第二十一話:目覚めを待つ厄災
北の辺境で、マッドエンジニアの令嬢が超巨大兵器を雪かきマシーンに魔改造していた頃。
王都の王城・謁見の間は、かつてないほどの混乱と絶望に包まれていた。
「ええい、役立たずどもめ! 王都の『大結界』はどうなっているのだ!」
王太子ジュリアスが、玉座の前で苛立たしげに声を荒らげる。
彼の足元では、王宮の魔導技師たちが青ざめた顔で平伏していた。
「も、申し訳ございません殿下! 結界を維持する魔導炉の出力が低下し続けておりまして……」
「ならばすぐに直せばよかろう!」
「そ、それが……設計が古すぎて我々には構造が分からず……! セラフィナ様がいたらわかるのですが……」
「奴に様などつけるな!」
ジュリアスの顔が引きつった。
自分が「嫉妬に狂った悪女」として追放した元・婚約者が、実は王都の命綱を握っていたという事実。それを認めるわけにはいかなかった。
「……で、殿下ぁ……」
ジュリアスの腕にしなだれかかるようにして、光の聖女アリアが涙声で訴える。
「きっとセラフィナ様の嫌がらせですわ! 去り際に、結界の魔導炉に呪いをかけていったに違いありません! このままでは、魔物が王都に入ってきてしまいます……っ!」
「……ええい、あの忌々しい悪女め!」
己の非を棚に上げ、ジュリアスはギリッと奥歯を噛み締めた。
「こうなったら、直ちに討伐軍を編成しろ! 北の辺境へ兵を差し向け、化け物大公もろともセラフィナを捕らえ、王都へ引きずり戻して結界を直させるのだ!」
ジュリアスが強権を発動しようとした、まさにその時だった。
バンッ! と謁見の間の重厚な扉が開き、辺境へ偵察に赴いていた斥候の騎士が、転がるようにして駆け込んできたのだ。
「で、殿下ッ! 報告、報告であります! 辺境にて、未確認の巨大な魔力反応、および、巨大な兵器を確認しました!」
「今度はなんだっ!」
怒鳴るジュリアスに対し、斥候はガタガタと全身を震わせ、見たままの地獄を語り始めた。
「そ、それが、北の大地に、全高数十メートルにも及ぶ『巨神』が出現したのです!」
「巨神だと……!?」
「しかも! 報告によりますと、騎士団を追放されたあの隻腕のクラウスが、銀色の義手を身につけ、その巨神と互角の鍔迫り合いを演じたとのことであります! これが事実なら、王都の騎士が束になっても敵いません!」
謁見の間が、水を打ったように静まり返った。
かつて見捨てた男が、人知を超えた力を手に入れている。ジュリアスの顔からサァァッと血の気が引く。
「さ、さらに恐ろしいことに……! その巨神は調伏され、現在は辺境伯城の周囲を大人しく『雪かき』しているとのことです!」
「……は?」
「完全に、セラフィナ様と大公の支配下に置かれたのです! あのような規格外の兵器を従えた辺境伯領に、我々の軍隊で勝てる見込みは万に一つもございません!」
絶望的な報告に、ジュリアスはその場にへたり込みそうになった。
どうあがいても、軍事力では勝てない。もし辺境がその気になれば、あの巨神が一日で王都を踏み潰すだろう。
「……お、終わりだ。我が王国が……」
ジュリアスが頭を抱えた、その時だった。
部屋の隅で控えていた王宮の筆頭歴史学者が、静かに口を開いた。
「……殿下、ご安心を。その巨神は、あの令嬢がゼロから造り出したものではございません。……恐らく、千年前の『古代魔導帝国ゼニス』の遺物でしょう」
「古代の遺物だと?」
「はい。王家の伝承によれば、かつて大陸を支配したゼニス帝国は、世界を滅ぼしかねない『七つの古代兵器』を建造し、大陸の各地に封印したとされております。北の雪原に現れた巨神は、その一つに過ぎません」
歴史学者の言葉に、ジュリアスの目にギラリと邪悪な光が宿った。
「……七つの兵器。……ならば、我々も別の古代兵器を獲得し、その軍事力をもって辺境伯領を攻めればよいのだな!?」
「え、ええ。理屈の上ではそうなりますが、制御する方法など……」
「殿下!」
アリアが進み出て、自信満々にジュリアスの手を取った。
「私には『光の聖女』の力がありますわ! 私の聖なる祈りをもってすれば、古代の兵器も必ずや私たちの言うことを聞くはずです!」
「おお、アリア! やはり君こそが真の希望だ!」
愚かな王太子と偽りの聖女は、互いの顔を見合わせて醜悪な笑みを浮かべた。
圧倒的な力を持つ辺境に抗うため、彼らもまた「開けてはならないパンドラの箱」に手をかけようとしているのだ。
「フハハハッ! 待っていろセラフィナ、そして化け物大公! 僕たちが最強の古代兵器を目覚めさせ、貴様らを蹂躙してやる!」
ジュリアスはマントを翻し、玉座の間を高らかに響く声で命じた。
「直ちに探索隊を編成しろ!目標は——」




