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最強パーティの専属荷運び人  作者: 智慧砂猫


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第15話 単独任務

 二人は小さくグラスを掲げた。それから、食事は楽しく進んだ。

 たわいない話に花を咲かせ、美味しい料理に舌鼓を打ちながら。


 相変わらず視線は感じるものの、誰も二人に話しかけようとする者はいない。次こそ誰か死人が出てしまいそうだと眺めるに留まった。


 そうして二時間ほどが過ぎた頃、ついに二人に話しかけられる人物がやってくる。片手にウィスキーの小瓶を持ってぐいっと飲み、眉間にしわを寄せて。


「ンだよ。家に帰ったらメシがあると思ったのに、自分らだけで酒場で散財か? 私も混ぜろっての。どれ、もう腹いっぱいってわけじゃねえだろ」


 レアナが近くの空いている椅子を引っ張って逆向きに座った。テーブルのカリッと香ばしく揚がったチーズスティックをつまむ。


「どこ行ってたんだい、レアナ?」

「ドワーフの鍛冶場。こないだのお前の槍で欠けちまったからさ」

「あ……。そうか、あれのせいで。ごめんよ」


 シレントの放った業物の槍を戦斧で叩き落すという手段に出た怪物によって、大事な刃が欠けてしまった。その修復ができるのは数いる鍛冶師の中でも、ドワーフだけである。彼らの手がなければ元に戻せないので、遠いドワーフたちの暮らす村まで足を運んでいたのだ。


 申し訳なさに悲しい顔をするシレントを、レアナはご機嫌に笑い飛ばす。


「気にすんなって、おかげさまで生きてんだからよ。でも、修理が終わるまでは探索にもいけねえな。いくら強いからって私も素手で金級入るのは……」


 近接戦の中でも素手で挑むのは、よほど無謀が好きな命知らずの人間か、腕っ節ひとつで成り上がってきた猛者のどちらかだ。レアナは自分の膂力はあっても魔物を殴り殺せるほど自分が強いとは思っていない。ダンジョンにおいて戦斧はまさに彼女の命綱でもある。切り離せない大切な武器だ。


「では、しばらくはレアナ殿は留守番か?」

「アホ。三人で行かなくてどうするよ、私はこう見えて寂しいと死んじゃうぞ」

「ムムム……。修理はどれくらいかかるのだ」

「三日くらいで取りに来いってよ。幸い、欠けた部分が小さいからって」


 以前に余った分の材料を取り置きしていたので、修復自体は難しくないと言われたが、それでも三日は掛かってしまうとレアナは些か落胆気味だ。


「爪一枚分の欠けでも、竜の牙を素材にしてるから時間が掛かるんだと。だから理由がないかぎりはパーティの活動は休みだ。金もあるし、大丈夫だろ?」


「僕は構わないよ。クローディアもきちんと休んだ方がいいはずだ」

「ウム……。否定はできぬ。治療師殿からも安静にと言われてあるのでな」


 初耳だぞ、とレアナが目を細めて見ると、クローディアは僅かに視線を外に逸らしてこほんこほんと咳払いをする。


「お前、それでダンジョンに行こうとしてたのか?」


「治療は済んでいるものの、骨が完全に元通りになるには時間が要ると言われていた。だが、見ての通り違和感は何も感じておらぬもので」


 腕をぐるんぐるん回して健康ぶりをアピールする。事実、ちくりとした痛みすら感じないので、それで動くなと言われても落ち着かなかった。


「だったらせめて庭で素振りくらいにしとけ。いざってときに体がぶっ壊れたら、またシレントに助けてもらうことになるだろ」


「うっ……そ、それは本当にすまないと思っている……」


 痛いところを突かれてグッと胸を押える。レアナはジト目を向けて、当たり前のようにクローディアの皿にあるデザートのリンゴを奪う。


「ともかくさ。せっかく組んだばかりだけど、大物狩りも成功したんだ。ぱあーっと散財して、それからまた稼ぎに行こうぜ」


「我輩の残しておいたリンゴが……!」


 シレントも、うんうんと頷いてレアナに賛成した。


「僕らはパーティだ。全員が足並み揃えて動けないのなら、今は休むべきだろうね。怪我しても連れて帰れるけど、怪我をしに行くわけじゃないからさ」


 今後の予定も大まかに決まりかと思われたとき、酒場にぱたぱたと駆けてくる受付嬢の姿がある。珍しく誰かを探しているので皆が目をやると、彼女はシレントたちを見つけてニコッと微笑む。


「ああ、良かった。こちらにまだいらっしゃいましたね」

「えっと、君は受付の……」

「エッセレと申します。皆さんに急ぎの依頼が来ていまして」


 手に持ったスクロールの紐を解いて、はらっと広げた。


「場所は金級ダンジョンの廃都インサニア。依頼者は【紅色の牙】のディル・トライシオン様です。魔物に囲まれ、身動きが取れないとのことです」


 三人の表情が強張った。特にレアナは嫌悪感に満ちていて、持っていたウィスキーの瓶を、ばりっとひび割ってしまう。


「ほっとけ、シレント。私らが請ける理由はねえ」

「申し訳ないが我輩も同感だ。貴殿を利用するつもりでしかない」


 二人にとってディルの印象は最悪だ。見殺しにしても構わないだろうと言ってのけるほど、心底から嫌っている。実際のところシレントもあまり助けたいとは思えなかった。それが間違った感情だと理解したうえで。


 荷運び人として受けない理由はない。だが、個人としての感情が行くなと囁いている。関わってもろくなことにはならないと分かっているからだ。


 だが。今までの時間はなかったことにはならない、とシレントは食事をやめて、足下に置いていた自分のボンサックを肩に担ぐ。


「二人は休んでいてくれ。これは多分、僕への依頼だ」

「はあ。ったく、仕方ねえな。どうせ止めても聞かねえんだろ」

「理解してくれて助かるよ。……ちょっと行ってくる」


 ディルのことは嫌いだ。助けたい気持ちにはならない。けれども他の仲間は違う。最後までシレントを頼っていたし、関係も悪くなかった。立場的に選ぶ道がなかっただけに過ぎない。そんな彼女たちを放っておけない。


 今やディルに対しての敵意もない。縁がなかった。そう考えることにして、五年のよしみで、今回だけが最後だと伝えに行くつもりで気合を入れた。


「エッセレさん、依頼書を頂けますか」

「はい、こちらです」


 さらりと丸めて紐で結び直す仕草は素早く、エッセレは笑顔で淡々と。


「廃都インサニアは非常に遠い場所ですから、ギルドのワープポータルをお使いください。使用記録についてはこちらで処理しておきますのでご心配なさらず。ご案内いたしますので、どうぞこちらへ」


 話が早い。シレントはヘヘッと笑って頭を掻く。


「できる人は準備が違いますね。ありがとうございます」


 ようし、と気合を入れて頬を軽くパシッと叩き、レアナとクローディアを振り返る。二人は心配そうだった。本当に行く気かと言いたげな様子を察してか、シレントも、さすがに申し訳ない気持ちを抱く。


「ごめんね、今回だけだから。……行ってきます」

「気をつけて行って来いよ」

「何かあれば貴殿のために我々も駆け付ける、いつでも頼ってほしい」

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