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天より落ちし君へ 第一部 宿屋の四季  作者: puni0023


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第6話 発熱

目が覚めた時、小屋の中はまだ薄暗かった。


吹雪は夜のうちに止んでいた。窓の外が白く光っている。羽琉は毛布の中でゆっくりと体を起こした。

背中の傷は、まだ少し痛んだ。


それより。


頭が、重かった。

「おはようございます」


架が振り返った。暖炉の前で何かを温めていた。羽琉が目を覚ます前から、もう準備を整えていたらしかった。いつ起きたのだろう、と羽琉は思った。

「おはよう」


羽琉は立ち上がろうとした。架がすっと近づいてきた。何も言わずに、羽琉の額に手を当てた。

一瞬の沈黙。

「熱があります」


「平気だよ」


言い切った。

立ち上がった瞬間、ふらりと横に傾いた。

架の腕が、素早く支えた。

「……平気ですか」


「…………平気だもん」


「そうですか」

架は何も言わなかった。ただ羽琉をそっと毛布の上に戻した。逆らえなかった。体が、まるで言うことを聞かなかった。

「人間の体は正直ですね」


「……」

羽琉は毛布に包まったまま、天井をじっと見上げた。天使だった頃、病気になったことなど一度もなかった。体が言うことを聞かないという感覚が、こんなにも情けないものだとは思わなかった。

「架」


「はい」


「これが、病気?」


「軽い風邪だと思います」


「わたし死んじゃうの?」


架は少し考えた。


「眠れば治ると思います」

羽琉は目を閉じた。

あの子も、こういう夜を過ごしたことがあったのだろうか。

病気の母を支えながら。

自分も熱を出した夜が。

それでも朝になったら立ち上がって、また走り出す。


名前も知らない。声も知らない。

それでも、あの雪の中を走っていた小さな背中が、まぶたの裏にあった。

人間は、そうやって生きているんだと思った。

「架」


「はい」


「もう少しだけ、休んでいい?」


架が少し目を瞬かせた。


「もちろんです」


架は静かに答えた。


「急ぎません」

羽琉は少しだけ安心して、毛布をきつく握った。

外の雪が、朝の光を受けてきらきらと光っていた。

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