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最強パーティの専属荷運び人  作者: 智慧砂猫


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第24話 今が楽しい

 その日、時間があるかぎりで、それぞれが冒険者の街で数日を滞在するための宿探しに出た。シレントも、久しぶりに一人の時間を楽しんでみようと、まだ陽も落ちていないので食べ歩きをしたり、雑貨店や骨とう品店を巡った。


 残念ながら縁のありそうなものはなく、購入には至らなかったが、興味深い古代の魔道具などを見れて満足な気持ちにはなった。


 夕刻、陽が半分は沈んだ頃にシレントは宿を探す。流石に時間帯もあってか、他に宿を探す冒険者たちでいっぱいだ。ギルドとの距離が近い場所はどこも埋まり、尋ねても平謝りされるばかりで、いっこうに宿泊できる気配がない。


 そうなると、やはりギルドを中心として、離れたところに泊まるほかない。悩めば悩むほど埋まっていく。もう場所を気にしてはいられないぞ、と慌てて地図を片手に、部屋のありそうな宿を狙う。


「……う~ん、もう少し豪勢にいきたかったけどな」


 二日だけなら贅沢も許される。レアナたちと折半した報酬は、三人で分けても十分すぎるほどの額にのぼった。だが、残念ながらそういった冒険者は決して少なくない。程々の宿ですらいっぱいで、離れていても質が良ければ関係ないと足を運ぶ冒険者はいくらでもいる。そうして流れるまま、辿り着いたのは安宿だった。


 部屋はふたつだけの古い家屋で、年寄りたちが集まる小さな酒場の二階を宿泊スペースにしてある店だ。初見としては些か入りにくい気もしたが、他に今より良い場所は見つかりそうもない、と諦めた。


「すみません、部屋が空いてるなら借りたいのですが」

「部屋借りてえんだけど空いてるか?」


 声が重なって、女主人がきょとんとする。

 客としてきたシレントともうひとりが顔を見合わせた。


「レアナ?」

「シレントじゃん」


 思わず顔を見合わせたまま静止して、数秒の沈黙の後にぶふっ、と噴き出す。


「なんだよ、お前もあっちこっち探し回って此処に来たのかよ」

「時間配分間違えちゃってさ。もしかして、君も?」


「へっへっへ……。ちょっと武器屋とか見てまわってたら、時間なくなって」


 二人でげらげら笑う姿を前に、女主人は何を見せられているだと思いながら、壁に掛けてあった部屋の鍵をふたつ取った。


「お友達みたいだけど、別々の部屋に泊まる? それともひとつずつ?」


 シレントは別々の部屋に泊まろうとしたが、レアナはその意図を汲み取ったりはせず、堂々と「二人で同じ部屋で!」と言い放った。


 何も考えていなさそうな顔にすかさず待ったを掛ける。


「いやいやいや。レアナ、それはちょっと駄目だろ」

「何がだよ」

「だって同じ部屋だぞ? 年の離れた男女が同じ部屋って……」

「クローディアが来るまではそうだったろ。何気にしてんだ」


 それはそうだが、と返す言葉に詰まった。

 決まったと分かるとレアナは鍵を受け取った。


「じゃあ先に上がるぜ」

「あっ、待って待って。僕も行くよ」


 足下に置いたボンサックを担ぎ直して、二階の部屋へ。

 想像よりは広いが、やはり他の宿に比べると少し手狭に感じられた。


「ダブルベッドだ、でっけぇな!」

「やっぱり問題じゃないかなあ……」

「つか風呂はどこ? あっ、こっちか。バスタブもあるぞ」

「君って遠慮ないよね。というか着替えあるのかい?」


 一緒にいる間、目隠しでもしておこうか。などと思い始めていたとき、レアナはぱたぱたと駆けてきて、ボンサックの中からリストを取り出す。


「実は中に入れてんだ。ほら、ダンジョンで滞在とかもあると思って」

「いつの間に……」

「シャワー、先に貰うぞ。結構歩き回って汗掻いちまったからなぁ」


 当たり前のように服を脱ぎ始めるので、シレントはさっと背中を向けてベッドに手を置いて視線を下げた。


「……何やってんだ?」

「君は羞恥心というものがないのか」

「いや、あるけど。別に裸なんざ見られても困らねえだろ」

「あのね、年頃の女の子なんだからそういうのは気にしないと……」


 説教くせえな、とレアナは嫌そうな顔をして浴室に入り、扉を閉めた。

 ホッとひと息ついてシレントはベッドに腰を下ろす。


(まったく、最近の子はああもオープンなのか? いや、むしろレアナがそういう子なのかもしれない。此処はひとつ、人生の先輩として、どう問題なのかをきっちり説いてあげるべき────)


 ガチャッ。と音がして、浴室からレアナがひょこっと顔を出す。


「わり、ちょっとバッグから石鹸出して。ちょっと肌弱いから、お気に入りのじゃないと荒れるんだよ」


「え。ああ、ちょっと待って。ていうかなんで入ってるんだ……?」


 もしやダンジョンから帰って来た後に突っ込まれたのか。もしかすると他の物も入っているのでは、と石鹸を渡してから改めてリストを見直す。


 思わず手で顔を覆ってため息を吐いた。


「いつもより重いと思ったんだよな」


 疲れてるせいだと気にも留めていなかったが、リストには『衣服レアナ』と『衣服クローディア』の二つの項目がある。さらには石鹸やタオル、果てはクローディアの私物のぬいぐるみまで入っていた。


「僕のバッグは倉庫じゃないんだからさ……」


 困った仲間だ。そう口にしながらベッドにどさっと倒れ込んで、笑みが零れた。文句は言いながらも不満はない。ただ、楽しいと思った。


 ディルのパーティにいた頃のシレントは、あまり笑う方ではなかった。物静かで自分の意見はあまり言わず、リーダーの言葉に従うのが優先された。


 ただの荷運び人。自分の職業を底辺だと言われて否定しなかった。そうあるべきなどという常識に囚われ、誇りはあっても自信はなかったのだ。馬鹿馬鹿しい、実に下らないと今なら言えるのが、彼は少し悔しかった。


 あの日常があっての今だが、だからといって最後まで殆ど見向きもしてくれなかったこと。利用されてきただけの毎日を肯定はしたくない。それもディルが命を落とした今となっては、些細なことなのだろうと振り返った。


 色々考え始めると、疲れがどっと押し寄せて眠くなってくる。瞼を開けているのが億劫になり、ゆっくりと意識を手放して────。


「……ト。おい、シレント!」

「うわっ。ごめん、ちょっと寝ちゃった?」

「ばか。ダブルベッドを横向きに寝る奴があるか」


 起こされて目を擦りながら前を見て、シレントは固まった。視界に映ったふたつのふくらみを呆然と眺めて、静かにベッドのシーツにくるまった。


「服着て、服」

「お? ハハハ、悪ぃ。ベッド占領されてたからつい」

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