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最強パーティの専属荷運び人  作者: 智慧砂猫


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第13話 自信

「死んでないよな?」


 シレントに尋ねられるとクローディアも困惑する。

 屈んで息があるかを確かめて、振り返った。


「大丈夫のようだ、息をしておる。我輩がやりすぎたのかと」

「とはいえロビーで気絶させたままはちょっと……」

「では起こすか。受付嬢殿が不在の今のうちに」


 気が進まないので、触るのも嫌そうに指先で頭をつんつんする。

 軽い脳震盪だったからか、ディルはすぐに目を覚まして徐に起き上がった。


「ぐっ……くそ、ギルドで殴るとか非常識かよテメェ……!」

「ぶつかった貴殿の台詞ではなかろう。手を貸してやろうか?」


 皮肉たっぷりに手を差し出すと、バシッと強く払われた。


「調子に乗んなよ。どこのだれか知らねえが、お前みたいな奴がまともにやり合って俺に勝てるわけがねえんだ。ダンジョンで会ったときには後悔するぜ、お前。背中に気を付けるんだな」


「……口の減らぬ男だ。もしそうなれば、貴殿こそ覚悟めされよ」


 ディルはチッと大きな舌打ちをして、強い不快感をあらわにしながら二階へあがっていく。やっと離れた相手が絡んでくるのに、シレントはどっと疲れた。


「ごめんね、クローディア。僕のせいで気分を害しただろう?」


「気にするな。彼奴の性格なら、いずれどこかで衝突もあった。あれも白金級の人間か? 我輩は覚えのない顔であるが」


 過大評価だな、とシレントは首を横に振った。


「彼は銀級だよ。もしかしたら昇級試験を受ける頃かもしれないけど……どっちにしても、君には遠く及ばない。あの怪物と彼が戦えるとは思えないしね」


「貴殿も銀であろう。強さなど階級で測れるものではない。だがまあ、少なくとも我輩より強くはないな。拳をもろ(・・)に食らうなど素人同然だ」


 こぶしを握ったり開いたりしながら、ディルがまるで躱せなかったのを思い返すして、ふん、と鼻を鳴らす。


「比べてシレント殿は、我輩より強いのではないか? あの怪物に一矢報いる隙を作ったのは、まさに貴殿の働きによるものだ。でなければ、レアナ殿はともかく我輩は既に死んでいただろう。なにしろ初撃で気絶していたし……」


 帰ってからすぐに治療師のもとへ向かったが、受けた診断は肋骨が数本折れていて、頭部にも深い裂傷があった。おそらく最初はさほどではなかったが、聖剣を使った反動でより酷い状態に陥ったのだろうとクローディアは笑う。


 決して笑いごとではないのだが。


「君に褒められると鼻が高いよ。じゃあ気を取り直して食事でもして帰ろうか。場所を変えてもいいけど、どうする?」


「此処で良い。あの野良犬は臆病者だ、我輩に二度は喧嘩を売らぬ」


 既に格付けは済んだと堂々して、酒場に入る。昼間から賑わいのあるギルド本部に併設された酒場は、殆どが青銅級だ。彼らは生活のために冒険者をしているところがあり、派手に稼ぐのではなく日銭で暮らすのが当たり前だった。


 そんな場所に白金級の冒険者が入れば即座に注目の的だ。席に着いてから、クローディアは突然、ぴたりと動きが固まってしまった。


「あれっ、どうしたの。注文しないのかい?」

「いや、その。……か、兜を脱ぐのが恥ずかしくて……」


 ざわつく酒場の話題は全てがクローディアに関連するものだ。いくつも突き刺さる視線に、兜を脱いでどんな反応が返ってくるのかが恐ろしくて脱げなかった。


「どうしよう、シレント殿。こっ、これを脱いだらみんなにガッカリされないかな。他人の期待に沿えるほど自信がないよ……」


「別に、どんな人かどうかで君の強さは変わらないだろ?」


 もじもじするクローディアに、シレントはくすっとしながら。


「興味があるのは白金級の騎士様がどんな人かってだけさ。それが世にいう絶世の美女でも、戦闘民族みたいな強面でも、話題になるのは少しの間だ」


 優しく諭すように言われて、クローディアも少し気が楽になる。


 素顔を晒すのが苦手な彼女にとっては大きな決心が要った。だからこれまで外食はしてこなかった。料理はいつも持ち帰れる似通ったものばかりで、部屋で独り静かに過ごしてきた。


