四属性の試し撃ち
二人は畑のある裏庭へ向かった。
昼前の光が土を照らし、風が静かに草を揺らしている。
「ソラト、まず何から試す?」
父の問いに、ソラトは迷いなく答えた。
「攻撃魔法からだよ」
「そうか。お前は狩りとか、そういうのが好きだな」
父は周囲を見回し、手ごろな的を探す。
拳ほどの石を拾い上げ、切り株の上にそっと置いた。
「少し後ろにさがろうか」
ソラトは素直に後ずさる。
胸の奥がわくわくと熱くなる。
「よし。じゃあそこから、この石に魔法を撃ってみろ。火の魔法からいこうか」
ソラトは手を前にかざした。
魔導書から流れ込んできた知識を思い浮かべる。
頭の中で魔術式が自然に組み上がっていく。
掌の前に、赤い火の塊がゆっくりと生まれ、膨らんでいく。
父は息をのむ。
その大きさは、もう拳ほどに達していた。
――が。
次の瞬間、火の塊はしゅんと縮み、
まるで空気に吸い込まれるように消えた。
「どうしたソラト……やっぱりいきなりは無理か……」
ソラトは少し考え込み、父を見上げて言った。
「父さん。ここで火を撃ったら……ちょっと危ないよね」
父は自分の興味が先走り、安全確認を忘れていたことに気づき、
頬をかきながら恥ずかしそうに言った。
「ソラト……お前の判断は正しい。さすが賢者の血筋だ」
気まずさを隠すように、すぐ次の提案をする。
「じゃあ、水の魔法でいこうか」
「うん、わかったよ。それと父さん、危ないからこっちに来といて」
父はさらに恥ずかしそうにしながら、小走りでソラトのそばへ駆け寄った。
ソラトは切り株の上の石に向かって掌をかざす。
魔導書から流れ込んだ知識が、自然に形を成していく。
掌の前に、透明な水の塊がゆっくりと膨らんでいく。
拳ほどの大きさになった瞬間――
水の玉から、
糸のように細い“水の刃”がものすごい速度で発射された。
それは空気を裂き、
石の上から下へ、まるで剣を振り下ろすように走る。
次の瞬間――
石は真っ二つに割れ、
そのまま下の切り株まで綺麗に切断されていた。
父は言葉を失い、
ソラトはただ「できた」という静かな満足感を胸に抱いていた。
父は興奮を抑えきれず、声が少し裏返る。
「ソ、ソラト……風の魔法なら危なくないよな……」
「うん、大丈夫だと思うよ。やってみるね」
ソラトが手を前に出すと、
さっき石を置いていた切り株のあたりで空気が巻き上がり始めた。
落ち葉がふわりと浮き、
土が細かく舞い、
やがてそれらが中心へ吸い寄せられるようにして
つむじ風が生まれる。
風は一瞬だけ強まり、
そして――ふっと消えた。
「これ以上は危険そうだから、ここまでだね。
魔力を込めれば、まだまだ大きくなるよ」
父は口を開けたまま固まっていた。
興奮、恐れ、誇り、理解不能――
いくつもの感情が一度に押し寄せて、言葉が出ない。
そんな父をよそに、ソラトは軽い調子で手を振った。
「あと氷はこんな感じで……」
手をひと振りしただけで、
その先に生えていた草が一瞬で凍りついた。
白い霜が草の表面を走り、
まるで時間が止まったかのように静かに光る。
父はふと何かを思いついたように目を輝かせた。
「ソラト、今の氷魔法は……水魔法と組み合わせれば……」
言い終わる前に、ソラトが軽くうなずく。
「なるほど父さん。やってみるよ」
その即答に、父は一瞬驚く。
理解が早すぎる。
まるで“考える前に理解している”ような速さ。
ソラトは手を前に出し、静かに思考を集中させる。
先ほどまでの魔法より、わずかに時間がかかった。
複数の魔術式を重ね合わせているのだろう。
やがて――
ソラトの掌の前に水が現れ、槍の形を成し始めた。
その瞬間、
水槍は一気に凍りつき、氷の槍へと変わる。
ブシュンッと空気を裂く音とともに、
勢いよく氷の槍は飛び出した。
槍は一直線に飛び、
少し離れた木に突き刺さる。
バキィンッ!!
乾いた破裂音が裏庭に響き、
槍の当たったところから木が折れた。
父は目を見開いたまま動けない。
ソラトはただ、「うまくいった」という静かな満足感を胸に抱いていた。
大きな音に驚いた祖父が家から出てくる。
「なんじゃなんじゃ、今の音は……おお、木が折れとるじゃないか」
ソラトと父が振り向く。
祖父は二人の顔を見た瞬間、すべてを察したように目を細める。
「おお、もしかしてソラトの魔法のテストをやっとるのか。
で、出来たのか……いや、出来たからこそこの有様なんじゃな」
少し拗ねたように、しかし嬉しさを隠しきれずに祖父が言う。
「なんでやるならわしを呼ばんかったんじゃ。わしもソラトの魔法が見たかった……。
ソラト、すまんが、わしにも見せてくれんかのう」
ソラトはにこっと笑う。
「いいよ、おじいちゃん。じゃあやるね」
祖父は胸を張って言う。
「おお、たのんだぞ。まずは火の攻撃魔法を――」
「おじいちゃん、ここで火は危ないから水からやるね」
「あっ……わしは浮かれて安全のことも考えておらんかったわ。はずかしいのう」
ソラトの隣でそのやり取りを見ていた父は、
祖父と自分は間違いなく親子だと確信していた。




