↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強パーティの専属荷運び人  作者: 智慧砂猫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/40

第14話 夢

 誰かの眩しい笑顔は、シレントの願っているもので、酒場の空気など忘れてすっかり気分を良くした。レアナから誘われたときは馬が合うとは思っても、それがパーティとして上手く行くかどうかは不安な部分もあった。


 だが、クローディアを迎え入れ、共に食事をしてみて分かる。自分の選択は間違いなどではなかったと安堵する。また裏切られるかもしれないという恐怖心は消え失せていて、これからがより楽しみにすら感じている。


「そういえば、シレント殿はなぜ荷運び人を?」

「う~ん……。選んだ理由は些細というか、向いてるかなって思ったんだ」


 切っ掛けは些細な仕事。それまで暮らしていた小さな村で、荷物の配達を頼まれて遠い町まで訪ねたときに『こんな遠いところまでありがとうね』と、感謝の言葉と共に優しく微笑まれたことが、シレントの心に刺さったのだ。


 誰かの笑顔が、感謝の言葉が疲れを吹き飛ばしてくれるほど嬉しかった。帰り道はよく覚えていない。ただ、届けた甲斐があると思わせてくれた。それから荷運び人という仕事があるのを知って、クエストショップで依頼を受け始めた。


「冒険者になったのは成り行きでね。当時、新人だったディルと受付で知り合って仲良くなったから、パーティを組んだんだけど……」


「ものの見事に裏切られたというわけか。シレント殿も苦労人だな」


 否定できず、苦笑いで返すのが精いっぱいだった。そもそもディルは若く、これから花開く若者だと彼の純粋さを信じたのが間違いだ。人の良いシレントは簡単に信用して、主導権の全てを渡してしまったのだから。


「でもまあ、おかげで君たちに会えた。怪我の功名という奴かな」

「ウム。我々の出会いは素晴らしいものだ」


 傷ついた心を埋めてくれる仲間がいる。クローディアも、もはや冒険者などままならないと諦めかけていただけに、シレントの痛みは少し理解できた。


「ならば問いたいのだが、夢はあるのか」

「夢?」

「そう。シレント殿のいずれ辿り着く目標だ」


 言われてみて、今までそんなものを考えてこなかったと気付く。

 ただ荷運び人として過ごすのが幸せで、夢など抱いたことがない。


「夢か……。いや、でもなあ。いまさら夢なんて持っても仕方がないよ。おじさん、もう良い歳だぜ? かえって恥ずかしいかなって」


 へらへら笑うシレントを見て、届いた料理を口に運ぶ手が止まった。


「なぜ? 夢を追うのに年齢が関係あるのか?」

「そりゃそうじゃないか。歳も歳だし、夢を見るのは若者の特権というか」

「……ふうむ」


 なんとも腑に落ちない様子でステーキを一切れ食べる。味は良いと満足しているのに、表情はどこか納得がいかない雰囲気を醸す。


 彼女はワインに口をつけ、ようやく考えを口に出した。


「私とレアナを除く白金級には、七十を過ぎたご老人がいらっしゃる。紳士的なお方で品格のある、我輩も尊敬の念を抱いている。その方の夢は闘技場での戦績を死ぬまで無敗を貫くことだそうだ。貴殿はどう思う?」


「いや、どうって……。すごいことだと思うけど……」


 七十を超えて白金級。あまつさえ闘技場といえば、それこそギルドに名を連ねていない猛者たちが跋扈する世界だと聞く。勝てば勝つほど巨額のファイトマネーが入るので、わざわざ死地に出向かずとも稼ぐ良い手段にもなった。


 ただし勝てれば、の話だ。年間で大勢が名簿に登録するが、数千人いて結果が出せるのは100人にも満たない。老人が未だ無敗というだけで既に偉業だ。


「では、なぜ七十を超える人間を誰も嗤わないのか」

「そんなの、結果が伴っているからだろ?」

「であれば貴殿もそうではないか」


 フッ、と自信たっぷりの表情をして、クローディアは言った。


「結果が伴えば、歳など関係なく夢を抱いても構わんのだろう」

「あ……うん。本当だ、そうだね。でも僕は────」


「魔族とやらの戦いでの働きは見事であった。我輩が、その実力を認める」


 未だ、魔族についての情報はギルドでも実際に戦ったシレントたちと、上層部だけで留まっている。あまりにも危険がすぎるゆえに不安を煽るのも良くないという判断からだ。ゆえに白金級のゴルドという冒険者の死も、あくまで強力な魔物に油断して遅れを取ったというふうに、周囲には伝わっていた。


 だからシレントがどれほどの活躍をしたかは誰も知らない。仲間であるレアナとクローディアだけは、その強さを目の当たりにしているのだ。他の誰が認めなかったとしても、彼の実力は間違いないと証明できる。


「改めて聞きたい、シレント殿。貴殿の夢は何か聞かせてほしい」

「夢……。そうだなあ、もし追ってもいいのなら」


 二十年も荷運び人を続けてきて、たくさんの苦労があった。決して笑顔で迎えられることばかりじゃない。事情があって遅れたとしても、心無い言葉で責められた経験もある。その都度、言われるのだ。『これだから荷運び人は』と。


 能力のない人間がやる仕事だという世間の冷たい評価を覆すのは難しい。できるだけ失敗しないように心がけてきて、中にはクローディアのように評価を変える者もいた。荷運び人も馬鹿にならないと褒めてくれる人がいた。


「僕は、もっと荷運び人という職業が皆に認められる世の中にしたい。ただの荷物持ちじゃない、たくさんの人に笑顔を届けられる仕事なんだって」


 誰かが最初にならなければ変わらない。そう思っていても、現状に満足して生きてきた。冒険者になった人々と多く関わりを持ってきて、なぜ今まで何も考えてこなかったのか自分でも不思議になる。


 彼らは皆、夢があった。大金持ちになりたい。最高の治療師になりたい。いつか爵位を授かって後世に名を残したい。それぞれの大きな夢があった。


 自分には分不相応だと決めつけて、シレントは考えないようにしてきた。それがいつしか当たり前になり、考えなくなってしまった。


 なんと勿体ない時間を過ごしたのだろう、とグラスのワインを飲み干す。安酒がシレントの頬を仄かに赤く染めた。


「やってみるよ、クローディア。そもそも荷運び人として冒険者を続けてるんだ。皆の意識を変えてやるくらいの気持ちで、僕も老後を生きてみたい」


 大きな目標を、四十代にしてやっと見つけた。

 決意のこもった眼差しをクローディアは笑わない。


「ウム。では共に邁進しよう。我輩もまた、素晴らしき偉大な騎士となるのが夢だ。レアナの夢までは知り得ぬが、共に叶えようではないか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。