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賢者の末裔ソラトと八英雄の遺産  作者: じろりんたん


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森の警鐘

四人は西側の木柵へ到着した。


木柵の上には、等間隔でいくつもの見張り台が設置されている。

そのうちの一つに村人が駆け上がり、

台の上に置かれた木製の箱のボタンを押した。


ボォォォォン……

低く響いていた警報音が止まる。


アレクはその様子を見て言った。


「どうやら、あの見張り台付近に魔物がいるようです」


エリシアは短く頷く。


「行ってみよう」


四人は見張り台の階段を上り始めた。


見張り台は想像以上に広く、

二十人ほどは乗れる造りになっている。


見張り台にあがると、数人の村人がエリシアたちを見た。


エリシアは軽く胸に手を当てて名乗る。


「私どもは騎士団の者です」


村人は安心したように頷いた。


「ああ、騎士団の方でしたか。

 いまちょうど魔物が外にいて……」


村人は状況を簡単に説明し始める。


その間、ソラトはさっき村人が触っていた木の箱に目を向けた。


箱の上部にはスイッチ。

村の内側に向けられた面には穴が開いており、

そこから警報音が鳴っていたようだ。


外側に向けられた面には――

フェルメタルの薄い板が、横に無数に並んでいる。


ソラトは木柵全体を見渡した。


どの見張り台にも、同じ木箱が設置されている。

等間隔で、規則正しく。


そして気づく。


(……これ、魔力感知器だ)


魔物が近づくと自動で警報が鳴る装置。

フェルメタルの板が魔力を拾い、

村に警報を伝える仕組み。


ソラトは胸の奥が少し熱くなる。


(すごい……ドワーフの村って、こういう技術を使ってるんだ)


森の静かな村を守るための、

精巧で実用的な魔導具。


その仕組みを理解した瞬間、

ソラトの目はさらに輝きを増した。



エリシアたちと村人は、見張り台の上から木柵の外を見下ろした。


木柵から少し離れた場所はすぐ森になっており、

その影の奥から――

巨体の魔物が一匹、ぬっと姿を現した。


村人が指をさして叫ぶ。


「そこですっ! あそこにいます!」


魔物の姿を見た瞬間、村人は息を呑んだ。


「ええっ、ドラゴン!」


エリシアは即座に訂正する。


「いえ、違います。あれはフォレストゲイターです」


馬車一台分ほどの巨体。

姿形はドラゴンに似ているため、

本物のドラゴンを見たことがない者は、よく間違える魔物だ。


エリシアは村人に尋ねる。


「ドラゴンほどではありませんが、エイシンウルフより手ごわい魔物です。

 結界は大丈夫ですか」


村人は顔をしかめて首を振った。


「いえ……たぶん無理です」


木柵にはところどころに小扉(こびら)――

村人たちが“柵戸(さくこ)”と呼ぶ出入口が作られている。


そこから武器を手にした村人が、十人ほど飛び出してきた。

急いで駆けつけてきたのか、防具を身に着けていない。


エリシアたちはその様子を見張り台から見下ろす。


アレクは眉をひそめた。


「フォレストゲイターの尻尾の攻撃は強力です。

 鎧なしは危険ですね」


村人たちは、結界の近くまで来たフォレストゲイターの前に立ちふさがり、

剣を構えてにらみ合う。


その緊張が、見張り台の上まで伝わってくる。



フォレストゲイターは、その巨体からは想像できないほど俊敏だった。


結界の前でにらみ合っていたフォレストゲイターが、

突如として村人めがけて突っ込んできた。


「来るぞっ!」


村人たちは慌てて散開し、

ぎりぎりで突進を回避する。


その隙に数名の村人が剣を叩き込むが――


ガンッ! ガンッ!