 ときにはそれが寂しくもあった。自分は他人に好かれる人間ではない。話そうとしても言葉を紡ぎだす自信がないし、臆病さで気を遣わせてしまう。そんな自分自身が嫌いだった。なのに、否定できなかった。


「……ウム。貴殿らは昔の仲間とは違う。既に素顔を知って、なお我輩を仲間として接してくれる。女ではなく騎士として。であれば信じよう」


 女である。ただそれだけで、人の見る目が変わった。まるで姫のような扱いをされて喜べる人間ではないクローディアは、ひたすらに苦痛で、自分に価値を感じられなくなった。自分は置物ではない。なのに周囲の視線はそれを許さず、護ろうとし続けてきた。あわよくばと距離を縮める者もいて、騒ぎになったこともある。


 以来、彼女は素顔を隠していたが、結局ことあるごとに顔がばれて、もはや冒険者をやめる直前だったのだ。だからこそ。シレントやレアナがいれば、他に何をこだわることがあるのかと信じられた。


 兜を脱げば、周囲が驚くほどの美女が現れる。気高さのある凛々しい顔は緊張に強張る。そっとテーブルに兜を置き、深呼吸した。


「見ろよ、あの黒騎士が女だったなんて」

「う、美しい……」

「声掛けてみるか? 良い女だ、口説いてみるのもアリだろ」


 嫌な会話だ。シレントは周囲をじろりと見て、心から軽蔑する。こんな連中が彼女の才能を潰してきたのだろう、と胸がもやもやさせられた。


「シレント……。わ、私、無理かも……」

「気にしないでいい。僕も一緒だから、何かあっても守るよ」

「う、うん。じゃあ注文、しよっか」


 小声で話して、ようやくメニューを取ったとき、何人かの男たちが二人の席に近付いた。へらへらと笑っていて、クローディアの気も知らずに声を掛ける。


「なあ、あんた黒騎士のクローディアだろ? こんな美人だなんて思わなかったぜ。良かったら俺たちと一緒に食事なんてどうかな。そっちの兄さんも」


 そう来るんだ、とシレントはニコニコする。彼を巻き込むことで、一緒なら大丈夫かもしれないとクローディアが頷くことを期待したのだ。


「君たち、悪いけど彼女との食事の邪魔をしないでくれないかな」


 明らかな敵意に対して男たちは不愉快そうに眉をひそめた。


「なんだよ、おっさん。あんたも仲間に入れてやるって言ってるだろ」

「そうだそうだ。良い歳こいて若い女連れてるから見栄張ってんのか?」


 カチンと来て流石に立ちあがりそうになったシレントだったが、突然、目の前から湧いた殺気を感じて、ビクッとしてしまう。先ほどまでは頬を赤らめて恥ずかし気にしていたクローディアの目つきが、冷たく変わった。


「……貴様らに温情をくれてやる。二度は言わぬぞ、さっさと失せろ」


 冗談ではない。純度100パーセントの敵意による威圧は歴戦の冒険者のそれだ。男たちは、途端に臆病風に吹かれて及び腰になった。


「わ、悪かったよ……。流石に白金級のあんたに喧嘩売る気はねえから」

「行こうぜ、ヤバいって」


 バツが悪くなると慌てて立ち去った。他に声を掛けたがっていた男たちも、今のクローディアから滲む強者のオーラに臆してみなかったフリをする。


「はは……。僕の出番、なかったかな」

「いいや。シレント殿のおかげで勇気が湧いたのだ、救われたも同じこと」


 成り行きで腹を立てたのもあってか、男たちを追い払えたことで自信がついたクローディアはとても嬉しそうにシレントへ微笑む。


「ありがとう、今日のことは忘れないよ」

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