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ホライゾンゲート  作者: 大野 タカシ
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第18話 光と影

■アードラ要塞、最上階連絡用通路


 指揮官執務室から出たリューカは、一人通路を歩いていく。

 魔族討伐軍を受け入れ、50年ぶりにフル稼働しているアードラ要塞だが、この高級士官用の部屋が並ぶ区画は、リューカ以外の人影も無く、妙な静けさに包まれていた。


 リューカは、自身の無力と見識の無さに腹が立った、悔しかった。

 自然と、歩幅が大きくなる。


 窓からは西日が差し込んでいる。

 到着した時はまだ日が高かったが、魔族討伐軍入城に伴う受け入れ作業の手伝いや、先程の将軍への陳情であっという間に時間は過ぎ、もう夕刻だ。


 入城した魔族討伐軍の人員には大休止が発令されているが、リューカは割り振られた自室には戻らず、階段を降り要塞の地下に向かった。



■アードラ要塞、指揮官執務室


 「討伐軍の受け入れ作業が完了しました。併せて、指示の通りあの若者を地下の独房に収監しましたが……、彼は何者ですか?」


 報告の最中、ダストン守備隊長が疑問を口にする。

 この辺りでは滅多に見ない黒髪黒目、一目で異民族と分かる顔つきはそれだけでも人目を引く、さらにあの服装だ、興味が頭をもたげるのも無理はない。


 「『剛剣』殿の紹介で討伐軍に迎え入れたのだが、クルス十士長(じゅっしちょう)と一悶着あってな……」


 ルーカス将軍の答えに、ダストンは『ああ』と得心する。


 「それで、クルス家の3男坊は(かわや)の掃除を命じられた、と」


 彼はこの指揮官執務室に来る途中、要塞の厠を掃除するアーベルの姿を目にしていた。

 将軍は一つ頷くと、話を続ける。


 「クルス十士長には半年間の減俸も言い渡してある。まあ、それはさて置き、あの若者……、名はコータロー・セリザワと言う。彼は『こことは違う異世界から、罪人を追ってやって来た』のだそうだ」


 「それはまた……、何と言いますか……」


 荒唐無稽な話に、どう反応したらいいのか困った様子のダストン。

 ルーカス将軍は肩を(すく)める。


 「話だけ聞いたなら、私も君と同じ反応をしただろうな……。だが彼は、異形の黒い鎧を纏い、見たことも無い武器と(いかずち)を操って、魔族の偵察部隊を撃破して見せたのだ」


 「魔族の偵察部隊!? 我々の防衛線を掻い潜った連中が?」


 アードラ要塞を預かるダストンは、要塞の防衛線を越えた魔族が居たことに驚く。


 「ああ、その戦闘で我が方にも損害が出た。だが、重要なのはここからでな、その魔族の中に異常な身体能力と再生能力を持つ個体が居た。コータローの話では、彼が追っている『罪人』が自らの尖兵とすべく強化したモノであるらしい。彼は強化された魔族を『クリーチャー』と呼んでいた」


 ルーカス将軍は窓から外を見やる。

 もう殆ど日の落ちた空、そして、眼前に(そび)えるヘレネア山のシルエットが確認できる。


 「彼は、その『罪人』が魔族と行動を共にしている可能性が高いと言っていた……。あの山で何か妙な動きは無かったか?」


 将軍の質問に、ダストンは思い当たるフシがあるのか、少しの間口元に拳をあてて思考すると『実は……』と口を開く。


 「これも併せて報告しようと思っていたのですが。物見の塔からヘレネア山を監視している遠視能力者の一人から、魔族の群れの中に黒髪で白衣の人間が居たと報告が上がっておりまして……」


 アードラ要塞の屋上には、物見のための高い塔がある。

 数人の遠視能力者が交代で常駐し、魔族の動きを監視しているのだ。


 「本当か?」


 「その報告一例だけなので何とも……。偵察に出た部隊からは同様の報告は上がっておりませんし、勘違いではと思っていたのですが」


 遠視の能力(ミスティック)は純粋に『視力を強化するもの』だ、他者より遥か遠くを見通せるとはいえ、やはり限界はある。

 さらに、物陰や暗闇の中を見透かすことは出来ない。

 その為、日中は遠視能力者と哨戒(しょうかい)部隊による監視と偵察を行い、夜間は哨戒部隊を増員して魔族の動きに対応していた。


 「一例だけとはいえ、『黒髪の人物』か……。出来過ぎだな」


 将軍の脳裏に甲太郎の姿が浮かぶ。

 黒髪の彼が追っていると言う罪人、そして、遠視能力者の目撃報告も『黒髪の人物』だと言う……。


 ダストンが口を開く。


 「それと、ヘレネア山の魔族ですが……、静か過ぎるのです。我が方の偵察部隊が連中の橋頭堡(きょうとうほ)に接近しても、何の反応もありませんでした。その一方で逆に偵察部隊を差し向けて来た事と言い、過去に例がありません」


 ルーカス将軍は重々しく頷く。


 「ああ、異例尽くめだ。先程姫様にも申し上げたが、この先何が起こるか分からん。いつもより警戒を強化してくれ」


 「了解しました」


 胸に手を当てて敬礼するダストンに、ルーカス将軍はもう一つ指示を出す。


 「我々が遭遇した『強化された魔族』がまだ居る可能性がある、早急にコータローを部隊編成に組み込みたい。兵士達にそれとなく『あの若者は信用できる』と流してくれないか」


 「お任せ下さい。では、失礼します」


 ダストンは執務室を後にした。

 部屋に一人残ったルーカス将軍は、再度窓からヘレネア山を見る。


 異世界から来たと言う若者と、彼が追っている『罪人』。

 異常な力を持つ魔族と、ヘレネア山で目撃された人物。


 それらの要素が、この戦いにどんな影響を及ぼすのか。

 この戦いを無事に乗り切ったとして、その先には何が待つのか。

 

 光差す栄光と安寧(あんねい)への道か、新たな脅威が影を落とす混沌への道か。

 

 将軍は椅子に深く腰掛け、背もたれに体重を預ける。

 そして机上のランプの灯を見つめながら、これからの事を思案する。


 辺りはすっかり、夜の帳が下りていた。

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