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第66話 椰子の実

ハッチバッグを開けたまま木枠を組み立てる。石が増えたことで枠も高さが出てしっかりとした土台になっていた。これだと片手で支えながら叩くことはできないが、両手が開くので叩きやすそうだ。美琴さんに言われるまま順番に石を吊るしていく。


「当たり前なんでしょうが、右に行くほど石が小さいんですね」と小学校の木琴や鉄琴を思い出しながら言う。

「そんなに差はないんですが、一番左と一番右を並べると差がはっきりしてますよね」と俺が吊るした石の順番を確認しながらバランスを整えていく。その表情は真剣で、思わず魅入ってしまう。


じっと顔を見ていた俺に気が付いて、「何かついてます」と頬を触る美琴さん。

「何にもついてないですよ」と気恥ずかしいのをごまかすように笑う。


バランスの確認をして「じゃあ、やってみます」と美琴さん。愛用のスティックを出す。


『カーン、キーン、キキーン・・・・・・カーーン』とまとわりつく夏の湿度に負けない音が響く。まるで海と空に溶けていくようだ。目を閉じる。パーキングエリアの木々で鳴く蝉と橋を通る電車の音、そこに透き通るような響きが聴こえる。しばらく聴き入っていると音が止み、蝉の声と電車の音で現実に戻って来た。


「何か聞いたことがあるような曲でした」と声をかけると

「『椰子の実』です。知ってますか?『名も知らぬ 遠き島より 流れ寄る 椰子の実一つ』っていう歌。私、好きなんですよね。海に来ると何か歌いたくなっちゃって。石琴だとやっぱりちょっと音がずれたみたいになっちゃいますけど」と照れたように言う。


「俺は素人なんで、あんまり言うのもなんですが、その『ちょっとずれた』っていうのがいい気もします」と心から答える。


お世辞ではない俺の気持ちが伝わったようで、柔らかい表情になる美琴さん。

「よし、片づけますか!」

「もういいんですか?せっかく来たのに」

「健太さんが褒めてくれましたし、混んでくると何かやってるっていうのが目立つかなって」

「俺は美琴さんが満足できたならいいですけど」


結局もう少しだけ音を出して、元の様にばらして車に戻す。石がぶつかり合わないようにタオルをはさみながら大切に仕舞っていく。そんなに時間がかかっていないとはいえ、丁寧な作業で二人とも汗だくだ。


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