新しい剣と不穏な報せ
剣が完成したとの報告を受け、
エリシアとミリィはロウディスに連れられて鍛冶屋へ向かった。
馬車が止まるやいなや、
ロウディスが扉を開けるより早く――
「できた剣っ!」
ミリィは勢いよく飛び降り、鍛冶屋へ駆けていった。
エリシアとロウディスも後を追う。
鍛冶屋の扉を開けると、
テーブルの上に二本の剣が並べられていた。
ミリィはテーブルのふちに手をかけ、
ぴょんぴょん跳ねながら剣を覗き込む。
鍛冶職人はエリシアを見ると、
豪快に笑った。
「よう、待たせたな」
エリシアはテーブルの剣に目を落とす。
鍛冶職人が顎で促す。
「さあ、手に取ってみてくれ」
エリシアとミリィはそれぞれの剣を手に取った。
エリシアは持った瞬間、驚いたように言う。
「前のより……少し軽い」
鍛冶職人は満足げに頷く。
「ボウモリウムで打ったのさ」
「ボウモリウム?」
「この地方で採れる鉱石でな。
軽くて頑丈な剣が作れる素材だ」
エリシアは剣を鞘から抜いた。
薄い桃色の光が、刃の表面にふわりと浮かぶ。
「……これは」
鍛冶職人は誇らしげに言う。
「桃光色はボウモリウムで打った剣の特徴だ。
鋼より軽いから、柄を少し長くして両手でも扱いやすくしてある」
エリシアは両手で握り、軽く構えてみる。
「なるほど……これはいい」
そして、もう一つの違いに気づく。
「……それに、前のとは違う握り具合……しっくりする」
鍛冶職人は鼻で笑った。
「柄はお前さんの手に合わせて作ってあるからな」
エリシアは驚き、目を見開く。
「見ただけで……そんなことができるのか」
「それが一流の鍛冶屋の仕事さ」
ミリィはというと――
満面の笑みで自分の剣を見つめていた。
「これすごくいい! ミリィ気に入った! 色もきれい!」
鍛冶職人は優しい目でミリィを見る。
「気に入ってくれたかい。
桃光色の輝きは、可愛い嬢ちゃんにはぴったりだろ」
“可愛い”と言われたミリィは、
さらに満面の笑みになった。
エリシアはその様子を見て、
自然と頬が緩んだ。
二人の新しい剣は、
これからの旅を支える大切な相棒になる。
鍛冶屋を後にした馬車の中。
ミリィは膝の上に置いた新しい剣を、
今にも鞘から抜きそうな勢いで見つめていた。
エリシアはその視線に気づき、
先に釘を刺す。
「……馬車の中で剣を抜くんじゃないぞ」
ミリィは「ばれたか」という顔でしゅんとし、
名残惜しそうに剣を横に置いた。
エリシアはロウディスへ向き直る。
「そういえば……ここの騎士団長は、
討伐遠征からまだ戻っていないようだが、
そんな遠くまで行っているのか?」
ロウディスは少し言いにくそうに口を開いた。
「そのことなんですが……
モアティア様がエリシア騎士団長に相談したいと
おっしゃっていましたので、
行政院に戻られましたらお聞きいただくことになるかと」
エリシアは眉を寄せる。
「そうか……」
胸の奥に、わずかな不穏さが広がる。
ロウディスは続けた。
「たいした魔物が出たわけではないのですが……
こんな事態は初めてでして。
どう対処すべきか、皆困っているようです」
エリシアは短く息を吐き、決意を固める。
「では戻ったら、すぐにモアティア様に事情をうかがおう」
ロウディスは深く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
その会話を横で聞いていたミリィは――
(これは……さっそく新しい剣が使えるやつだ!)
と、心の中でワクワクが爆発していた。
表情には出さないようにしていたが、
足がぴょこぴょこ揺れているのは隠しきれていなかった。
行政院に戻ると、
エリシアとミリィはロウディスに案内され、応接室へ通された。
扉を開けると、
モアティアがすでに席に着いて待っていた。
その表情は、どこか申し訳なさそうだった。
「何度もお願いして、ごめんなさい」
エリシアは首を振る。
「いえ、そんなことはありません。
詳しい話を聞かせてもらえますか」
モアティアは小さく息を整え、
「はい、ではおかけになって」と二人を促した。
エリシアとミリィが椅子に座ると、
モアティアはゆっくりと話し始めた。
「十五日前に、農業地帯から魔物の討伐要請があって
騎士団を派遣したのです。
たいした魔物ではなかったので、
討伐自体はすぐに終わりました。
ですが……またすぐに魔物が農村に現れる。
倒してもしばらくすると、また現れる。
そこで騎士団は農村に駐留し、
しばらく様子を見ることにしました。
しかし、討伐しても魔物が現れる日々が
何日も続き……
魔物がどこから来るのか調査することになりました。
そして――
山手にある洞窟から魔物が出てきていることが判明したのですが……
村人の話では、
“そんなところに洞窟なんて無かった”というのです。
魔物が出てくる洞窟の内部を調べる必要がありますが、
かなり危険を伴うため……
どうしたものかと、皆困っているのです」
モアティアはそこで言葉を切り、
不安げにエリシアを見る。
エリシアは静かに頷いた。
(……洞窟が“突然現れた”というのは、ただ事ではない)
ミリィはというと、
新しい剣を使える予感に、
内心わくわくが止まらない様子だった。
エリシアは気持ちを引き締め、
モアティアへ向き直る。
「事情は分かりました。
すぐに対応を考えましょう」
宿舎に戻ったエリシアは、
ソラトとアレクを呼び集め、モアティアから聞いた話を説明した。
エリシアは腕を組み、簡潔にまとめる。
「……というわけで、今からその農村に向かうことになった」
ソラトは真剣に聞いていたが、
洞窟の話に興味を引かれたようで首を傾げる。
「突然現れた洞窟から魔物って……
今まで無かったことなんですか?」
エリシアは即答した。
「少なくとも私は聞いたことがないな」
アレクも静かに頷く。
「自分も初めて聞きます」
“誰も知らない、初めての現象”。
その言葉に、ソラトの胸が少し高鳴った。
(……なんだろう、この感じ。
怖いというより、わくわくする……)
未知の魔術、未知の現象。
ソラトの好奇心が刺激されていた。
一方ミリィは――
“新しい剣がすぐ使える”という一点だけで
にやけが止まらない。
(ミリィの剣、もう活躍の出番きた……!)
足がそわそわ揺れている。
エリシアは三人の様子を見て、
軽く息を吐きながら言った。
「では、すぐ出発するので準備を」
その声に、三人は一斉に動き出した。
ソラトは杖を確認し、
アレクは剣帯を締め直し、
ミリィは新しい剣を抱えて嬉しそうに跳ねている。
未知の洞窟。
突然現れた魔物の巣。
四人の次の冒険が、静かに幕を開けようとしていた。




