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婚約破棄されて辺境に追放されましたが、前世が機械エンジニアなので古代魔導具いじり放題で大歓喜です!  作者: 紅茶


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第4話:狂乱の地下牢

地下へと続く螺旋階段を下りるにつれ、空気は物理的な質量を持ち始めていた。



バチバチ、と火花が散り、私の銀髪が静電気でふわりと浮き上がる。普通なら恐怖で震え上がる場面だが、私の心臓は歓喜のビートを刻んでいた。



「ああ……見てくださいガレス卿! この空気の粘り気! 魔素の密度が濃すぎて、肺に直接エネルギーが流れ込んでくるようですわ! これ、ボトルに詰めて王都の市場で売ったら、それだけで小国が買えるくらいの値がつきますわよ!?」



「売るとか詰めるとか言ってる場合ですか!? 息が、息が苦しい……っ。セラフィナ様、ここから先は本当に死の領域です、戻りましょう!」



背後でガレス卿が膝をつき、必死に私のドレスの裾を掴もうとする。だが、私は獲物を見つけた狩人のような速度で階段を駆け下りた。



最下層。



そこに広がるのは、ひしゃげた鉄扉と、漆黒の魔力の嵐が吹き荒れる広間。



中央で鎖に繋がれ、苦痛に喘いでいる銀髪の男——レオンハルト様がいた。



「……だ、だれだ……! これ以上近づけば、貴様を、殺し——」



「ちょっと黙っていてくださいな閣下。これから、大事な計算を行うんですから!」



私は彼が放つ、人を一瞬で炭にするほどの魔力波動をひらりと回避——はできないのでそのまま、全身で浴びながら、手に持った自作の『多機能魔導計測器』を突き出した。



「なっ……!?」



「凄まじい……! 出力、推定五万マナオーバー!? しかもこの波長、単一指向性ではなく全周囲放射型だわ! そしてそれを垂れ流してるだけ! なんて非効率! なんて無駄遣い! ああ、勿体ない……勿体なさすぎて涙とゲロが出てきますわ……うぅおえ!」



私はレオンハルト様の顔の数センチ先まで詰め寄り、計測器の目盛りを狂ったように凝視した。



「おい、貴様……死にたいのか? 俺の魔力は、触れるものをすべて腐食させる呪い——」



「呪い? いいえ、これは『高純度未精製エネルギー』ですわ! 閣下、貴方の左肩の付け根! 魔力回路が詰まって逆流していますわよ! 配管ミスですわ! 誰がこんなガバガバな設計を放置したんですの!? 今すぐバイパスを通さなきゃ!」



「はい!? セラフィナ様、大公閣下の尊体を『配管』呼ばわりするのは、不敬を通り越して狂気の沙汰です!」



階段下まで追いついたガレス卿が、壁にしがみつきながら叫ぶ。だが、私は止まらない。



巨大な工具箱トランクをどんと石畳に置き、中から鈍く光る巨大な注射器のような装置を取り出した。



「……何、を……する気だ……?」



レオンハルト様が、苦痛と困惑の入り混じった瞳で私を見上げる。



暴走する魔力のせいで彼の肌は裂け、血が滲んでいるというのに、私はその傷よりも、そこから漏れ出す「光」に夢中だった。



「安心してください、閣下。貴方の体内で暴発寸前のエネルギーを、私が美味しく『収穫』して差し上げますわ。これ、最新の『魔力直接吸引式シリンダー・試作零号機』なんです。本当はもっと小型化したかったのですが、貴方の出力の程を見誤ってはいけませんから、ついついサイズを大きくしちゃいました!」



「収穫だと……? 俺の呪いを……吸い取ると言うのか……?」



「呪いとか不吉な呼び方はやめてください。これは、私の愛する魔導具たちの『ガソリン』ですの! さあ、じっとしていてくださいね、ちょっとチクッとしますわよ!」



「が、がそ? いや、待て、やめろ! 俺の魔力に直接触れれば、お前の魔力回路は内側から焼き切れ——」



レオンハルト様の警告が終わるより早く、私は装置の吸入口を彼の胸元へと突き立てた。



——ギュイィィィィィィィィンッ!!!



地下牢全体が震えるほどの、凄まじい吸引音が鳴り響く。



シリンダーの中央にある魔石が、一瞬で眩い白光を放ち、加熱して赤く染まった。



「あはっ……! 凄い、凄い勢いで入ってきますわ! 濃い! 濃すぎてシリンダーの冷却魔法が追いつきませんわ! でも最高! これ一発で、王都の研究所で三年かけて集めていた魔力量を超えましたわよ!」



「……っ、ぐ……ああ……ッ!?」



レオンハルト様の表情が劇的に変わる。



絶叫ではない。全身を支配していた「爆発寸前の膨満感」が、一気に外部へと引き抜かれる感覚。



あまりの快感——いや、解放感に、彼の腰がガクガクと震え、瞳が潤んでいく。



「セ、セラフィナ様! 大公閣下が、なんだかひどく……その、あられもないお顔になっています! おやめください、騎士として見てはいけないものを見ている気がして俺の良心が死にそうです!」



「うるさいですわねガレス卿! 今、魔石のキャパシティが限界なんです! ……閣下、動かないで! 漏れちゃう……魔力が漏れちゃいますわ!」



「お、前……何を、言って……あ、ああっ……!!」



レオンハルト様の体から溢れ出していた漆黒の霧が、目に見えて薄れていく。



代わりに、私の持っているシリンダーは、今にも爆発しそうなほど虹色に発光し、不気味な脈動を始めていた。



「ふぅ……。とりあえず、第一段階ファースト・チャージ完了ですわね」



私は、すっかり魔力を抜かれてぐったりと床に伏したレオンハルト様を見下ろした。

彼は荒い息をつきながら、信じられないものを見るような目で私を見上げている。



「……消えた……。俺の、死にそうなほどの痛みが……こんな、ただの筒で……?」



「ただの筒ではありませんわ、私の血と汗と涙と油と、あと色々なものの結晶です! ……それにしても閣下、貴方って本当に最高ですわ。こんなに効率よく、かつ高品質な魔力を供給してくれるなんて……」



私は空っぽになったシリンダー(の予備)をカチャカチャと弄りながら、彼の横に膝をついた。



そして、獲物を逃さないとばかりに、彼の銀髪を指で掬い上げる。



「決まりましたわ。閣下、貴方は今日から私の『専用バッテリー』になっていただきます。拒否権はありませんわよ? だってそうしなきゃ、貴方も苦しいのでしょう? 貴方が大人しく魔力を差し出すなら、私がその壊れた配管を毎日メンテナンスして、苦しみから永遠に解放して差し上げますわ!」



「……専用、バッテリー……?」



レオンハルト様は、何が何だか分からない様子で、呆然と呟いた。



しかしその瞳には光が宿り、先ほどとは打って変わって生気を宿した。



彼の目には、もしかしとら私が呪いから救ってくれた女神のように見えたかもしれない。



だが、私の頭の中にあるのは、満タンになった魔石を使って「どのパーツから組み立てようか」という、不敬極まりない工作予定図だけだった。



「……殿下。あなたはそんな考え毛頭なかったかもしれませんが、この婚約破棄は、正解だったのかもしれません」



背後でガレス卿が、遠い目で天(地下牢の天井)を仰いでいた。



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