第6話 発熱
目が覚めた時、小屋の中はまだ薄暗かった。
吹雪は夜のうちに止んでいた。窓の外が白く光っている。羽琉は毛布の中でゆっくりと体を起こした。
背中の傷は、まだ少し痛んだ。
それより。
頭が、重かった。
「おはようございます」
架が振り返った。暖炉の前で何かを温めていた。羽琉が目を覚ます前から、もう準備を整えていたらしかった。いつ起きたのだろう、と羽琉は思った。
「おはよう」
羽琉は立ち上がろうとした。架がすっと近づいてきた。何も言わずに、羽琉の額に手を当てた。
一瞬の沈黙。
「熱があります」
「平気だよ」
言い切った。
立ち上がった瞬間、ふらりと横に傾いた。
架の腕が、素早く支えた。
「……平気ですか」
「…………平気だもん」
「そうですか」
架は何も言わなかった。ただ羽琉をそっと毛布の上に戻した。逆らえなかった。体が、まるで言うことを聞かなかった。
「人間の体は正直ですね」
「……」
羽琉は毛布に包まったまま、天井をじっと見上げた。天使だった頃、病気になったことなど一度もなかった。体が言うことを聞かないという感覚が、こんなにも情けないものだとは思わなかった。
「架」
「はい」
「これが、病気?」
「軽い風邪だと思います」
「わたし死んじゃうの?」
架は少し考えた。
「眠れば治ると思います」
羽琉は目を閉じた。
あの子も、こういう夜を過ごしたことがあったのだろうか。
病気の母を支えながら。
自分も熱を出した夜が。
それでも朝になったら立ち上がって、また走り出す。
名前も知らない。声も知らない。
それでも、あの雪の中を走っていた小さな背中が、まぶたの裏にあった。
人間は、そうやって生きているんだと思った。
「架」
「はい」
「もう少しだけ、休んでいい?」
架が少し目を瞬かせた。
「もちろんです」
架は静かに答えた。
「急ぎません」
羽琉は少しだけ安心して、毛布をきつく握った。
外の雪が、朝の光を受けてきらきらと光っていた。




