第56話 彼と彼女の流儀
甲太郎達が洞窟を出ると、既に戦闘は始まっていた。
各々石剣や石斧を持った魔族達が、砂中から現れるミミズ……或いは芋虫のような化け物と戦っている。
その化け物の大きさは様々だが、一番数が多いのは胴回りが50センチ程度、砂上に出ている胴の長さから、全長数メートルはあると思われる個体だ。
数十体は居るだろう襲撃者は砂の中から突き上げるように現れ、ずらりと生え揃った牙を『ガチガチ』と鳴らしながら魔族に食らいつこうとする。
そう、魔族を捕食しようとしているのだ。
コンテナを背負い最後に洞窟から出て来たアズーは、その光景を見て疑問を口にした。
「これは……。これほどの規模で襲ってくるなど、今までは無かったが……」
「魔族の子供を助けた時に1回、この洞窟に来てから2回。都合3回、連中の『食事』を邪魔してやりましたからね。痺れを切らしたんでしょう」
甲太郎がそう答えた時、地面が揺れ、一際巨大なミミズの化け物が姿を現した。
胴回りは5メートル弱、砂上に見えている部分だけでも長さ20メートルはある『怪獣』だ。
『怪獣』は、その身から砂を振るい落としながら『ゴオオォォォォーーーーーン!!』と月に向かって咆哮する。
「成程、確かに痺れを切らしたようだな……。あれはこの一帯の『這いずり』共のボスだ。……そう言えば、先程甲太郎殿は連中を『ワーム』と呼んでいたが?」
「あいつらの名前が分からなかったんで、暫定的にですが勝手にそう呼んでいました」
「了解した。『ワーム』の方が通りが良いだろう、今後はそう呼ぶとしよう……。それはともかく、甲太郎殿は負傷している。下がっていてくれ」
そう言いながら一歩前に出るアズー。
しかし、甲太郎は引き下がらなかった。
「いえ、この状況を招いたのは俺の責任です。人任せには出来ません」
「しかし……」
抗弁しようとするアズーの装甲を、リューカが『コンコン』と叩いた。
アズーは一歩下がり、リューカに場所を譲る。
リューカは甲太郎の正面に立つと、彼の肩をグイと押す。
手当てを受け随分『マシ』になったとはいえ、脇腹に痛みが走り甲太郎はよろけた。
「そんな有様で戦う気か? 無茶が過ぎるぞ。それに、お前のEOSは損傷していたはずだ。キョーコも『ばってりー』の残量が僅かのはずだと言っていた……今のお前に何が出来る?」
銀髪の少女が問う。
しかし、甲太郎は尚も引き下がらなかった。
「確かに、EOSのバッテリーは残り5パーセントを切ってます、いつ機能停止してもおかしくない……。けど、俺は彼ら魔族を助け、そして助けられました。この状況は放っておけない。『出来る出来ない』じゃない、『やるかやらないか』です」
リューカの青い瞳を真っ直ぐに見返し、甲太郎はそう答える。
すると、リューカは口元に笑みを浮かべて満足そうに頷いた。
「全く、人の話を聞かんヤツだ……。だが、それでこそ私が惚れた男だ」
「あの、今はそんな事を言ってる場合じゃ……」
顔を真っ赤にして抗議しようとする甲太郎。
しかしリューカは彼の言葉を聞き流し、『怪獣』――巨大ワームを見据えながら甲太郎の左横に移動すると、右腕を甲太郎に向かって突き出した。
「手の平を合わせろコータロー。やるぞ!」
そう言いながら、ガッツポーズのようなゼスチャーで左腕の起動ドライバを見せるリューカ。
「……ッ!」
リューカの意図を悟った甲太郎は、彼女の右手に己の左手を合わせる。
そして、甲太郎は右腕の起動ドライバを、リューカは左腕の起動ドライバを同時に口元に寄せ、『変身』のためのコマンドワードを叫ぶ。
「「EOS起動ッ!変身ッ!!」」
――――2人の姿が瞬時に変じ、黒と白の戦士が月夜の砂漠に並び立つ。
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<試作2号機より電力の分配を確認。メインバッテリー急速回復中>
合わせた手の平――正確には手の平の接触端子から、甲太郎のEOSに大電力が流れ込む。
HMDに表示されたバッテリーインジケーターが急速に満ちてゆき、満充電の7割ほどまで回復した事を告げた。
合わせた手の先……、リューカは白いEOSに身を包んでいる。
曲線を多用したその戦闘服には兵器としての無骨さは無く、例えるならばF-1マシンのような洗練された機能美があった。
甲太郎の視線に気づいたのか、白いEOS――リューカが彼に顔を向け、力強く頷く。
その瞬間、甲太郎の心臓が『ドクン』と強く鼓動し、体の奥底から熱い思いがこみ上げて来た。
全身を焼いてしまうような激情。
しかし、それは不快なモノではなく、限りない勇気と力を与えてくれるモノ。
