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天より落ちし君へ 第一部 宿屋の四季  作者: puni0023


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第14話 迷子

零とルカが宿に泊まり始めてから1か月ほどが過ぎた。


宿は以前より賑やかになった。


良くも悪くも。


「架ー!」


村の広場から声が飛ぶ。


「薪運ぶの手伝ってくれ!」


「今行きます。」


架は斧を置くと迷いなく立ち上がった。


最近では村人たちも遠慮なく架を頼るようになっていた。


薪割り。


荷物運び。


屋根の修理。


畑仕事。


頼めば大体何でもできる。


「助かるよ兄ちゃん!」


「いえ。」


架は今日も働いていた。


一方で。


「ルカー!」


宿の奥からおかみさんの声が響く。


「つまみ食いしただろ!」


「してない!」


「口の周りにソース付いてるよ!」


「ほんとだ!」


あははと笑い声が響く。


「ほんとだじゃない!」


ルカは今日も怒られていた。


そして。


「零は?」


おかみさんが尋ねる。


「朝からいません」


架が答える。


「またかい」


零は相変わらずだった。


ふらりと出かけて。


数日後に戻ってくる。


宿へ帰ると。


何事もなかったように縁側でお茶を飲んでいる。


「帰ったんですか」


架が言う。


「帰った」


零が答える。


「どこへ行ってたんですか」


「散歩だ」


絶対に散歩ではない。


だが誰も深く聞かなかった。




そんなある日。


宿の台所では。


「羽琉ちゃん、その皮厚すぎるよ」


「えっ」


羽琉がじゃがいもを見る。


確かに半分くらいなくなっていた。


「もったいない!」


「ごめんなさい!」


宿へ来たばかりの頃なら。


ここでじゃがいもが床を転がっていた。


けれど今は違う。


包丁も使える。


洗濯もできる。


料理だって少しずつ覚えていた。


「見て!」


羽琉が得意げにじゃがいもを持ち上げる。


「上手になった!」


おかみさんが覗き込む。


「うん」


少し考える。


「前よりはね」


「やった!」


羽琉は嬉しそうに笑った。


その時だった。


「あっ」


羽琉が立ち上がる。


「じゃがいも足りなくなっちゃった!」


空になった籠を抱えながら振り返る。


にこにこしている。


おかみさんが嫌な予感を覚えた。


「羽琉ちゃん?」


「じゃがいも買ってくる!」


「一人で?」


「大丈夫!」


そう言って飛び出そうとする。


「待ちな!」


おかみさんが慌てて捕まえた。


「何?」


「この前市場で迷っただろう!」


「二か月前だよ!」


「三日前も迷ったよ!」


羽琉が固まる。


確かに迷った。


「大丈夫だもん」


「大丈夫じゃないねぇ」


そこへ。


ちょうど外仕事から戻った架が現れた。


おかみさんは即座に指を差す。


「架!」


「はい」


「一緒に行っとくれ!」


「承知しました」


羽琉が頬を膨らませる。


「一人で行けるのに」


「無理です」


即答だった。


「即答した!」


「迷いますので。」


「迷わないもん!」


「迷います。」


「迷わない!」


「迷います。」


いつものやり取りだった。


それを見ていたルカが大笑いする。


「なんで毎回迷うんだよ!」


「迷ってないもん!」


「迷ってるだろ!」


「たまたまだもん!」


「それを迷子って言うんだよ!」


ルカは腹を抱えて笑った。


縁側では零がお茶を飲みながら眺めていた。


ても平和だった。


少なくとも今は。


誰もが、そう思っていた。

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