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賢者の末裔ソラトと八英雄の遺産  作者: じろりんたん


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領主のもてなし

レオナードに案内され、四人が連れて来られたのは、

夜の灯りがきらめくラディの繁華街だった。


人の声、酒場の笑い声、屋台の匂い――

雑然とした街の空気が、さらに濃くなった場所だ。


レオナードは汗をぬぐいながら振り返る。


「こちらの店です。中でおじ……領主がお待ちです」


言い直した一瞬の間に、アレクとエリシアは互いに目を合わせる。


(……おじ、って言いかけたな)


店の看板には、聞いたことのない料理名が大きく書かれていた。

ただ、その下に「食べ放題」とある。


エリシアとアレクは同時に思う。


(もてなしと言う割に食べ放題……?)


嫌な予感を胸に抱えつつ、店内へ入る。


案内されたのは、人目につきにくい一番奥の席。

十人掛けの大きなテーブルの奥に、領主ガルマンドがふんぞり返って座っていた。


領主は満足げに手を広げる。


「よく来たね。まあ掛けなさい」


四人は席につく。

レオナードは領主の横に控えるように座った。


領主は鼻を鳴らしながら言う。


「この店は今、東の国で流行っている店の支店でね。

 ナラカムではここにしかないんだ。まあ遠慮なく食べたまえ」


(……食べ放題なのに?)


エリシアとアレクは心の中で同じツッコミを入れる。


その時、店員がやってきて、テーブル中央の蓋を外した。


ガコン、と音を立てて現れたのは――

長方形の鉄板。


魔導具の調理器具だ。


店員は慣れた口調で言う。


「熱くなりますのでお気を付けください」


そう言って、テーブル下の魔石をセットした。


じわり、と鉄板から熱が伝わってくる。


ソラトは手を近づけて目を丸くした。


「ホントだ、熱くなってる」


ミリィも真似して手をかざし、


「おおっ……!」


と感心している。


領主はその様子を見て、満足げに頷いた。


「その鉄板で肉や野菜を焼いて食べるんだ」


店員が大皿を運んできた。

肉、野菜、魚介――色とりどりの食材が山盛りになっている。


領主は得意げに言う。


「ほら食材が来たぞ。どんどん焼いて食べなさい」


ソラトとミリィは嬉しそうに鉄板へ食材を並べ始めた。


ジュウッ、と音が立ち、香ばしい匂いが広がる。


その光景を見て、領主はほくそ笑んだ。


(ふん……普段ろくに食べさせてもらってないんだろう。

 やはり貧乏人は哀れなものだ)


そして領主は得意げに口を開いた。


「この店ではフォークではなく、東の国の“箸”を使う。

 まあ、お前たちにはちょっと難しいかもしれんから、フォークも用意してある。

 無理ならそっちで……」


ところが、領主がソラトとミリィの方へ視線を向けた瞬間、言葉が止まった。


二人は――

ごく自然に、何の苦労もなく箸を使っていた。


ミリィは嬉しそうに肉をひっくり返しながら言う。


「ミリィ、だいぶハシうまくなった」


ソラトも笑顔で頷く。


「ほんとだミリィ、前より上手になってるよ」


ミリィは胸を張って宣言した。


「いっぱい練習した! ミリィも努力の達人!」


領主は目を丸くし、口をぱくぱくさせる。


アレクが穏やかに補足した。


「ああ、みんなで何度か東の国の料理を出すお店に行きましたので……」


領主は気まずそうに咳払いし、話題を変えた。


「こ、こほん……あっ、そうだ。お前ら、飲み物はどうするね。

 ワシは麦酒だが……」


エリシアは迷いなく言う。


「では私もそれで」


領主はアレクへ視線を向けた。


「えーと、アレクだったかな。お前はどうするね」


アレクは軽く手を振る。


「いえ、自分は飲めませんので大丈夫です」


領主は目をむいた。


「飲めないって……お前、下戸なのか!」


「まあ、そうですね」


領主は笑いながら、しかし明らかに見下す調子で言った。


「男で酒が飲めないとか、それじゃあ付き合いも大変だろう。

 まあ金がかからなくていいがな」


エリシアはその言い方に、

(……この領主、難癖をつけて人を見下すのが癖なんだな)

と静かに思う。


領主は自慢げに胸を張った。


「ワシなんか若いころ、麦酒を一墫全部飲んでな。

 “麦酒野郎”なんて変なあだ名をつけられて困ったもんだわ」


アレクは、まるで本心から感心したように言った。


「へえ、それは凄い武勇伝ですね。

 それに比べると自分なんかまだまだです」


その反応に、領主は一瞬ぽかんとした。


「……いや、お前はなかなか見どころがあるぞ」


エリシアは横目でアレクを見た。


(……この男、こういうタイプを転がすのが上手いのではないか)


領主はすっかり機嫌を良くし、

鉄板の上では肉がじゅうじゅうと音を立てていた。



ソラトとミリィは、焼けた肉をタレにくぐらせて一口かじった。


二人は同時に顔を見合わせる。


ソラトは小声でつぶやいた。


「タレは美味しいけど……肉がねえ」


ミリィも眉を寄せて頷く。


「ミリィもそう思った。肉ちょっとかたい」


その会話を聞いていない領主は、満面の笑みで言う。


「お前ら、どんどん食べろよ。いっぱい食べないと損だからな!」


ミリィはソラトに小声で言う。


「いつも行くお店、おいしいとこばかり。だけどここは残念」


ソラトも苦笑する。


「だね。エリシアさんは美味しいお店見つける達人だったんだね」


その言葉を口にした瞬間、ソラトはふと思い出した。


――ボウマナの図書館で読んだ生活魔法の魔導書。

そこに載っていた、“肉を美味しく焼く魔法”。


(……あれ、使えるかも)


ソラトはそっと魔術式を展開し、

誰にも気づかれないように鉄板へ向けて魔術をかけた。


ソラトはミリィの耳元で囁く。


「ミリィ、いま鉄板に“肉が美味しく焼ける魔術”かけたから」


ミリィは目を輝かせる。


「なにその魔術! どれどれ……」


ミリィは肉を一切れ取り、ぱくり。


次の瞬間――


「んまっ!! さっきより劇的に……んまっ!!」


ソラトも一口食べて頷く。


「これでタレと肉のバランスがちょうどよくなった」


エリシアとアレクは、

(まあ食べ放題だし……)

と半ば諦め気味に肉を口へ運んでいたが――


エリシアは目を見開いた。


「えっ、肉が柔らかい!」


アレクも驚愕する。


「なんてジューシーな肉!」


レオナードも、いつもの“義務的な食事”のつもりで肉を口に運んだが――


「……あれっ? 今日はいつもの一番安いコースじゃないのかな。肉がうまいぞ!」


その言葉に、領主はハッとした。


(まさか……店が勝手に高いコースを出しているのか!?)


領主は勢いよく立ち上がり、店員のもとへ向かう。


「おいお前! ワシは一番安いコースを頼んだはずだぞ!」


店員は伝票を確認し、丁寧に答えた。


「はい、そのように伺っておりますが」


領主は戸惑い、しどろもどろになる。


「そっ、そうか……ならいいんだが……」


気まずそうに席へ戻っていく領主。



ソラトとミリィは鉄板の上で肉をひっくり返し、

幸せそうに笑っていた。

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