第13話 友達
歌が終わると、大きな拍手が広場を包んだ。
羽琉はほっと息を吐く。
思った以上に緊張していたらしい。
「羽琉ちゃん最高だったよ!」
「きれいだったー!」
村人たちが口々に声をかける。
羽琉が照れくさそうに笑った、その時だった。
「きれいだね」
聞き慣れない声がした。
振り返る。
紫の瞳の青年が立っていた。
人懐っこい笑顔。
どこか危うい雰囲気。
ルカだった。
「ありがとう」
羽琉が笑う。
ルカは首を傾げた。
そして。
まるで天気の話でもするように言った。
「天使でしょ?」
空気が止まった。
羽琉の笑顔が固まる。
その瞬間。
架が一歩前へ出た。
自然な動きだった。
けれど羽琉を庇うように立っている。
「どちら様でしょうか。」
静かな声だった。
しかし警戒は隠していない。
ルカは肩を竦めた。
「いやー、やっぱりそうだよね?」
「答える必要はありません。」
架の目が細くなる。
その時だった。
「相変わらずだな。」
別の声がした。
人混みの向こうから現れたのは、銀色の髪をした男性だった。
落ち着いた雰囲気。
どこか疲れたような顔。
だが。
架はその姿を見た瞬間、固まった。
「……零さん?」
男性がわずかに目を見開く。
それからふっと苦笑した。
「久しぶりだな」
架は言葉を失った。
幼い頃の記憶。
三歳の頃。
突然姿を消した叔父。
家族が何度も探した人。
その面影が目の前にあった。
「……零さん」
ようやくそれだけを絞り出す。
零は小さく笑った。
「大きくなったな」
‐
その後。
零の提案で一行は宿へ戻ることになった。
「話なら落ち着ける場所の方がいい」
その言葉に全員が頷く。
宿屋へ戻る道中。
架は何度も零を見ていた。
本当に本人なのか確認するように。
宿へ着く頃には、おかみさんも事情を察していた。
「知り合いかい?」
「叔父です」
架が答える。
おかみさんは目を丸くした。
「そりゃまたすごい偶然だねぇ。」
席につく。
だが架の警戒はまだ解けていなかった。
視線はルカへ向いている。
それに気付いた零がため息を吐いた。
「安心しろ。」
「……」
「ルカは悪いやつじゃない。」
ルカが笑う。
「ありがと零。」
「事実を言っただけだ。」
架は少しだけ考えた。
それから小さく頷く。
零を信用している。
だから完全ではなくても警戒を少し下げた。
その頃。
当のルカは。
もう羽琉の隣にいた。
「お前面白いな。」
「そう?」
「うん。」
ルカは笑う。
「俺、人間界を旅してるんだ。」
「旅?」
「そう。面白そうな場所をふらふらしてる。」
羽琉は目を輝かせた。
「楽しそう!」
「だろ?」
話が妙に合った。
数分前に出会ったばかりとは思えないほど。
「羽琉はなんでここにいるんだ?」
ルカが尋ねる。
羽琉はあっさり答えた。
「追放されちゃったの!」
ルカが固まる。
「……え?」
羽琉は笑っている。
まるで昨日転んだ話でもするように。
ルカは数秒考えた。
そして。
「あはははは!」
盛大に笑った。
「なんだそれ!」
羽琉もつられて笑う。
零は頭を抱えた。
架は少しだけ不安になった。
なぜか。
ものすごく仲良くなっている。
「俺、この宿泊まる!」
ルカが勢いよく言う。
「え?」
「楽しそうだし!」
零はため息を吐いた。
「好きにしろ。」
どうせ止めても聞かない。
おかみさんは二人を見て笑った。
「部屋なら空いてるよ」
「やった!」
「ありがとう!」
宿の中に笑い声が響く。
おかみさんは賑やかな食堂を見回した。
それから優しく笑う。
「まったく……」
誰に言うでもなく呟く。
「にぎやかになったねぇ。」
その声は、どこか嬉しそうだった。




