↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者の末裔ソラトと八英雄の遺産  作者: じろりんたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
68/80

朝光の中の別れ

ボウマナ行政院宿舎の馬車止め場。

朝の澄んだ空気の中、

エリシアたち四人は出発の準備を進めていた。


そこへ、行政院の方角から二つの人影が近づいてくる。


領主モアティアと、その秘書ロウディスだった。


モアティアは柔らかく微笑みながら声をかける。


「おはようございます」


エリシアも軽く頭を下げる。


「モアティア様、おはようございます」


モアティアは深く息を吐き、

心からの言葉を口にした。


「エリシア騎士団長、今回はお世話になりました」


「いえ、どうということはございません」


「本当ですよ。

 もし皆さんが来ていなかったとしたら……

 今頃はいったいどうなっていたことか」


エリシアは返す言葉に少し詰まり、

ただ静かに目を伏せた。


モアティアは気を取り直し、話題を変える。


「ところで団長は、八英雄のことを調べる旅だと

 おっしゃっていましたね。

 次はどちらまで?」


エリシアは答える。


「はい。次はイーラ島に向かっています」


モアティアは嬉しそうに頷いた。


「だったらラディの港町ね。

 あそこまでならあと三日ぐらいかしら。

 美味しい飲食店が多い街ですよ」


“食べ物おいしい”の一言に、

準備をしていたソラトとミリィがピクッと反応する。


(おいしい……!)

(おいしい……!)


二人の目が輝き始める。


その時、こちらへ向かってくる集団があった。


ボウマナ騎士団だ。


先頭のグラディス団長が歩み寄り、

モアティアとエリシアに敬礼する。


「モアティア様、エリシア騎士団長。

 おはようございます」


続いて団員たちも一斉に挨拶する。


「おはようございます!」


エリシアは軽く手を上げて応える。


グラディスはエリシアに向き直り、

改めて深く頭を下げた。


「改めて礼を言わせてもらうよ、エリシア団長」


エリシアは軽く頷き、ふと思い出したように言う。


「ああ、人面犬のことなんだが……」


グラディスは眉を上げる。


「私がいない時に山に出たと言ってた、あれのことですか」


「そうだ。やつは防護障壁を使うが、強度は大したことがない。

 二、三人で掛かればなんとかなるだろう。

 次に現れたら、そうするといいはずだ」


「ありがとう。覚えておくよ。

 ……それにしても、防護障壁とは厄介だな」


エリシアは苦笑する。


「私もミリィも、そのせいで剣を駄目にしてしまったからな」


その言葉に、グラディスはハッとしたように思い出す。


「そういえば二人とも桃光色の剣だったが……

 あれはボウモニウムの剣じゃないのかね?」


エリシアはあっさり答える。


「そうだ。初めて使ったが、とてもいい剣だ。

 軽くてよく切れる。団長も次はあれにするといいぞ」


グラディスは慌てて手を振った。


「いやいや、あんな高価なもの、私にはとても……!」


エリシアは少し驚く。


「高価って……そんなに高いのか?」


グラディスは呆れたように、しかしどこか楽しげに言う。


「ボウモニウムは希少金属。

 私の稼ぎ一年分でも足りないくらいだよ……

 て、知らなかったのですか」


エリシアはゆっくりとモアティアを見る。


モアティアは、にこりと微笑んで頷いた。



その時、アレクがエリシアに静かに告げた。


「出発準備、整いました」


エリシアは頷き、モアティアへ向き直る。


「それでは、私たちは出発します」


モアティアは柔らかく微笑んだ。


「いってらっしゃい。お気をつけて」


そう言うと、馬車に乗り込んでいる

ソラトとミリィへ向けて優しく手を振る。


ソラトとミリィも、

荷台から身を乗り出して元気よく手を振り返した。


その時、グラディスが声を張る。


「全員、敬礼!」


ボウマナ騎士団の団員たちが一斉に敬礼した。

その姿は整然としていて、誇りと感謝が込められていた。


エリシアも馬車へ乗り込む前に、

静かに敬礼を返す。


そして、馬車へ足を踏み入れた。


馬車はゆっくりと動き出す。


ソラトとミリィは荷台から顔を出し、

いつまでも手を振り続ける。


モアティアもまた、

小さく、しかし長く手を振り返していた。


ロウディスはその隣で静かに頭を下げ、

グラディスと騎士団は整列したまま、

馬車が見えなくなるまで見送った。




馬車はボウマナの大通りをゆっくりと走り出した。


その揺れの少なさに、

ソラトはすぐ気づいた。


「……馬車の振動が少なくなってません?」


アレクは嬉しそうに微笑む。


「分かりますかソラト殿。

 馬車の整備の時に、揺れ止めも新品と交換したんですよ」


ソラトは感心して座面を軽く叩く。


「全然違いますよ。

 前は座ってるとお尻が痛くなりましたし」


エリシアも頷く。


「これなら旅も快適だな。さすがアレクだ」


アレクは照れながらも、

みんなが喜んでくれるのが嬉しいようで、

どこか誇らしげだった。



エリシアはふとミリィの方を向く。


「ところでミリィ。

 新しい剣はとても高価なものらしいから、大事に扱うように」


ミリィは剣を抱きしめるようにして言う。


「この剣すごくお気に入り。ミリィ大事にする」


ソラトは驚いた顔でエリシアを見る。


「へぇ、そんなに高価なんですか?」


エリシアは軽く肩をすくめる。


「さっき聞いたところでは、素材が珍しい金属なんだとか。

 団長の稼ぎ一年分でも買えないと言ってたぞ」


ソラトは目を丸くする。


「ええっ……そんなにすごい剣なんですか」


エリシアは続ける。


「まあでも、アレクの魔導具の剣ほどではないけどな。

 あれは家一軒では済まない価格だからな」


その言葉に、アレクは固まった。


アレクは剣の価値を知らずに父から気軽に

受け取ってしまったことを思い出し、恐縮してしまう。



朝の光の中、

四人を乗せた馬車は次の目的地――

ラディ港町へ向けて進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。