赤い核が砕ける時
グラディスも驚愕する。
「それにしても大きい……人の背丈以上はあるぞ……」
ソラトは魔石を見上げながら言った。
「もしかしたら……
あれが魔物を生み出す“核”なんじゃないですか……
安直ですけど」
エリシアは即答した。
「いや、おそらくそうだろう」
あれを破壊すれば、
魔物の発生を止められるかもしれない。
だが――
天井は高すぎる。
剣では届かない。
エリシアはソラトに向き直る。
「ソラト。天井を崩さずに……あれを潰せるか?」
ソラトは少し考える、威力の調節ができるのは魔力光の攻撃魔術。
杖を構えた。
「……ちょっとやってみます」
杖の先に光が集まり――
閃光が一直線に巨大魔石へ走る。
しかし。
光は魔石に触れた瞬間、
吸い込まれるように消えた。
ソラトは眉をひそめ、
今度は出力を上げてもう一度撃つ。
だが――
結果は同じ。
「……あの巨大魔石、魔力系の攻撃は効かないみたいですね」
ソラトは少し考え、
危険を承知で言った。
「ちょっと危ないですけど……
水か氷の攻撃魔術、やってみましょうか」
エリシアは腕を組み、魔石を見上げながら考える。
(氷矢では威力が足りない……
氷槍は威力が強すぎて天井ごと崩れる……
どうしたものか)
その時。
「まかせろっ!」
ミリィが突然駆け出した。
跳躍――
その高さは人間離れしている。
だが、天井はあまりにも高い。
ミリィの跳躍でも届かない。
もう一度跳躍。
さっきよりさらに高く飛んだが、それでもまだ届かない。
グラディスはその様子を見て、
跳躍力もさることながら――
(あの高さから落ちて、平然と着地している……
これが勇者……)
と、別の意味でも驚愕していた。
ミリィは悔しそうに天井を睨む。
「ぐぬぬぬ……!」
その時――
ソラトの頭にひらめきが走った。
「ミリィ、いいこと思いついたよ!」
ソラトは巨大魔石の真下に立ち、
赤い棒状の魔法の杖を両手でしっかり持ち、
地面に垂直に立てる。
「ミリィ、杖の端をしっかり握ってて!」
ミリィは一瞬で意図を理解した。
「おお、なるほどソラト!」
ミリィは杖の上部をしっかり掴む。
ソラトは魔力を杖に流し込み、
“伸びろ”と強く思考する。
杖が――
ぐんっ! と音を立てて伸び始めた。
杖の上部を掴んだミリィは、
そのまま天井へ向かって舞い上がる。
一瞬で巨大魔石に到達。
ミリィは跳躍し、
空中で抜刀。
桃光色の剣が弧を描き――
巨大魔石を両断した。
砕けた魔石の破片が赤い光を散らしながら落ちていく。
ミリィは再び伸びた杖を掴み、
そのまま滑るように地上へ戻ってきた。
両断された巨大魔石は、
赤い輝きを完全に失い――
ただの岩へと戻っていった。
ソラトは周囲の魔力の流れを感じ取りながら言う。
「このあたりの魔力が……薄れてきましたよ」
壁から発生するスラッグラッドを退治していた
ボウマナ騎士団たちも声を上げる。
「魔物の発生も止まりました!」
エリシアは、洞窟全体を見渡す。
「これで何とかなったか……
しかし、ここは謎が多いところだな」
グラディスも頷く。
「ほんとそうですね。
でも、ここを調査すれば魔物について
いろいろ解明できるやもしれません」
エリシアは小さく笑う。
「いい資料が手に入ったかもな」
その時、ソラトが周囲を見渡しながらつぶやいた。
「……なんだか、さっきより狭くなってません?」
全員が一斉に周囲を見回す。
グラディスが眉をひそめる。
「……確かに」
ボウマナ騎士団たちもざわつく。
「……ですよね」
ミリィは軽く跳躍してみる。
すると――
天井に手が届きそうになった。
「ソラト! さっきより高く飛べるぞ!」
エリシアは即座に判断した。
「これは……早く外に出たほうがいいな」
全員、事態を理解した顔になる。
「走れっ!」
エリシアの号令で、全員が出口へ向かって駆け出した。
洞窟の通路を全力で走る。
ソラトが後ろを振り返ると――
洞窟の壁が、ゴゴゴ……と不気味な音を立てながら閉じていく。
「やばっ……!」
閉じる速度はみるみる加速していく。
ソラトは杖を握り、
全員に向けて強化魔法を放った。
淡い光が全員を包み――
走る速度が一気に上がる。
エリシアは息を吐きながら言う。
「助かる!」
グラディスは驚愕の声を上げる。
「なんて凄い強化魔法だ……!」
出口の光が見えてくる。
だが――
洞窟の閉じる速度もさらに加速する。
天井も低くなり、
背の高いグラディスは頭が当たりそうになる。
エリシアが叫ぶ。
「あともう少しだ! がんばれみんなっ!」
一番後ろを走るソラトは、
閉じてくる洞窟に飲み込まれそうになりながら――
「うわっ、やばっ!」
全員、最後の力を振り絞って飛び出した。
四人と騎士団は洞窟の外へ転がり出る。
その直後――
洞窟は完全に閉じた。
全員、その場にどさっと座り込んだ。
肩で息をし、汗が額を伝う。
洞窟の入り口で待機していた団員たちが駆け寄る。
「団長っ!」
グラディスは呼吸を整えながら、
軽く手を上げて無事を知らせる。
そして振り返る――
そこには、
洞窟があったはずの場所が、きれいさっぱり消えていた。
まるで最初から何もなかったかのように、
ただの岩壁が静かに立っているだけだった。
グラディスは団員全員が無事であることを確認し、
ようやく胸をなでおろした。
エリシアは呼吸一つ乱さず、
洞窟の“入り口だった場所”をじっと見つめていた。
(……洞窟が消えた、というより
初めから存在しなかったかのようだ)
魔物はああやって生まれていたのだろうか。
いったい何が大地をあのように変質させたのか。
そんな思考を巡らせていると、
息を整えたソラトがやってきた。
「まるで……大地が魔力を集めて固めて、
魔物を創ってるみたいでしたね」
エリシアはその言葉に、
自分の見た光景が重なるのを感じた。
(……確かに、地の底で“育てられていた”ようだった)
そこへ、息を整えたグラディスも加わる。
「でも……なぜ大地がそんなことをしているのかが分からない」
ソラトは少し考え、肩をすくめた。
「意味はないんじゃないでしょうか。
大地と太陽が植物を育てるみたいに……
大地と魔力が魔物を生み出してるだけだと思いますよ」
グラディスは目を見開いた。
「なるほど……自然現象ってことだね」
「じゃないですか。知りませんけど」
ソラトはあっけらかんと言う。
エリシアはグラディスに向き直る。
「では、私たちはこれで帰るぞ」
グラディスは深く頭を下げた。
「今回は本当に助かりました。
我々も後片付けをしたら帰ります」
エリシアは軽く手を上げて応え、
ソラト、ミリィ、アレクへ向き直る。
「では、帰ろうか」
三人は頷き、
四人は夕暮れの農村へと歩き出した。




