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賢者の末裔ソラトと八英雄の遺産  作者: じろりんたん


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炎のウルフと水の剣

丘の上で揺らめいていた炎の塊が、

エリシアたちの存在に気づいたのか――


ゆっくりと立ち上がった。


その姿を見た瞬間、ソラトは息を呑んだ。


「……エイシンウルフ!」


エリシアも目を細める。


「大きさは遠すぎて分からないが……あの形状はエイシンウルフだ。

 進化で“影”から“炎”になったようだな」


ソラトは驚きながら言う。


「進化……欠片を飲み込んで、ですか」


「おそらくな」


エリシアは短く答えた。


その時、エリシアは気づいた。

いつもなら真っ先に飛び出すミリィが――


じっと様子をうかがっている。


「ミリィ、あいつは強そうなのか」


ミリィは険しい顔で炎のウルフを見つめた。


「……あいつ、この前の犬みたいにバリアー出すよ。

 新しい剣こわしたくないから、ミリィは慎重」


「また防護障壁か……厄介だな」


エリシアは仲間たちを見渡す。

全員が臨戦態勢に入っているが――


レオナードだけは、どう見ても危ない。


「ソラト、レオナードを頼む」


「了解です」


ソラトはすぐに魔術式を展開し、

全員に強化魔法をかけた。


淡い光が身体を包み、力がみなぎる。


エリシアは短く礼を言う。


「助かる、ソラト。では、こっちは私たちがなんとかする」


レオナードも強化魔法の効果を感じ、驚きの声を上げた。


「おお……全身に力がみなぎる……!

 これなら俺も戦えそうだ!」


エリシアは即答した。


「いや無理だ。邪魔にならないように、ここにいてくれ」


レオナードは言葉を失った。


その時――


丘の上の炎のウルフが、

空気を震わせるような遠吠えを上げた。


次の瞬間。


丘の向こう側から、

無数のスラッグラッドが雪崩のように駆けてくる。


地面が揺れ、砂埃が舞い上がる。


押し寄せる大量のスラッグラッドは、

丘の上の炎のウルフの横を、まるで家畜の群れのように通り過ぎていく。


その光景を見て、エリシアは気づいた。


(……あの炎のウルフ、かなり大きいぞ)


そして、数えきれないほどのスラッグラッドを見て思う。


(いくら弱い魔物と言え、これだけの数を相手にすれば体力を削られる。

 あのウルフは、それが狙いなのか)


その時、ソラトが前に出た。


「いくらザコでも、この数相手じゃみんな疲れちゃいますから……」


そう言って、杖を構える。


杖の先に光の玉が生まれ――

次の瞬間、そこから 無数の閃光が弾け飛んだ。


光の筋は次々とスラッグラッドに命中し、

黒い塵となって消え、赤い魔石だけを残していく。


ソラトはまるで掃除でもするかのように、

ゆっくりと杖を左右に振りながら、淡々と群れを消し飛ばしていった。


「この魔術は威力はないんですけど、魔力消費が少ないのと連射ができるので、

 スラッグラッドには有効ですね」


笑顔で説明しながら、

百匹単位の魔物を一方的に駆逐していく少年。


レオナードはその光景を見て、

(……いったい、この少年は何なんだ……)

と喉を鳴らした。


だが――

“質問しない”と約束してしまった以上、聞くことはできない。


(……魔法学校の……優等生……?

 いや、優等生ってレベルじゃ……)


レオナードの推測は、当然ながらまったく追いついていない。


そして――


雪崩のようだったスラッグラッドの群れは、

一匹残らず、ソラトが駆逐してしまった。


丘の上には、炎のウルフだけが残っている。


突然、炎のウルフは、丘の上から一気に駆け降りてきた。

その巨体は、かつてのエイシンウルフより一回り大きい。


走りながら――

大きく口を開ける。


次の瞬間、

炎の塊が唸りを上げて飛び出した。


ファイヤーボール。


ソラトは即座に杖を構え、前方に防護障壁を展開する。


火の玉は障壁にぶつかり、

砕け散って火花となった。


「行くぞ!」


エリシア、ミリィ、アレクの三人が一斉に炎のウルフへ切りかかる。


だが――

攻撃はすべて、透明な壁に阻まれた。


炎のウルフの強力な防護障壁が、

三人の攻撃を完全に弾き返している。


ミリィは剣を握りしめながら、歯を食いしばる。


(……新しい剣、壊したくない……)


思い切った攻撃ができず、動きが鈍る。


そして突然、ミリィは攻撃をやめると、

後方で待機していたレオナードのもとへ駆け寄った。


「おっちゃん、ちょっと剣かして!」


「えっ、あ、ああ……」


言われるがままに剣を差し出すレオナード。


ミリィは剣を受け取ると――

一目散に炎のウルフへ突っ込んだ。


高く跳び上がり、空中で前転しながら渦のように回転する。


そのまま落下の勢いを乗せ、

回転と重力を合わせた一撃を叩き込んだ。


だが――


ガキィィィン!!


炎のウルフの防護障壁はびくともしない。


エリシアも、人面犬で有効だった連撃を叩き込むが、

これもまったく通らない。


(……硬い……!)


そしてソラトが杖を振り、

炎のウルフへ向けて水の弾丸を放つ。


ドガッ!!


水弾は防護障壁にぶつかり、大きな音を立てて炸裂した。


威力は高くない魔術なのに――

効いている――


ソラトは確信した。


(……この魔物には、水が有効だ……)


炎のウルフの炎が、

ほんのわずかに揺らいだのを見逃さなかった。



さらにソラトは炎のウルフへ向けて水弾を放つ。

だが――


炎のウルフは素早く身をひねり、軽々と避けた。


もう一度撃つ。

それも避けられる。


さらに連発するが、

弾速の遅い水弾は、素早い炎のウルフにはまったく当たらない。


「警戒されている……やっぱり水魔法は有効なんだ」


ソラトは確信した。



その様子を見ていたアレクが、剣を構え、静かに詠唱を始める。


「澄みし流れよ――

 静寂を裂く刃となりて走れ」


アレクの剣に水がまとわりつき、

やがて剣そのものの形を成す。


アレクは地を蹴り、炎のウルフへ一直線に駆ける。


ザシュッ!


見事に整った一太刀が防護障壁に叩き込まれ、

今までとは違う、鈍い音が響いた。


(……効いてる!)


それを見たソラトは足元の緑の魔石を二つ拾い、

エリシアとミリィのもとへ走った。


「エリシアさん、ミリィ、これ持ってください!」


二人に魔石を渡すと、

ソラトはすぐに魔術式を展開し、魔石へと流し込む。


エリシアとミリィの手にある魔石から――

水が飴のように伸び、みるみる剣の形を成していく。


魔力のない人間でも扱える、

魔石を媒体にした水魔法の剣。


ソラトが編み出した、完全オリジナル魔法だ。


エリシアは剣を眺め、短く言った。


「……これならいけそうだ」


ミリィは目を輝かせる。


「おお、なんじゃこりゃ!」


そう言うと、反対の手で足元の魔石を拾い上げ、

ソラトに差し出した。


「もう一本っ! もう一本っ!」


ソラトは即座に魔術をかけ、

ミリィの手には 水魔法の剣が二本 揃った。


ミリィは満面の笑みで叫ぶ。


「よっしゃああああ!!」


そして――

二刀流の水剣を構え、炎のウルフへ一直線に駆けていった。

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