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賢者の末裔ソラトと八英雄の遺産  作者: じろりんたん


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欠片の輝きとレオナードの本音

炎のウルフが塵となって消え、

丘のふもとはようやく静寂を取り戻した。


ソラトはミリィのもとへ歩み寄り、

両手に握られた水魔法の剣の魔術式を解除する。


剣の形をしていた水は、

ふっと力を失い、液体となって崩れ落ちた。


ミリィは握っていた魔石をぽいっと地面に捨てる。


ソラトはその魔石を見て、目を細めた。


(……緑だったはずなのに、黄色になってる)


そこへエリシアがやってくる。


ソラトはエリシアの剣にも魔術式解除を施す。

水の剣は崩れ、エリシアの手には魔石だけが残った。


エリシアは魔石を見て眉をひそめる。


「……だいぶ色が変わったな」


ソラトも覗き込みながら言った。


「確か緑だったはずですよね」


「魔力を消費して色が変わったんだ」


「へえ、魔力の残量で色が変わるなんて……便利にできてますね」


エリシアは今まで疑問に思ったこともなかったが、

言われてみればその通りだと感じた。


その時、ミリィが地面に落ちていた欠片を見つけて拾い上げた。


「かけらみーつけっ!」


エリシアは頷く。


「やはり欠片を飲み込んだ魔物だったな」


アレクも静かに言う。


「思った通りでした」


ソラトはほっとしたように笑う。


「探す手間が省けてよかったですね」


その時――

欠片を見たレオナードの目が変わった。


欲に支配されたような、

ギラついた光が宿る。


「こっ、これは……なんですか……

 なんと不思議な輝き……」


ミリィは慌てて欠片を両手で覆い隠す。


レオナードの目つきは、すぐに元に戻った。


「えっ……今のは何です?

 何かの金属片のようだったけど……

 ちょっと、もう一度見せてもらっても……」


ミリィは手を開き、欠片を見せる。


レオナードの目が再び変わる。


「おお……不思議だ……

 不思議な輝き……いったいこれは……」


ミリィはまた手を閉じて隠す。


レオナードは元に戻る。


「それで……それはいったい何なのですか。

 不思議な魅力を感じるのですが……」


ミリィはまた手を開く。


レオナードの目は、まるで宝石商のようにギラついていた。


「素晴らしい……欲しい……これは……集めたくなる……」


ミリィはその変化を見て、腹を抱えて笑った。


「おもろっ!」


エリシアは慌てて声を上げる。


「やめないかっ!」


そう言ってミリィの手から欠片を取り上げた。


欠片は、

ただの金属片ではない。


人の心を揺さぶる“何か”を持っている。


エリシアは欠片をしっかり握りしめ、

レオナードから遠ざけた。



ミリィは何かを思い出したように「あっ」と声を上げ、

丘のふもとを走り回って何かを拾い、戻ってきた。


「はいこれ」


レオナードに借りていた剣を返す。


レオナードは受け取った瞬間、目を丸くした。


「……え?」


剣は――

のこぎりのようにズタズタになっていた。


(……まあ、あの人間離れした戦い方なら、こうもなるか)

レオナードは妙に納得し、そっと鞘に納めた。


レオナードは気を取り直して言う。


「これで皆さん、任務は完了ですね」


エリシアは短く答える。


「ああ。だが、一つ気になることがある」


ソラトがすぐに反応した。


「丘の向こうから来たスラッグラッドですか」


エリシアはソラトを見る。


ソラトはすでに丘の向こうを見つめていた。


(……察しがいい。話していて楽だ)

エリシアはそう感じていた。


「おそらく、あの向こうに“洞窟”があるのではないか。

 様子を見に行こう」


エリシアは歩き出す。


ミリィとアレクが続き、

ソラトも後ろに付く。


レオナードは訳が分からないまま、慌ててついていった。


「えっ、洞窟って……なんです?」


エリシアは振り返らずに言う。


「まあ、来れば分かる」


レオナードはますます混乱したが、

それでも足を止めることなく、四人の後を追った。




丘を登り切ると、そこからは緩やかな下りになっており、

その先には再び森が広がっていた。


だが――

森の手前の地面に、ぽっかりと穴が開いている。


地面に対して斜めに下りていく洞窟。

奥は暗く、何も見えない。


エリシアは短く言った。


「……やはりあったな」


ソラトも頷く。


「ですね」


レオナードはまったく状況が飲み込めていない。


「あ、あの洞窟が……なにか……?」


エリシアは洞窟を見据えたまま答える。


「あの洞窟は、おそらくスラッグラッドの巣だ」


「スラッグラッドの……巣?」


「私たちも一度しか見ていないが、

 洞窟の奥でスラッグラッドが産み落とされている」


レオナードは目を丸くした。


「ええっ……魔物も産まれたりするんですか」


「そうだ。しかも――産み出しているのは、この大地だ」


レオナードは完全に理解が追いつかない。


(……大地が魔物を産む? どういうことだ……?)


