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賢者の末裔ソラトと八英雄の遺産  作者: じろりんたん


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レオナードの告白と炎の丘

下船すると、潮の匂いが濃く漂う浜辺に足が沈んだ。

レオナードの案内で、エリシアたちは魔物の出現地点へ向かうことになった。


帆船は沖へと戻り、待機する。


レオナードの案内で、エリシアたちは森の細い道へと入っていく。


「魔物は、この森を抜けた先の魔石採掘場にいると思います」


レオナードの声が、湿った森の空気に吸い込まれていく。


しばらく黙って歩いていたが、レオナードがぽつりと話し始めた。


「いやあ……すっかり体調が戻りました。本当にありがとうございます」


エリシアは横目でレオナードの顔を見る。


(……さっきよりはマシだが、目の下のクマは慢性的だな。

 領主の付き合いが“日常”なんだろう)


エリシアは率直に言った。


「領主の付き合いは、ある程度断らないと体がもたないのでは」


レオナードは少し悩むように視線を落とし、

やがて決心したように口を開いた。


「じつは……領主は俺の伯父なんです」


(見ればわかる)

エリシアは心の中で突っ込んだが、表情には出さない。


レオナードは続ける。


「おじさんには息子がいるんですが……成人した時に家を出て、グランツに行ったんです。

 今はグランツ行政院で働いて、結婚もして、子供もいるんですけど……

 嫁と子供をおじさんに会わせるのが嫌で、二度と帰らなくなったんです」


エリシアとアレクは、

(……まあ、そうなるだろうな)

と心の中で納得した。


レオナードは続ける。


「でも、おばさんは年に一回、グランツに会いに行ってるみたいですけどね」



エリシアは少し意外に思い、尋ねた。


「グランツは成り上がりの新興貴族がほとんどの行政院ではないか。

 居心地が悪くならないのか」


レオナードは首を振る。


「息子……ジャック兄さんは、おじさんとは正反対の性格なんです。

 だから、うまくやってるようです」


エリシアとアレクは同時に思った。


(……領主が“反面教師”になっているんだな)


レオナードは少し前を見つめ、静かに言った。


「だから……ジャック兄さんはラディの領主にはならない。

 なので……俺がなろうと思ってるんです」


その声には、

権力者になりたいわけではない、

ただ静かな決意があった。



レオナードは森の細い道を進みながら、

抑えていたものがついに溢れ出すように語り始めた。


「おじさんは若い人たちの意見は否定して、

 自分のやり方だけで行政運営してるんですよ」


その声には、疲れと諦めと、少しの怒りが混じっていた。


(……まあ、想像はつく)

エリシアは表情を変えずに聞いていたが、心の中では静かに頷いていた。


「新しい事についていけない人が舵取りをしている今の行政院はおかしくなって、

 ラディ全体が歪(いびつ)な街になってきてます。

 それを俺は変えたいと思ってるんですよ」


アレクは横で静かに相槌を打つ。


(変えたいと思うだけでも、この男はまだまともだ)


レオナードは続ける。


「そのためには領主の座を譲ってもらわなければいけないので、

 いつもおじさんの機嫌を取って……

 おじさんの都合で騎士団長までやらされて……」


(……やっぱりそういう経緯か)

エリシアは心の中で納得する。


「でも、なかなかおじさんは引退しないんです。

 “ワシがいなくなったら街はつぶれる”とか言って……

 正直、いい加減にしてほしいですよ」


レオナードは深く息を吐いた。


その背中には、

“どこにでもいる自己中心的な老人”が領主になった時の悲劇が、

そのまま刻まれているようだった。


エリシアとアレクは、

(……これは大変だな)

と同時に思った。


森の奥へ進む足音だけが、しばらく二人の胸の内を代弁するように響いていた。



レオナードはまだ語っていた。


「俺は思うんです。ラディは港町だから物流を整備して――」


その時だった。


エリシアが足を止め、鋭い声で言った。


「魔物は一匹ではないのか。複数の魔物の気配がするぞ」


レオナードは驚いて振り返る。


「いえ、一匹だけですが……」


アレクも前方を見据え、低く言った。


「おそらくスラッグラッド……複数来てますよ……」


言い終えるより早く――

前方の茂みが爆ぜるように揺れ、

大量のスラッグラッドが飛び出してきた。


「うわっ!?」


レオナードは尻もちをつき、後ずさる。


エリシアは即座に叫んだ。


「ソラト、レオナードを頼む!」


「わかりました!」


ソラトは駆け寄り、レオナードの周囲に素早く結界を展開する。

淡い光の膜がレオナードを包んだ。


前方では――

ものすごい数のスラッグラッドが波のように押し寄せてくる。


だが。


エリシアの剣は舞うように閃き、

ミリィの剣は獣じみた速度で振り抜かれ、

アレクの剣は寸分の狂いもなく急所を捉える。


三人は一歩も引かず、

次々とスラッグラッドを仕留めていく。


ソラトは結界の中でレオナードを守りながら、

うちもらしに備えていたが――

その必要はなかった。



やがて百匹以上のスラッグラッドは、

一匹残らず全滅した。


森に静寂が戻る。


レオナードは尻もちをついたまま、呆然と前方を見つめていた。


エリシアが歩み寄る。


レオナードはうつむき、震える声で言った。


「みっともない姿をさらしてしまいました……

 俺……魔物討伐なんてやったことないんですよ。

 本当に……すみません……」


エリシアはその言葉を聞きながら、心の中で思った。


(魔物討伐の経験がないのに、よくこんな場所までついてきたな……

 魔物より、領主に怒鳴られる方がよほど嫌なんだろう)


エリシアはため息をつき、手を差し伸べた。


「立てますか」


レオナードはその手を取り、ゆっくりと立ち上がった。



再び歩き出す一行。

森の湿った空気の中、レオナードが前を向いたまま言った。


「採掘場はもうすぐです」


しばらく進むと――

森の木々が突然途切れ、視界が一気に開けた。


そこには、

森を切り開いて作られた広大な採掘地が広がっていた。


浅く掘られた地面一面に、

色とりどりの魔石がびっしりと転がっている。


ソラトは思わず声を上げた。


「うわあ……すごい、魔石だらけだ」


切り開かれた地面すべてが魔石で埋め尽くされている。

陽光を受けて輝く魔石は、まるで地面そのものが宝石になったようだった。


レオナードはその反応に頷きながら言う。


「この島は至る所にこんな場所があるんです。

 魔石の埋蔵量も不明で……

 五百年前の英雄剣士セリオスはいったいどれだけの魔物を討伐したんでしょうね」


(……確かに、尋常じゃない量だ)

エリシアは周囲を警戒しながら言った。


「それで、新種の魔物はどこにいるのですか」


レオナードはあたりを見渡し、

前方の丘を指さした。


「あの丘になってるところにいます」


エリシアたちは視線を向ける。


そこには――


ゆらゆらと揺らめく“炎の塊”が、丘の上にあった。


エリシアは静かに言った。


「……あれが“新種”か」


丘の上の炎は、ただ燃えているだけではない。

まるでこちらを観察しているような“意志”があった。

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