生活できる分を置いていってやったのに、酒なんぞに使いきった馬鹿のために払うもんはねえよ」


「くそっ……くそっ……! 好きでこうなったとでも言いてえのか!」


 そりゃそうだろ、と呆れて言葉も出てこない。ただ、どうにかなりそうな胸に湧き上がる黒い感情を抑えるために、シレントの手をぎゅっと握った。


「行こう、シレント。様子見に来ただけだから」

「あ、ああ……」


 見てしまった。知ってしまった。

 なぜ生活が壊れたのか、想像に難くない。


「念のため聞くが、本当に僕が知ってしまって良かったのか?」


 家を出て、帰り路を歩く間もレアナは手を握ったまま、少し震えていた。


「いいんだよ。誰かが知ってくれてた方が。それがお前で良かった」


 そう言って、自らの過去を切り出す。勇気を振り絞って。


「……うちのおふくろはさ。貧乏な生活が嫌で、親父も私も捨てていきやがったんだよ。結果が見ての通り。挙句、私には暴力を振るうようになった。おふくろに似てるのが気に入らないんだとよ!」


 けらけら笑っているが、無理をしているらしく、引き攣っていた。


「それで、君の母親は今も?」


 レアナが静かに首を横に振り、寂しそうに────。


「死んだよ。雪の降り積もる寒い日に、路地裏で裸にひん剥かれた状態で。元々が娼婦だ、金に汚いのもあったし図々しい奴だったから、逆鱗に触れたんだろ。そんで幸せそうな結婚生活に人生ごとピリオドさ」


 繋いだ手に力が籠められて、吐き気の催す記憶を必死に掘り起こす。


「殺したのは皇太子んとこの誰かだ。あの女が死んだのは自業自得だが、それでも思うのさ。腹立てて殺すくらいなら。最初から奪ってんじゃねえよって」

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