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婚約破棄されて辺境に追放されましたが、前世が機械エンジニアなので古代魔導具いじり放題で大歓喜です!  作者: 紅茶


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第二十五話:ワイヤーアンカー


「遺跡? あぁ、多分場所知ってるわ」


 セバスチャンさんが手配してくれた、オアシス都市でも最高級の宿屋の一室。

 豪勢な夕食が並ぶ食卓を囲みながら、香草の効いた串焼きにかぶりついていたリタが、あっけらかんと言い放った。

 彼女の名前はリタ。年齢は十四歳。

 路地裏ではボロボロの服と乱暴な男言葉で『少年』を装っていたが、捕獲して砂と煤を落としてみれば、実は愛らしい顔立ちをした『女の子』であった。

 彼女は元々王都の出身だという。十年前の戦争のゴタゴタで両親と共にこの西の大砂漠へと難を逃れてきたが、過酷な逃避行の中で両親は他界。孤児となったところを、旅行者をカモにする現地の盗賊団に拾われ、スリとして育てられたらしい。


「案内してもいいけど、連中の根城がちょうどその遺跡の入り口でさ。盗賊がわんさかいるから、入るのは難しいよ。でも……あんたたち、見たところかなり腕が立ちそうだし、連中を追っ払ってくれるなら手引きしてもいい」

「……お前、育ててくれた恩もあるのだろう? 彼らを売ってしまってよいのか?」


 レオンハルト様が、眉をひそめて尋ねた。

 しかしリタは、串焼きの肉を飲み込んでから、ふんっと鼻を鳴らした。


「恩なんてないね。俺を直接拾って育ててくれたお頭はもう死んじまったし。今の連中は『ノロマだ』なんだと締め付けてくるし、挙句の果てには俺に『女の格好をして体を売れ』とか言い出してきやがったんだ。いい加減、縁を切りたかったところさ」

「そうか……」


 リタの過酷な境遇を聞いて、レオンハルト様は複雑そうな、痛ましいものを見る目を向けた。大公という立場上、不遇な子供の話は胸が痛むのだろう。セバスチャンさんも静かに目を伏せている。

 だが、そんなしんみりした空気の中で。

 カチャカチャ、キュイィィン……ッ!


「……おいセラフィナ。お前、人の話を聞いているのか」

「ええ、聞いてますわよ! 盗賊団を蹂躙すればいいんですわね!」


 私は食事もそこそこに、テーブルの上に様々な金属パーツを広げ、レンチと魔導ドライバーで何やら必死に組み立て作業を行っていた。


「行儀が悪いぞ。育ちの悪いはずのリタのほうが、よっぽどテーブルマナーができているじゃないか」

「あら、食事中に油を飛ばすようなヘマはしませんわ!」


 私の様子を見て、リタが呆れたようにため息をついた。


「なぁ、あんたら一体何者なんだ? そっちの旦那レオンハルトは身分が高そうだし、こんな凄腕の従者セバスチャンを連れてるくらいだから、王都のやんごとなきお貴族様なんだろうけど。……そっちの姉ちゃん(セラフィナ)も、服の生地は最高級なのに、振る舞いはどう見ても俺たちと同じスラム育ちか、それ以上のヤバい奴にしか見えないんだが」

「……鋭いな。まあ、せっかく案内を頼むのだ、素性を明かしても……」


 レオンハルト様が「俺はシュヴァルツェンベルク大公だ」と口を開きかけた、まさにその時だった。


「そんなことより!!」


 私はレオンハルト様の言葉を大声で遮り、ガタッ!と立ち上がってリタへと身を乗り出した。


「リタ! あなたの身体、よく見せてくださいな!!」

「はっ!? な、なんだよ急に!」


 ドン引きして身をすくめるリタの腕を、私は強引に引き寄せた。


「素晴らしいわ……! 砂漠でのスリで鍛え上げられた、しなやかで無駄のない筋肉! そしてこの圧倒的な小柄さと軽さ! 計算通りですわ!」

「だから何なんだよ!」


 私はテーブルの上に完成したばかりの『特殊兵装』をドン!と置いた。

 それは、腕に装着するガントレットのような形状の金属製の装具だった。表面には魔導回路が走り、先端からは鋭く湾曲した『金属の鉤爪アンカー』が覗いている。内部には極細かつ超強靭なミスリルワイヤーがロール状に巻き取られていた。


「これ、現在いるような足場の悪い砂漠地帯の移動を楽にするために開発していた『魔導式・機動鉤爪射出機ワイヤーアンカー』ですの!」

「わいやー……なんだって?」

「腕の動きと魔力に連動して、この鉤爪を圧縮空気で射出しますのよ! 相手に突き刺して引っ張ったり、逆に天井や壁、岩場に引っ掛けて巻き取り機構で一気に跳躍スイングしたりできる、立体機動装置ですわ!」


 私はフンス!と鼻息を荒くして熱弁した。


「これを装備して、私の実験に付き合ってほしいんですの! 実はこれ、レオンハルト様のような大柄な成人男性の体重を引き上げるには出力が足りず、お蔵入り寸前だったのですが……リタ! 身軽なあなたならピッタリですわ!」

「おいセラフィナ、まさか」


 レオンハルト様が、部屋の隅に置かれた巨大なトランクを指差した。


「セバスチャンに持たせていたあの大荷物の正体は……こんなものを持ってきていたのか。盗まれた工具だけじゃなかったのか……」

「当然ですわ! どんな環境でも即座にテストができるよう、プロトタイプは常に持ち歩くのがエンジニアの基本です!」


 私は呆れる大公閣下を無視して、リタの細い右腕にガシャン!と強引にガントレットを装着し、ベルトで固定した。


「さ、最高ですわ……サイズもぴったり! さあリタ、ちょっとそこに魔力を流して、壁に向かって腕を振ってみてくださいな!」

「えっ、ちょ、待てって! 使い方とか安全確認とか——」


 リタが焦って腕を振った瞬間。

 ——シュパーンッ!!

 射出された鉤爪が、窓を突き破ると隣家の壁に突き刺さる。


「うんうん! 狙いバッチリですわ! そしてこのボタンを押すと…」



「ぎゃああああああっ!?」


 凄まじい巻き取り速度でリタの身体が宙へと引き上げられた。そのままカタパルトの要領で空中を飛び交い、彼女の悲鳴がオアシス都市の空に響き渡った。


「素晴らしい! 巻き取り速度もワイヤーの耐久値も完璧ですわ! これで遺跡のトラップ回避もバッチリですね!」


「下ろしてえええっ! 目が回るぅぅぅ!」


「……セバスチャン、宿の修理代を追加で払っておいてくれ」


「畏まりました、閣下」





 悲惨な生い立ちを持つ少女が、あっという間にマッドエンジニアの『実験動物テストパイロット』へとジョブチェンジした瞬間であった。


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