鉄のように硬い鱗に弾かれ、

刃はまったく通らない。


フォレストゲイターはそのまま結界へ突っ込んだ。


結界に触れた部分が微かに輝くが、

魔物には何の影響もない。


「結界が効いてない……!」


フォレストゲイターは木柵の手前まで迫り、

村人たちは慌てて追いかける。


魔物は振り返り、

鋭い牙で噛みつき攻撃を繰り出した。


素早い動きで次々と村人に襲いかかるが、

村人も間一髪でかわしていく。


その時――

一人の村人がフォレストゲイターの背後に回り込んだ。


見張り台の上からエリシアが叫ぶ。


「背後に回っては駄目だ!」


だが、警告は間に合わなかった。


次の瞬間――


フォレストゲイターの尻尾が鞭のようにしなり、

背後の村人の腹部を強烈に叩きつけた。


「ぐっ……!」


村人は吹き飛ばされ、

木柵に叩きつけられると、そのまま動かなくなる。


フォレストゲイターはぐったりした村人にとどめを刺そうと、

尻尾を高く振り上げ――

叩き落そうとした、その瞬間。


見張り台の上から、

ミリィが猛スピードで飛び降りた。


見張り台の村人たちが驚愕する。


「おっ、お嬢ちゃんちょっと……えっ!」


ミリィは落下しながら地面に転がる剣を掴み、

そのままフォレストゲイターの尻尾へ向かって駆け込む。


振り下ろされる尻尾。

とどめを刺される村人。


その瞬間――


ミリィは剣を下から切り上げた。


ザシュッ!


尻尾は根元から切り取られ、

切り離された尻尾は塵となって消える。


フォレストゲイターが苦痛の咆哮(ほうこう)を上げ、

巨体をよじらせた。



ミリィが尻尾を切り落としたことで、

村人は間一髪で命を拾った。


だが――腹部へのダメージは重い。

地面に倒れたまま、呼吸も浅い。


ミリィはフォレストゲイターの注意を引きつけるように、

魔物の前でひらりと動き、村人から距離を取らせた。


その直後、

エリシアも見張り台から飛び降りる。


続くようにアレクも飛び降り、

二人は瀕死の村人のもとへ駆けつけた。


エリシアは腹部を見てすぐに判断する。


「これはかなり危険だ……アレク」


アレクは即座に詠唱に入った。


「聖なる力よ、我が手に宿り、傷を癒せ」


かざした手がほのかに輝き、

村人の腹部の傷がゆっくりと回復し始める。


そして――


エリシアは立ち上がりながら言った。


「私は向こうに行く。ここを頼む」


「はい!」


アレクは必死にヒール魔術を施すが、

傷が深すぎて回復が追いつかない。


(このままでは……この人が危ない)


アレクの額に汗が滲む。




そのころ、見張り台ではソラトも降りようとしていた。


下を覗き込む。


人の背丈の三倍はある高さ。

普通なら飛び降りれば大怪我だ。


(なんでみんなこんな高さから飛び降りれるんだ……?)


見張り台にいた村人たちは、

この少年も飛び降りるのかとソラトに注目している。


その時――

ソラトはひらめいた。


手を軽く振ると、

ブンッという小さな音とともに杖が手に現れる。


村人たちは目を丸くした。


「えっ……今、何もないところから……!」


ソラトは見張り台から地面へ向けて杖を構え、

魔力を流し込む。


杖はみるみる伸びていき、

先端は地面に届いた。


ソラトは見張り台から身を乗り出し、

杖に体重を預ける。


そして――杖を縮める。


杖はゆっくりと短くなり、

ソラトは安全に地面へ降り立った。


村人たちは呆然と見送るしかなかった。



「アレクさーん!」


ソラトは地面に降り立つと同時に駆け出し、

回復魔術を施しているアレクの横へ滑り込んだ。


アレクは必死で手をかざし続けている。


「ソラト殿……!」


だが視線を向ける余裕はない。


ソラトは村人の腹部を見て、思わず声を漏らした。


「うわっ、これは大変だ……!」


すぐさま両手をかざし、ヒールを施す。


ソラトの魔力は強い。

そのヒールはみるみる傷を閉じていき、

深い裂傷がゆっくりと塞がっていく。


村人は苦しげに息をしながらも、

やがて意識を取り戻した。


命の危険は、ひとまず去ったようだ。


アレクは手を放し、安堵の息をつく。


「助かりました、ソラト殿。

 では自分も向こうに行ってきますので、ここはお任せしてもよろしいでしょうか」


ソラトは頷く。


「はい。僕も完治させたらすぐ向かいますね」


「了解しました、ソラト殿。では――」


アレクは森の方へ目を向けた。


その瞬間、表情が固まる。


新たな影が揺れた。

森の奥から――

新たにフォレストゲイターが三匹、姿を現した。


巨体が木々を押し分け、

低い唸り声が村まで響く。


アレクは息を呑んだ。


「……これはまずいですね」


ソラトも森の方へ目を向ける。


「えっ……まだ来るの!?」


アレクは決意を込めて言った。


「とりあえず自分は行きます」


「はいっ!」


アレクは駆けだし、

戦場へ向かっていった。


ソラトは再び村人の傷を確認しながら、

胸の奥に緊張が走るのを感じていた。


森の影が濃くなる。

戦いは、まだ始まったばかりだった。

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