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天より落ちし君へ 第一部 宿屋の四季  作者: puni0023


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12/14

第12話 はじめてのお祭り

宿屋での暮らしにもすっかり慣れた頃だった。


羽琉は帳場に座りながら帳簿をまとめていた。


「羽琉ちゃん」


おかみさんが手を振る。


「なに?」


「祭りで歌ってくれないかい?」


羽琉が顔を上げた。


「お祭り?」


「村の収穫祭さ」


一年で一番大きな行事だった。


近隣の村からも人が集まる。


屋台が並び、夜には広場で音楽が奏でられる。


「去年までは旅の楽団を呼んでたんだけどねぇ」


おかみさんが笑う。


「今年はうちの看板娘がいるだろ?」


羽琉は少し驚いた。


「私?」


「そうだよ」


「歌っていいの?」


「むしろ歌っておくれ」


羽琉は少しだけ考えた。


それから笑う。


「うん!がんばる!」




祭りの日。


村は朝から賑わっていた。


広場には屋台が並び、子供たちが走り回っている。


焼き菓子の甘い匂い。


肉を焼く香ばしい匂い。


人間界へ来てから何度も驚いてきた羽琉だったが、祭りは初めてだった。


「すごい……」


思わず呟く。


「迷子にならないでくださいね」


隣で架が言う。


「ならないよ」


「前回市場で迷いました」


「二回しか迷ってないもん」


「十分です」


そんなやり取りをしながら広場へ向かう。


やがて夕暮れ。


おかみさんが用意してくれた衣装。


そして架が整えてくれた髪。


普段より少しだけおめかしした羽琉は、どこか落ち着かない様子だった。


広場の中央に置かれた小さな舞台へ羽琉は上がった。


ざわめいていた人々が静かになる。


羽琉は深く息を吸った。


視線の先には村人たち。


宿のお客たち。


おかみさん。


そして架。


みんなが笑顔で見ていた。


羽琉はそっとハープに指を置く。


静かな音が広場に響いた。


歌が始まる。


天界の古い歌だった。


言葉の意味は誰にも分からない。


それでも。


不思議なほど心に届いた。


人々は耳を傾ける。


子供たちは走るのをやめた。


屋台の店主も手を止めた。


秋の夜空の下。


歌だけが静かに広場を満たしていく。




その頃。


祭りの入り口では。


二人の旅人が村へ入ろうとしていた。


「祭りだー!」


楽しそうな声が響く。


叫んだのはルカだった。


隣を歩く零は盛大にため息を吐く。


「帰りたい」


「来たばっかだろ」


「お前が来たいって言ったんだろうが」


「祭りだぞ?」


「知ってる」


「屋台あるぞ?」


「知ってる」


「じゃあ楽しめよ」


「無理」


ルカは笑う。


零は心底面倒そうだった。


その時だった。


広場の方から歌声が聞こえてくる。


ルカが足を止めた。


零も顔を上げる。


聞き覚えがあった。


あり得ないほど。


二人は顔を見合わせる。


そして同時に広場を見る。


舞台の上。


金色の髪。


透き通るような歌声。


見間違えるはずがなかった。


零の足が止まった。


ルカがぽかんと口を開く。


「……あれ」


零の眉がぴくりと動く。


「……」


数秒の沈黙。


そして。


ルカは思い切り指を差した。


「あれ天使じゃね?」


零は何も言わなかった。


静かに額へ手を当てる。


……面倒なことになった。


そんな顔だった。

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