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最強パーティの専属荷運び人  作者: 智慧砂猫


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第25話 誤解



 昨夜のことを、シレントはあまり覚えていない。大量の酒を注文して部屋に持ち込み、二人で騒ぎまくったのは記憶にある。大雑把にだが。


 少なくとも問題は起きなかったと信じている。たとえば、それが隣に裸で眠っているレアナがいてもそうだ。自分は服を着ていた。間違いない。何も問題など起きなかったし、起きるはずがない。たとえ羽目を外していても。


「ん……なんだよ、朝早いな。シャワーでも浴びんのか?」

「酔い覚めにはなりそうだけど、幸い二日酔いはしてない」

「そうか。そりゃよかった、私もだ。疲れちゃいるが」


 起きたレアナが、ぐぐっと体を伸ばす。シレントを気遣ってか、胸は見えないように軽くシーツで押えて隠していた。


「シャワー浴びてから帰ろうぜ。まだ時間あるだろ」

「ああ、もちろん。君の着替え、出しておこうか?」

「そうしてくれると助かる。んじゃ、シャワーお先」


 立ちあがると、シーツがはらりと落ちた。シレントはすぐに下を向く。


「お前さ。そぉんなに私の裸が見たくない感じだったり」

「いや、そうじゃなくて。ほら、僕は君と他人だし、こういうのは────」

「初心なオッサンだな。私はお前なら気にしねえよ」


 そう言ってシャワーを浴びに行く。レアナはもう21歳で立派な大人だが、シレントからしてみればまだまだ子供だ。気にしないと言われても、こっちは気にするだろうと言い返したくなるのを呑み込んで、深いため息で誤魔化した。


「分かんないんだよなあ、そういうの……」


 初心だと言われればそうなのかもしれない。好きでもない人間に裸を晒す理屈が分からない。シレントは、お前なら気にしないという言葉を相手にしていないという言葉の裏返しだと思いながらも、だからといってそれで平気そうにされるのは、自分が困ると顔を赤くしてしまった。


(ああもう、昨日のことを思い出してしまったじゃないか)


 片手に顔を覆い、昨夜の景色が脳裏に過って首を振った。


「レアナ、服は置いておくから。ちょっと下に降りてくる」

「おう、ありがとな。後で行くよ」


 これ以上は無理だと思い、部屋を後にする。一階へ降りると、見慣れた黒い甲冑の騎士の姿があって、なんとなく安心した。


「クローディア」


 名前を呼ぶと騎士は振り向き、小さく手を挙げた。


「シレント殿。探したぞ、聞いて回って此処へ」

「ああ、どうしたの?」

「フム……。すまない、ちょっと」


 妙な空気にクローディアは兜のバイザーをあげて、すんすんと匂いを嗅ぐ。


「ふむ、なんとなく知った石鹸の香りだな。貴殿も使うのか?」

「えっと、石鹸に何か問題でも」

「いや。単純にレアナ殿がよく使う石鹸に似ていたから」


 我輩も使ってみようかな、とバイザーを下ろして本題に戻った。


「それより、あれだ。ギルドから連絡が。王城のパーティに招かれた」

「……えっ。なんで僕たちが」

「魔族討伐の件だ。今後のことも含めてだろう、連中は卑しい」


 ギルド上層部に加え、今後の安全の確保を考えて上流階級のパーティに招いて、仔細に語らせようという腹積もりに違いないとクローディアは舌打ちする。


「下々の民よりも、自分たちの身を保証するための足掛かりに我らを利用しようというのだ。事態を秘匿しているのも、対策を講じて人々からの反感を免れるためだ。奴ら、遠く離れた場所で安全に討伐されるのを待つつもりに違いない」


 なぜそこまでクローディアが苛立つのかは分からなかったが、話している内容にはシレントも同意する。問題が大きくなればなるほど、彼らは自分たちの逃げ道を確保するために奔走するものだ。いつものことすぎて気にも留めていなかったが、パーティに招かれた事実に、億劫さが押し寄せてきた。


「それ、欠席できないのかい?」


「目を付けられている以上は難しいだろう。我らでなくとも手駒は用意できる。邪魔となれば消されておかしくない。それだけの情報を持っているゆえ」


 ギルドも自分たちの保身のために従い、手駒をいくつか潰すなど厭わないのは予想できる。魔族ならば正面切って戦えようが、同じ人間相手が最も難しい。油断している分、背中から刺されるタイミングはいくらでもある。


 クローディアは、そういう人間の心理をよく知っていて毛嫌いした。


「下らぬ重荷を背負わされるのは勘弁だが、我々も魔族には関わる理由がある。此処はひとつ、顔を出しておいても損はなかろう。既にルルやシャーロットには伝えてある。偶然、近くのレストランで顔を合わせてな」


 クローディアたちは、シレントやレアナとは違って先に宿を見つけて予約を済ませていたので、ギルドからも近い高級宿に泊まっていた。それもあってか、早々に話を耳に入れていて、情報共有も済んであった。


「貴殿だけでも早く見つかってよかった、今朝からあちこち聞きまわっていたのだ。あとはレアナ殿を探すだけ────」


 ちょうどそこへレアナが二階から降りてくる。纏まっていない濡れた髪をタオルで拭きながら、口には紐を咥えて。


「お~、クローディア? なんだ、メシでも食いに来たのか?」


 直感が働いたクローディアが、バイザーを勢いでガバッと開く。香ってくる石鹸の匂いの理由が分かると、わなわなと震えて怒りや羞恥といった複雑に混ざり合う感情に満ちた表情で二人を指さす手が定まらない。


「なっ、あっ、えっ!? 聞いてな……はあ!? 何それ!?」


「ちょっ、いや、違うんだよ? おじさんは駄目だって言ったんだけど、なんとなくこう、色々あって同じ宿に泊まっただけでね?」


 シレントがなんとかクローディアに事態を説明しようとすると、レアナはうんうん頷きながら、援護のように見せかけて背中から刺す言葉を放った。


「そうそう。昨日は酒飲んだ勢いで結構盛り上がっちまってさ」


「違う違う違う、言い方がおかしい。朝まで酒飲んで夢を語り合ってただけでしょ!? クローディアが誤解するでしょうが」


 肩を掴んでぐんぐん揺らされても、レアナはけろっとする。

 一方、クローディアはもはや何も耳に入ってこないくらい動揺した。


「ふっ……不健全だ──────ッ! シレント殿は最低だ、仲間に手を出すなど信じられん! これだから男子は信用ならんのだ!」


「もう男子って歳じゃないよ。……じゃなくて、手も出してないって!」

「は、反省しろ! 我輩は知らん、もう知らん、先に帰る!」


 大事な話の途中だったにも拘わらず、クローディアがさっさと帰ってしまう。追いかけることもできず、シレントはただ呆然と何かを引き留めようとして伸ばした行き場のない手をそのままに、石像のように固まった。


 そんな事態もよく分かっていないレアナは、咥えていた紐でいつも通りに髪を結びながら、不思議そうに尋ねた。


「なあ。あいつなんで帰ったの?」

「多分7割くらい君のせいだよ」

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