甲太郎は思う。
『彼女と一緒なら、恐れるモノなど何もない』――――と。
■■■
「私があのデカブツの相手をしよう! アズーよ、コータローの装備をッ!!」
言うが早いが、リューカは助走をつけるとBSブースターを起動し、砂煙を巻き上げて上昇してゆく。
「ちょ、姫様ッ! いくらなんでもバッテリー7割回復とか、電力分配し過ぎ……って飛んだッ!!?」
甲太郎の驚きをよそに、白いEOSは巨大ワームの周囲を飛び回り、一撃離脱戦を開始する。
「なんだありゃ……」
思わず茫然とする甲太郎の足元に、アズーが背負っていたコンテナを降ろす。
「京子殿の話では、彼女のEOSの蓄電容量は甲太郎殿のEOSの倍近くあるそうだ、問題は無いだろう。それより、これの中を確認してくれ、貴方用の装備が入っている」
「わかりました!」
甲太郎がコンテナの中身を確認すると、入っていたのはEOSの腰部に取り付けるウェポンコンテナと、装甲を応急修理するためのバリアシールだった。
密封パックを破り、湿布薬のようなバリアシールをペタペタと胸部装甲の亀裂に貼り付けてゆくと、バリアシールは急速に硬化し亀裂を塞ぐ。
元々の装甲強度には劣るが、装甲の亀裂を放置するよりは遥かにマシだ。
その応急修理の最中、1匹のワームが甲太郎に襲い掛かるが、アズーがその身を盾にして受け止める。
腹の装甲に食い付いたワームをアズーは両手で掴み、左右の手を逆方向に捻り――――つまりは雑巾を絞る要領で『ねじ切った』。
目の前で繰り広げられた光景に、甲太郎は再び驚く。
「どれだけストロングスタイルなんですか……」
「パワーと頑丈さが売りだ。それよりも、早くその装備を」
特に気負いもせず、当然の事と言わんばかりのアズーに甲太郎は頷いて答えると、現在装備している空のウェポンコンテナを切り離す。
「両腰部ウェポンコンテナ、パージ!」
ハードポイントのロックが解除され、両腰のウェポンコンテナが『ズシン』と足元に落ちた。
甲太郎は新しいウェポンコンテナを取り出し、慣れた手つきでハードポイントに接続する。
戦闘サポートAIが接続されたユニットを確認、警告音声を発する。
<新規のユニットが接続されました。情報を確認中……、完了。接続を確立、使用可能です……。最優先実行プログラムを確認、音声メッセージ1件、再生します>
「音声メッセージ?」
疑問を口にする甲太郎。
次の瞬間、その耳に響いたのは忘れようもない、懐かしい声だった。
『甲太郎、聞こえてる!? これを聞いてるって事は非常時だろうから、サクサク話すわよッ!』
「ッ!?」
再生されたのは姉――京子の声だった。
甲太郎の目尻に涙が浮かび、視界が歪んだ。
『今装備したウェポンコンテナの説明をするわ、しっかり聞きなさい! まず右のコンテナだけど、それはコンテナじゃなくてそれそのものが武器よ! 展開して小口径のリニアカノンになるわ!』
京子の説明と同時に、HMDに簡単な図解が表示される。
中折れ式の個人携行用カノン砲らしい。
『使用弾薬は40ミリテレスコープ砲弾、弾頭はAPFSDSを参考に開発した徹甲仕様弾頭よ! コンパクトさが売りのテレスコープ弾とはいえ、40ミリともなると流石に嵩張るんでね、用意できたのは予備弾倉も含めて15発! 大事に使いなさい!』
HMDの表示が切り替わり、左側のウェポンコンテナの内容物一覧が表示される。
『次に左のコンテナだけど、今言った40ミリ砲弾の予備弾倉とヒートマチェット……、それから個人防御火器代わりにマシンピストルとその予備弾倉を入れておいたわ!』
HMDに表示されていた一覧の中から、そのマシンピストルがクローズアップされる。
『使用弾薬は.45ACPの強装弾。この銃は電磁加速機能は無いけど、高サイクルで弾丸をばら撒くわ! 予備弾倉含めて240発入れといたけど、調子に乗って使うとすぐに弾切れになるわよ! ……ここまでの説明でもう気付いてると思うけど、このアセンブリは即興の砲撃戦仕様ってわけ。リューカちゃんだけどね、あの子、アンタが思ってる以上に『戦える』わ! 前衛は彼女に任せてアンタは支援に回る事!!』
ここまで早口で捲し立てた京子は『コホン』と咳払いをして、一転穏やかな口調で言葉を続けた。
『最後に、渡良瀬中佐から命令よ。『生還せよ、それ以外は許可しない』だって。……私も待ってるから、寄り道は程々にして早く帰ってらっしゃい。以上、終わり!』
音声メッセージの再生が終わる。
甲太郎の口元に笑みが浮かんだ。
「…………まいったなぁ」
ポツリと一言零すと、彼は左のウェポンコンテナからマシンピストルを引き抜き、迫りくるワームに狙いを定めた。




