第十八話:古代の謎セキュリティ
巨大なファンをすり抜け、超巨大兵器の頭脳であるコントロールルームへと到達した二人。
壁一面に幾何学的な魔導回路が這い、中央には巨大な操縦シートと複雑なコンソールが鎮座している。
「素晴らしいですわ! 関節部のトルク、魔力炉の出力効率……どれをとっても現代技術の遥か先を行っています! 『機械エンジニア』としての血が騒ぎますわ!」
セラフィナは、いつの間にか自作の魔導情報端末をコンソールに接続し、表示される巨大兵器のスペックデータを見て狂喜乱舞していた。
「おい、セラフィナ! 遊んでいる場合か。外でクラウスが死にかけているんだぞ!」
レオンハルトが怒鳴りつける。
「早く緊急停止のボタンを探せ!」
「ちょっと待ってくださいな、今このOSのアーキテクチャの根幹部分を解析中で……」
全く言うことを聞こうとしないセラフィナに苛立ち、レオンハルトは舌打ちをして自力で探すことにした。緊急停止というくらいだ。何か分かりやすい「大きくて赤いボタン」のようなものがあり、それが緊急停止や自爆を起動するはずだと考え、必死にそれらしいものを探し始める。
しかし、その時だった。
セラフィナがメインコンピューターを深堀りしすぎたのか、突如としてコントロールルームに甲高いアラートが鳴り響いた。
「ビーッ! ビーッ!」
『——警告。未登録の生体反応、及び不正アクセスを検知。マスター権限の確認を求めます。六十秒以内にパスワードを入力されない場合、機体は自爆シークエンスに移行します』
「自爆!? お前、何をした!」
「分かりませんわ! 悪の組織でもない限り、コントロールルームに自爆装置なんて置きませんから! どんな設計思想なんですの!?」
冷酷なカウントダウンが非情にもスタートする。
「パスワードなんて分かりませんわ! ええい、こうなったら『新規ユーザー登録』でもしてやりましょう! ……あ、ありましたわ! ここからマスター権限を上書き登録できます!」
セラフィナが猛烈な勢いでパネルを操作すると、システムが新たな音声を再生した。
『——新規ユーザー登録シークエンス、開始。現在位置にいる二名の生体魔力の、完全な同調を要求します。魔力パスを極限まで交差させるため、粘膜接触を伴う高密度の魔力交換を維持してください』
「ね、粘膜、接触……!?」
「それはつまり……キス、ということか?」
「な、なんでこんな承認システムなんですの! ロボットの起動にそんなイチャイチャが必要なんて、どんな変態設計ですか! なんでやねん!!」
いつもなら「極上のバッテリー」だの「効率的なメンテナンス」だのと豪語しているマッドエンジニアの余裕は、今や完全に消え失せていた。
彼女は顔を熟れたトマトのように真っ赤に染め、激しくツッコミを入れる。
「四の五の言っている場合か! 残り三十秒だぞ!」
「で、でも、心の準備が……っ!」
焦って後ずさるセラフィナの華奢な肩を、レオンハルトがガシッと力強く掴んだ。
「お前、毎晩のように俺をベッドに縛り付けて、俺の身体を裸にして散々弄り回しているだろう。今更何を恥ずかしがることがある」
「あ、あれは純粋なメンテナンスという名の実験です! それとこれとは、全く次元が違いますわ! キ、キスは……その……」
目を泳がせ、真っ赤になって言い訳をするセラフィナ。
『——自爆シークエンス開始まで、残り十五秒』
「責任は、取ってもらうぞ」
有無を言わさぬ低く甘い声と共に、レオンハルトの顔が近づいてくる。
熱を帯びた氷色の瞳に真っ直ぐ見つめられ、逃げ場を失ったセラフィナは、耳まで真っ赤に染めながら、ただ目を白黒させることしかできなかった。
一方、その頃。
外の雪原では——。
「ぎゃあああああっ!! まだか!? まだ止まらんのか大公閣下ぁぁぁっ!!」
囮として極限のヘイトを集め続けるクラウスが、雨あられと降り注ぐミサイルとレーザーの嵐の中を、半泣きで泥這いになりながら逃げ回っていた。




