表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天より落ちし君へ 第一部 宿屋の四季  作者: puni0023


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/15

第7話 遭難


一日が過ぎた頃には、熱はすっかり下がっていた。


窓の外では雪が静かに降り続いている。


羽琉は毛布から顔を出した。

「架」


「はい」


「治った」


架は額に手を当てた。


少し考えてから頷いた。


「熱はありませんね」


「でしょう?」


羽琉は満足そうに胸を張った。


架は思わず口元を緩めた。


「病気に勝ちましたね」


「勝った」

山小屋を出たのは昼頃だった。


吹雪は止んでいたが、空はまだ灰色だった。


二人は雪を踏みながら歩いた。


行き先はない。


それでも止まるわけにはいかなかった。

羽琉は何度も後ろを振り返った。


小さな山小屋は次第に見えなくなっていく。


暖炉も。


スープも。


初めて過ごした夜も。


全部そこに置いていくような気がした。

「姫様?」


隣を歩いていた架が聞いた。


羽琉は少し考えた。


「忘れないと思う、昨日のこと」


架は何も言わなかった。


けれど少しだけ優しい顔をした。

しばらく進んだ頃だった。


また雪が降り始めた。


最初は小さかった。


けれど次第に空が白く霞み始める。

「降ってきましたね」


「また吹雪になる?」


「わかりません」

羽琉は空を見上げた。


天界にいた頃は、雪などただの景色だった。


けれど今は違う。


寒い。


足が冷たい。


顔に当たる雪が痛い。


それでも——なぜか、嫌いではなかった。

その時だった。


木々の向こうで、人の気配がした。


架が警戒して前に出た。

雪をかき分けるように現れたのは、一人の女性だった。


背中には大きな籠。


籠の中には山菜や木の実が入っている。


雪をかき分けるように現れたのは、一人の女性だった。


背中には大きな籠。


籠の中には山菜や木の実が入っている。


笑うと目尻に優しいしわが寄る、五十代ほどの女性だった。


「おや」


そして次の瞬間。


「遭難かい?」


あまりにも自然な言葉だった。

羽琉は瞬きをした。


遭難。


羽琉には、ぴんとこない言葉だった。

代わりに架が答えた。


「そうみたいです」

女性は二人を上から下まで眺めた。


血の跡が残る羽琉の服。


雪まみれの姿。


荷物らしい荷物もない。


女性は二人をしばらく見つめた。


そして、小さく息をつく。


「こりゃ大変だ」


そして困ったように笑った。


「うちの宿屋においで」


羽琉と架は顔を見合わせた。

羽琉はまだ知らない。


その宿屋が、自分の居場所になることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