↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強パーティの専属荷運び人  作者: 智慧砂猫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/39

第28話 家族

 所詮は娼婦の娘。そういう境遇も仕方ないと受け入れている部分はあれど、子供のときはそれなりに幸せだった。父親の稼ぎは少ないけれど、よく笑う家庭で、嫌な気分になったりはしたことがない。母親が出て行く、そのときまでは。


 前兆はあった。最初は外出が増えたくらいに思っていたが、次第に帰ってこない日が続いた。そんなときは決まって泥酔していて、会話もまともにできない。


 不審に思った父親が尾行をしたところ、出入りしていたのは王城だった。そのあとのことを、レアナは幼いのに鮮烈な記憶として脳に刻み込まれていた。


「あの日から家の中は荒れっぱなしだ。おふくろは自分があたかも上流階級の人間みたいな態度を取り始めて、親父は精神的にぶっ壊れて酒浸り。よくある家庭崩壊の光景だよ。挙句の果てにくたばってるんだから笑えるよな」


 静かな暮らしの中にいたときは、そんな素振りをみせたことがなかった。お世辞にも美人だと言えない普通の女が金を稼ぐのに、娼婦は手っ取り早かった。冒険者たちにも貴族たちにも需要があり、金払いが良い客も多い。


 だから、結婚後は一気に貧しくなった。それは間違いない。窮屈だったのかもしれないのに、愛情ひとつで生きようと努力してくれたのは認めるべきところだ。認めたうえで、自分たちを裕福な暮らしと天秤に掛けたことは許せなかった。


 唆した貴族も、母親を奪って家庭を壊しておきながら、自分が気に入らなければ簡単に捨ててしまった。レアナの貴族嫌いが、そこに詰まっている。


 パーティに出席したくないと言い出したのも、シャーロットが貴族だと分かって態度を変えてしまったのも、全ては過去の経験がどす黒い感情を湧かせ、トラウマを刺激されたがゆえの反抗心だった。


「帰ったら謝っとくか。とくにシャーロットには」

「そうだね。でも、さすがにベイリー家の人間だとは思わなかったよ」

「ご令嬢様が冒険者になってまで叶えたい夢ってなんだろうな」


 興味はあるが詮索はしない。いつか自分から話してくれるまでは聞かなくていい。自分をさらけ出すのは簡単なことではないと知っているから。


「帰りに何かお詫びに土産でも買ってくか」

「近くに美味しいパン屋があるけど、どうだい?」

「ありだな。テーブルもなんも要らねぇしよ」


 外で食べれば、落ちたくずをシレントが掃除することもない。意見がぴったりあったところで、暗い気分は吹き飛ばして町を歩く。


「それにしても、あの親父さんを放っておいていいのか?」


 傍目に見ても生活の苦しそうな状態。うんざりしているのは分かるが、放っておけば餓死する可能性もあるのではないかと気になった。


 大げさにレアナは肩を竦めて、馬鹿馬鹿しくため息を吐く。


「働いてないわけじゃねえんだよ。でも休みになるとああなっちまう。他にやることがないからな。臆病な性格してっから、冒険者もできやしねえ。……それに、もう私がしてやれることはなんにもないんだ」


 金の援助をいくらしても、数日で使い切ってしまう。極めつけは、金を持ってこないと暴れはじめて、出て行った母親の面影があるレアナを激しく責めた。


「何やっても酒代に消えるんだったら渡さない方がましだろ。ああなっちまったら、もう家族でもなんでもねえ。私は今の暮らしの方が楽しいしな」


 ニカッと笑う姿が、寂し気に映った。最強の仲間を集めて、最強のパーティを作りたいなんて子供じみた夢を真剣に口にできる、その真意に気付いた。


「君は家族を作ってるのか?」


 ふいな質問に、レアナから表情が消えた。


「そんなつもりはねえけど」

「ご、ごめんよ。怒らせる気は、」

「怒ってない。でも……気付きたくなかった」


 冒険者になったのは、なんでもない理由だ。金が必要だった。


 酒浸りになった父親から離れたかった。お前が出て行ったせいだと怒鳴られるのはうんざり。人違いだ。そのうち空きビンで頭を殴られた。嫌いになった。


「私がやろうとしてたことが、ただ家族を作りたかっただけ?……ハッ、おままごとかよ。でもあながち間違いじゃねえ」


 憧れた。ひとりで細々と冒険者をやっていたとき、酒場で騒ぐパーティに団らんを見た。ひときわ楽しそうに瞳に映る宴は、その瞬間にレアナの夢になった。いつか最強の仲間を集めて、誰一人欠けることのない冒険をしながら────。


「あの日、お前を見つけたとき思ったんだよ。しょぼくれたおっさんを見て、優しそうだなって。それで、ちょっと声を掛けてみた。悪いな、下らない夢に付き合わせるみたいになっちまった。やめたきゃいつでも────」


「僕は別に何も思ってないけど……。良い夢だと思うよ」


 暗い空気などひとつも背負っておらず、むしろお花畑すら後ろに見えてくるくらいに、シレントは温かい微笑みを浮かべていた。


「いやあ、いいよね。僕もたまに帰省するんだけど、田舎だからコミュニティが小さくてさ。近所のおじさんとかおばさんも家族みたいなんだよ。それが悪く出てる部分もあるんだけどさ。僕はその空気が好きでね」


 たまには帰りたいなあ、と空を仰ぎ見ながら。


「家族ってさ。嬉しいことがあったら一緒に笑ったり、悲しいことがあったら一緒に泣いてくれるだろ。僕らもそういう関係でいたいじゃない? 些細で当たり前に見えることも、そうじゃないことだってある。君が欲しがってるなら、僕は君の家族になりたいよ。……はは、ちょっとクサいセリフだったかな?」


 耳を真っ赤にして、励ましの言葉を贈ったシレントがぎこちなく笑う。それこそレアナに引かれたのではとすら思うくらい、自分でもどうかしてるくらいすらすら出てきた言葉だった。


「別に。前も言ったろ、お前はいいんだ」

「……? ごめん、前って?」

「へへっ、内緒。自分で気づきやがれ」


 ばしっと尻を軽く蹴った。

 無邪気な子供のいたずらが、憂いを遠くに追いやった。


「おい、それよりパン屋ってあれだろ! 良い匂いだなぁ!」

「いてて……。そうそう、皆にも買って帰ろうね。今日は僕の奢りだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。