その時。


洞窟の奥から、

一匹のスラッグラッドがぬるりと姿を現した。


レオナードは息を呑む。


スラッグラッドは辺りを見渡し、

すぐ横の森へと消えていった。


エリシアは剣の柄に手を添えながら言う。


「ついでだ。あの洞窟も潰しておこう」


洞窟へ向かおうとしたその時、

レオナードが慌てて声を上げた。


「ちょ、ちょっと待ってください!

 あの洞窟から出てくるのは……スラッグラッドだけですか?」


エリシアは振り返らずに答える。


「ああ。おそらくは」


レオナードは少し考え、

慎重に言葉を選んで口を開いた。


「じゃあ……

 あの洞窟は、そのまま置いといてもらえますか」


エリシアは振り向き、何も言わずにレオナードを見つめた。

その視線は、責めてもいないが甘くもない。

ただ「話せ」と促すような、静かな圧。


レオナードはその視線に押されるように、

胸の奥に溜めていたものを吐き出し始めた。


「俺、分かってるんです。

 ここの稼ぎをおじさんが誤魔化して、夜の飲み代にしていることを」


エリシアは表情を変えない。

ソラトは小さく瞬きをしただけだ。


レオナードは続ける。


「おじさんはああ見えて、不正とかはやらないんです。

 バレるのが怖くて……気が小さいんですよね」


(……確かにそんな感じだな)

エリシアは心の中でだけ反応した。


「でも、イーラ島の魔石採掘は最近始まった事業で、

 おじさんがすべて管理しているんです。

 だからバレないと思って……小遣い稼ぎみたいなことしてるようなんです」


アレクは無言で聞いている。


レオナードは苦笑した。


「この採掘が始まってから、異国楼に行く回数が極端に増えたり……

 あと酔っぱらったときに、女給のチャナに

 “ワシの懐は魔石で熱々だ”とか言ってましたし」


ソラトは「うわぁ」と小声でつぶやいた。


レオナードは続ける。


「だから……イーラ島に魔物がいれば採掘はできないし。

 スラッグラッドなら、ラディの騎士団でも討伐はできますし。

 洞窟から湧いてくるなら、いつまでも採掘を止める理由にできますし」


エリシアは静かに目を細めた。


(……そういうことか)



レオナードは最後に、

自分でも情けないと思っている本音を吐き出した。


「おじさんが領主を辞める時まで……

 イーラ島の魔石は採掘できないほうがいいんです」


言い終えたレオナードは、

自分の言葉の重さに気づいたように黙り込んだ。



エリシアはレオナードの言葉を聞き終えると、

短く息を吐き、静かに言った。


「なるほど。話はよく分かった。

 ならば洞窟はそのままにしておこう」


レオナードは胸を撫で下ろすように深く頭を下げた。


「ありがとうございます……!」


ミリィは口を尖らせる。


「ミリィは洞窟退治したかったなあ」


エリシアは肩をすくめた。


「もともと私たちは新種の魔物を討伐するのが目的だからな。

 別に構わないさ」


レオナードは安堵の笑みを浮かべる。


「これで……おじさんに付き合わされる回数が減らせます」


アレクはその言葉に、

(不正どうこうより、飲みに付き合わされるのが嫌なんだろうな)

と心の中で納得した。


ソラトが洞窟を見ながら言う。


「あと、洞窟がいらなくなったときの壊し方を……」


「そうだな。洞窟の壊し方は――」


エリシアは丁寧に説明を始めた。

レオナードは真剣な顔で一言も漏らすまいと聞き入る。


説明が終わると、ソラトが補足した。


「……で、核を壊したら洞窟が閉じちゃうので、

 一目散に出ることを忘れないようにしたほうがいいですよ」


レオナードは深く頷いた。


「わかりました。本当にありがとうございます」


エリシアは空を見上げ、言った。


「では、そろそろ戻るとしよう」


「そうですね。では行きましょう」


一行は港へ向かって歩き出す。


途中、アレクがふと疑問を口にした。


「でも……どうして領主は、レオナード団長殿についていくよう命じたのですか」


レオナードは苦笑した。


「ああ、それは……皆さんだけにすると、

 ここの魔石が盗まれると思ってるからなんですよ。

 ほんと、恥ずかしい話です」


エリシアは、

(まあ、そんなところだろうな)

と心の中で呟いた。


アレクは気の毒そうに言う。


「そうなんですか……レオナード団長殿も大変ですね」


レオナードは慌てて手を振った。


「まっ、まあね……あの……俺のことはレオナードでいいです。

 団長と言っても、なんちゃってですから」


アレクは困ったように眉を寄せる。


「いやしかし、団長に向かって呼び捨てなんて……」


レオナードは顔を赤くしながら言った。


「いや、自分よりはるかに強い騎士に“団長”と呼ばれるのは……

 逆にみっともないというか、その……」


アレクも負けじと言い返す。


「いやいや、自分なんてまだまだ……」


そんな二人のやり取りをよそに、

桟橋近くを歩く人影が見え、

沖に停泊していた船がこちらへ向かってくる。


帰りの船が迎えに来たのだ。


静かな潮風が、戦いの余韻をさらっていった。

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