↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者の末裔ソラトと八英雄の遺産  作者: じろりんたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
76/84

イーラ島へ

朝の光が差し始めるころ「船の準備が整った」との連絡を受け、エリシアたちは港へ向かった。


潮風が吹き抜ける桟橋には、小型の沿岸用帆船が一隻、静かに停泊していた。

三人の船員が甲板で忙(せわ)しなく作業している。


その様子を見守っていたレオナードが、エリシアたちの姿に気づいた。


「お待たせしました。準備ができましたので、どうぞ」


そう言いながら近づいてきたレオナードは、ソラトとミリィの姿を見て目を瞬(またた)かせた。


「……お子様も連れていかれるのですか?」


ミリィの装備を見て、

(子供用に特注で作ったのかな……?)

と勝手に納得している。


アレクは落ち着いた声で答えた。


「この子たちがどうしても魔物討伐が見たいというものでして」


ミリィは明らかに感情のこもっていない声で言う。


「パパの魔物退治、早くみたいなあ!」


レオナードはさらに驚いたように言った。


「それにしても……旅行するときも、装備は持っていかれるんですね」


エリシアは淡々と返す。


「ええ、まあ……こんなこともあろうかと」


(……旅行なんて一言も言ってないのに)

エリシアは心の中でため息をつく。


レオナードは“そういうものだ”と勝手に思い込む性格で、

その点は領主とよく似ている、とエリシアは感じた。


レオナードは姿勢を正し、手で桟橋を示す。


「ではどうぞ。足元にお気を付けください」


エリシア、アレク、ソラト、ミリィは順に乗船した。



帆に風を受け、小型帆船は静かに港を離れた。

朝の海は穏やかで、陽光が波に反射してきらきらと輝いている。


レオナードは船首近くに立ち、振り返って言った。


「イーラ島はそう遠くはないので、この船ならすぐに到着します」


エリシアはその顔を見て、思った。


(……なんか、疲れ切っているな。昨晩はいつまであの店にいたんだ)


エリシアは率直に尋ねた。


「えらく疲れているようだが……昨日は遅くまで飲んでいたのか」


レオナードは苦笑しながら答える。


「ええ……明け方まで付き合わされてました」


エリシアは思わず目を見開いた。


「明け方まで……?」


レオナードは肩を落とし、ぽつりとこぼす。


「いつもの事なんです。おじ……領主は昼まで寝ているからいいですけど、

 俺はそうはいきませんし……正直しんどいです……」


(……ついに愚痴をこぼし始めたな)

エリシアはそう思いながらも、黙って聞いていた。


レオナードは続ける。


「この前なんて……三日連続で付き合わされた時なんて……死ぬかと思いましたし……」


言った瞬間、レオナードはハッとした。


「俺……何話してるんだか……変な話してすみません」


エリシアは首を横に振る。


「いや、かまいません」


その声は淡々としていたが、どこか優しさがあった。


(……少し気の毒だな)


エリシアはソラトを呼んだ。


「ソラト」


ソラトはすぐに駆け寄る。


「なんですか」


「パージトキシンの魔術を彼に使ってみてくれるか」


「わかりました」


ソラトはレオナードに向けて魔術式を展開し、そっと手をかざした。


淡い光がレオナードを包む。


レオナードは驚いたように目を瞬かせた。


「こっ……これは……」


体の重さが抜け、頭の痛みが和らいでいくのをはっきりと感じた。


エリシアは説明する。


「二日酔いの時は解毒の魔術が有効なんだ。

 あとは水をたっぷり飲めば、かなり回復するはずだ」


レオナードは深く頭を下げた。


「……だいぶ楽になった……ありがとうございます」


そう言うと、船室へ水を飲みに向かっていった。


ソラトはその背中を見送りながら思う。


(……二日酔いの対策まで心得てるなんて……さすがエリシアさんだ)


帆船は順調に進み、

イーラ島の影が、遠く水平線の向こうにうっすらと見え始めていた。



しばらくして、船室からレオナードが戻ってきた。

顔色は先ほどより明らかに良くなっている。


「ありがとうございます。水を飲んだら、すっかり回復しました」


エリシアは軽く頷いた。


レオナードは少し言いにくそうに、視線を泳がせながら口を開く。


「あの……この討伐は、他に誰もついてこないことが条件でしたけど……

 俺も連れていってもらえないでしょうか」


エリシアは即答した。


「いや、それはちょっと遠慮してもらいたい」


レオナードはうなだれ、正直に言う。


「足手まといだからダメなのは……よく分かっています。

 でも……おじ……領主が、“お前もついていけ”と……」


(もう“おじさん”と言えばいいのに)

エリシアは心の中で思った。


「それなら、行ったことにしておけばいい。口裏くらい合わせる」


しかしレオナードは首を振る。


「それが……おじさんは、そういうところの嘘は絶対に見抜くんです。

 だから……」


ついにレオナードの口から自然に“おじさん”が出た。


(……変わったな)

エリシアは、少し哀れに思えてきた。


「……では連れていってもいいが、約束してほしいことがある」


レオナードは顔を上げ、真剣な目で言った。


「はい。どんなことでも約束します」


エリシアはソラトとミリィへ視線を向ける。


「あの子たちのことについて、一切質問しない。

 そして――見たことを領主に絶対に話さないと約束すれば」


レオナードは迷いなく頷いた。


「はい、約束します。ありがとうございます」


その時、船が大きく揺れた。


視界の先――

イーラ島の影が、はっきりと見えてきた。


帆船はほどなくして、静かに島の桟橋へと近づいていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。