第二十二話:不器用な誘いと、西の砂漠に眠るロマン
「西の大砂漠だ」
工房の扉を開けるなり、レオンハルト様が唐突にそう切り出した。
「……はい?」
私は、分解途中のゴーレムの歯車を持ったまま、ぽかんと口を開けた。
ここ数日、私は第一魔導工房に半ば引きこもり状態になっていた。理由は明白だ。
(あ、あああ……あの時の感触が、まだ唇に……っ!)
私は手にした歯車で顔を隠し、その場でしゃがみ込みたくなる衝動を必死に堪えた。
超巨大兵器のコントロールルームでの出来事。緊急停止とマスター権限取得のためにシステムが要求してきた、「粘膜接触を伴う高密度魔力交換」——要するに、キス。
前世で油と鉄にまみれた非モテの機械エンジニアだった私にとって、そんな少女漫画のような展開は刺激が強すぎたのだ。
(あれはただのセキュリティ認証プロトコル! 魔力パスを繋ぐための最も効率的な物理的アプローチ! 決して変な意味は……意味は……!)
いくら頭の中で工学的な言い訳を並べ立てても、思い出すたびに顔からプシューッと知恵熱が噴き出しそうになる。
だから私は、レオンハルト様との毎朝のメンテナンスを「全自動吸引パッド」に任せ、逃げるようにして彼を避けていたのだ。
そんな私のテリトリー(工房)に、彼が直接乗り込んできた。
しかも、開口一番に「西の大砂漠」である。
「あの、大公閣下。西の大砂漠が、どうかなさいましたの?」
私が動揺を隠しながら尋ねると、レオンハルト様は少し気まずそうに視線を泳がせ、やがて真っ直ぐに私を見た。
「……『古代ゼニスの七大兵器』という話を知っているか?」
「七大兵器? あ、いえ、存じ上げておりませんが」
しかしその言葉の響きに、私のオタク・アンテナが、ピクリと激しく反応した。
「なかば都市伝説のようなものだが、古代ゼニスがかつて、この大陸を支配せんと作り出した兵器に関する伝承があってな。眉唾だとは思っていたが、『巨大兵器』が見つかったのだ。嘘や誇張と切り捨てるものではないかとも思ってな」
レオンハルト様はそこまで一気に言うと、ふいっとそっぽを向いてしまった。
そして、耳の先をほんのりと赤く染めながら、ぼそりと呟いた。
「お前……ここ数日、ずっと俺を避けて、工房に引きこもっていただろう。……調子が狂う。それに」
「閣下……?」
「お前なら、古代遺跡と聞けば、またあの時のように……喜ぶかと思ってな。……行くぞ、セラフィナ。準備をしろ」
ドクン、と。
私の心臓が、巨大なエンジンをふかしたように大きく跳ねた。
この氷のように冷たく、恐ろしい化け物と畏怖されていた大公閣下が。
私が自分を避けていることを気にして、わざわざ私の大好きな「古代遺跡」の情報を調べ上げ、機嫌をとるために……いえ、私を元気づけるために、不器用なデート(?)に誘ってくれているのだ。
(ああ、もう……! ズルいですわ、この極上バッテリー!)
顔が熱い。今度こそ、本当に火を噴いてしまいそうだ。
でも、それ以上に——未知の古代兵器への探求心と、目の前の不器用な優しさが、私の胸をどうしようもなく締め付ける。
「……ふふっ。ふふふふっ!」
私は堪えきれず、顔を覆っていた歯車を下ろし、満面の笑みを浮かべた。
「行きます! 行きますわ、レオンハルト様! 西の大砂漠ですね! ガレス卿とクラウス様にもお声がけして、砂漠用の防塵フィルターと冷却システムの準備を急がなくては!」
「……ああ。そうしてくれ」
私がいつもの調子を取り戻したのを見て、レオンハルト様もホッとしたように、そしてとても優しく、口元に笑みを浮かべた。
「あの、閣下。……ここ数日、メンテナンスをサボってしまって申し訳ありませんでしたわ。……これからは、ちゃんと私が直接、診させていただきますから」
「……ああ。頼む」
私たちは互いに視線を交わし、そして同時に顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
……西の大砂漠。
私たちには、未知のテクノロジーと新たなロマンが待っているのだ。
砂と熱砂に眠る、新たなる古代兵器。
マッドエンジニアと大公閣下の、少しだけ甘酸っぱくて、最高にクレイジーな冒険の旅(シーズン2)が、今、再び幕を開けようとしていた。




