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婚約破棄されて辺境に追放されましたが、前世が機械エンジニアなので古代魔導具いじり放題で大歓喜です!  作者: 紅茶


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第四十四話:パンドラの箱

 王都、王城の奥深くにある特別研究室。

 高価な陶器が床に叩きつけられ、無残に砕け散る音が響き渡った。


「ええい、役立たずどもめ! 王国の威信をかけてこれだけの魔術師と研究者を揃えておいて、ただの一つの石ころの使い方も分からんというのか!」


 王太子ジュリアスの怒声が部屋を震わせた。

 周囲の側近や研究者たちが「殿下、どうかお心をお静めください」と必死に諌めるが、ジュリアスの怒りの炎は全く収まる気配がない。

 彼は国の最高機関に命じて、西の大砂漠から回収した「怪物ククルタ」と、セラフィナから奪い取った「鈍色のペンダント」の調査を行わせていた。

 しかし、結果は絶望的に芳しくない。

 ククルタと名乗る怪物は、王都に連れ帰って以来、ピクリとも動かない仮死状態に陥っていた。無理に刺激を与えればそのまま細胞が崩壊しかねないという。

 そして最もジュリアスが期待していたペンダントは、完全に解析不能だった。現代の魔術師たちの知識をもってしても、いかなる魔導具としての構造も読み取れず、使用方法も全く不明だというのだ。


「これも全て、あの忌々しいセラフィナのせいだ! 僕の手に渡る前に、あの悪女が何か妙な細工をして機能をロックしたに決まっている!」


 苛立ちを隠せず、ジュリアスが爪を噛んで責任転嫁の悪態をついていた、その時。


「……ジュリアス。また酷く荒れているようだな」


 重厚で威厳のある声が響き、研究室の扉から一人の初老の男が現れた。

 国王、すなわちジュリアスの父である。

 父王は、床に散らばった破片を冷ややかな目で見つめ、息子に対して静かに苦言を呈した。


「あまり国内を騒がせるな。国内が荒れれば、力を持った公爵や伯爵たちを抑えることも難しくなるのだぞ」


 この封建制の時代において、国家の力関係とは「誰がどこまでの土地を直接支配しているか」という、現実的な軍事力と経済力で決まる。そのため、歴史上においても王や皇帝よりも、広大な領地と私兵を抱える配下の公爵や伯爵の方が強い力を持つことが頻繁にあった。

 この国とて例外ではない。王家の権威こそ絶対のように見えるが、実態としては王は「同輩中の首席」にすぎず、国全体を鶴の一声で意のままに動かすような絶対的な力は持っていないのだ。


「……申し訳ございません、父上。肝に銘じます」


 ジュリアスは表面上は恭しく頭を下げる。

 しかし、父王が呆れたように背を向けて部屋を去った途端、その顔は醜く歪んだ。


「老いぼれめ……。ササッと王位を僕に譲ればいいものを。僕が王位を継げば、逆らう貴族などすべて粛清し、より強固で絶対的な国にしてやるというのに」


 そんな彼の苛立ちをさらに煽るかのように、今度は王都の魔術師長が青ざめた顔で報告に駆け込んできた。


「で、殿下! 大結界に関するご報告が!」


「なんだ、まだ直らないのか!」


「申し訳ございません。結界の縮小が止まらず……今や、王城とその周辺のごく一部を守るのみとなっております」


 さらに、国防を担う兵士の隊長も悲痛な顔で続く。


「殿下。結界の消失に伴い、ついに居住区の端に魔物の姿が確認されるようになりました。今はまだ我々の手で対応が可能ですが、出現数は明らかな増加傾向にあります。このままでは、王都の民に甚大な被害をもたらすかもしれません!」


「ええい、五月蝿い! どいつもこいつも無能ばかりか!」


 ジュリアスはついに激昂し、机を蹴り飛ばした。

 かつてセラフィナが人知れず行っていた「こっそりメンテナンス」が失われたことで、王都の魔導インフラは完全に寿命を迎えていた。

 だが、ジュリアスは自分の行いによって優秀な管理者を追い出した事実から目を背け、またしても責任転嫁の叫びを上げた。


「結界が壊れたのも、すべてセラフィナのせいだ! あの女が辺境へ去り際に、結界の魔導炉を壊していったに違いない!」


 自らの首を絞めていることに気づかず、怒りで息巻くジュリアス。

 しかし、その焦燥感の中で、ふと彼の脳裏にある光景が蘇った。

 西の大砂漠で遺跡に入ろうとした時、あの盗賊団の長が、この「鈍色のペンダント」を使って強大なドラゴンを召喚し、さらには自らを異形の怪物へと作り変え、魔物を使役していた光景だ。


(これはまさか、近くに魔物がいないと起動しないのでは?)


 仕組みが分からずとも、試してみる価値はあるだろう。

 ジュリアスは、震える魔術師と研究機関の者たちに向けて、冷酷な命令を下した。


「おい、お前たち。そのペンダントを使って、居住区に現れた魔物を退治してこい」


「で、殿下……しかしこれは、確かに優れた『何か』であることは確かですが、何分使い方がわからず……」


「なら死ぬ気で考えるんだな、魔物は待ってくれんぞ」


 恐怖にすくむ部下たちを怒鳴りつけ、無理やり遺跡のペンダントを押し付けるジュリアス。


 自身の無能と焦りから下されたその愚かな決断が、やがて王都全体を巻き込む取り返しのつかない惨劇の引き金になることなど、この時の彼には知る由もなかった。


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