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賢者の末裔ソラトと八英雄の遺産  作者: じろりんたん


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討伐報告と新たな脅威

エリシアたちと副団長は、討伐の報告をするため行政院へ向かった。


夜の空気は冷たく澄んでいる。

その行政院の前で――


領主モアティアと秘書ロウディスが、外に立っていた。


五人の姿を見つけた瞬間、

モアティアは胸を撫でおろすように微笑んだ。


「おかえりなさい、皆さん。ご苦労様です。

 その様子だと……討伐はうまくいったみたいですね」


エリシアは静かに頷く。


副団長は驚いたように目を見開いた。


「もしかして……領主様は、ここでお待ちになられていたのですか?」


モアティアは柔らかく微笑む。


「いま出てきたところですよ」


だが――

ロウディスのわずかな表情の動きで、

モアティアがずっと外で待っていたことをエリシアは読み取った。


(……この領主は、本当に民思いだな)


モアティアは副団長へ向き直る。


「団長が討伐遠征の時に、こんな事が起きるなんて……

 副団長も大変でしたね」


副団長は胸に手を当て、少し照れたように答えた。


「いえ、そのための副団長ですから。

 しかし……」


副団長はエリシアたち四人へ視線を向ける。


「王都騎士団長が来られなかったら……

 どうなっていたかと考えると……」


モアティアの視線も四人へ移る。


そして――ミリィを見た瞬間、

何かに気づいたように目を見開いた。


「もしかして……彼女が、噂の勇者さん?」


ミリィは胸を張り、元気よく名乗る。


「そのとおり!

 そして今回の優勝者でもある勇者ミリィ!」


モアティアはきょとんとする。


「……優勝?」


エリシアが苦笑しながら説明した。


「一番多く魔物を倒した、ということらしいです」


モアティアは「ああ、なるほど」と納得した表情を浮かべる。


ミリィはさらに胸を張って言った。


「いっぱい倒したのはソラトだけど、

 弱い魔物だからミリィが優勝なのだ!」


その言葉にモアティアの視線がソラトに向く。


「ソラトさん……?」


エリシアが一歩前に出て説明する。


「彼はリベッタ村の賢者です」


モアティアは驚きに目を見開いた。


「まあ……賢者の……」


副団長も思わず声を漏らす。


「ただの魔法使いじゃないと思っていましたが……賢者だったのか」


ソラトは少し恥ずかしそうに頭を下げた。


「ど、どうも……ソラトです」


モアティアは感心したように、しかし不思議そうに首を傾げる。


「グランツの勇者はまだ小さな女の子だと聞いていましたが……

 リベッタ村で賢者が現れた話は耳にしたことがなかったわ」


エリシアが補足する。


「本人も最近まで、自分が賢者だと知らなかったようです」


モアティアは何か理解したような、まだ腑に落ちないような表情で、


「そ、そうなのね……」


と曖昧に頷いた。


エリシアは話題を切り替える。


「ところでモアティア様、この街で腕のいい鍛冶職人を教えていただけますか」


モアティアはすぐに察した。


「構いませんが……もしかして討伐で剣を傷めたのかしら?」


エリシアは苦笑しながら答える。


「はい。私の剣はまだ使えますが……ミリィの剣が駄目になりまして」


ミリィは得意げに剣を抜いて見せた。


――ボロボロだった。


刃は波打ち、欠け、ひびが走り、

もはや“剣の形を保っているのが奇跡”という状態。


モアティアはその惨状を見て、討伐の激しさを悟る。


「まあ……こんなボロボロに……」


モアティアはロウディスへ振り返った。


「ロウディス、明日エリシア団長を鍛冶屋にお連れしてあげて」


ロウディスは深く頷く。


「かしこまりました」


夜のボウマナに、ようやく静けさが戻り始めていた。







夕食は済ませていたが、

ソラトとミリィが「お腹すいた」と同時に言い出したため、

四人は行政院宿舎の食堂へ向かった。


夜も遅い時間だったが、

食堂にはまだ灯りがともり、

簡単な食事なら用意できるとのことだった。


エリシアとアレクは、

パンに薄い肉を挟んだ軽い食事を選ぶ。


食堂に置かれていた酒は、麦で作られた素朴な酒だけだった。

エリシアはそれをグラスに注ぎ、静かに口をつける。


一方で――


ソラトとミリィは、

分厚い肉を焼いた“がっつり系”を迷わず注文していた。


ミリィは肉を頬張りながら幸せそうに言う。


「んまっ!」


ソラトも負けじと肉を口に運びながら、

どこか満足げに笑っていた。


アレクはパンをかじりながら、ふと口を開く。


「それにしても……魔物が防護障壁を使うなんて驚きました」


エリシアはグラスを置き、静かに頷く。


「マッカリナの欠片を飲み込んだ魔物も防護障壁を使っていたから、

 今回も欠片を飲んでいるのかと思ったが……違っていたみたいだな」


アレクは眉を寄せる。


「それに……人語も喋っていましたよね」


エリシアは思い返すように言った。


「たしか“見つけた”とか“持ってる”とか言っていたな。

 ソラトとミリィを見て……いったい何のことだろう」


アレクは考え込む。


「勇者と賢者……に関係しているのですかね」


その時、ソラトが肉を頬張りながら、

まるで当たり前のように言った。


「欠片じゃないですか」


エリシアとアレクは、同時にハッとした。


ソラトは続ける。


「ぼくとミリィは欠片をペンダントの中に入れて、

 いつも持ってるじゃないですか」


ミリィは口いっぱいに肉を詰めたまま、

「んむっ」と頷く。


ソラトはエリシアへ視線を向けた。


「残りの欠片は……エリシアさん、どこにあります?」


エリシアは少し考え、答える。


「あとの二つはポーチに入れて、宿舎の部屋に置いている」


ソラトは真剣な表情で続けた。


「……あの人面犬は、欠片が出す魔力が分かるんだと思います。

 そして“見つけた”なんて言ってたぐらいだから……

 魔物も欠片を探してるんじゃないですか」


エリシアはグラスを置き、静かに頷いた。


「あの新種の魔物は、今までと違い“知性”があったように見えた。

 十分考えられるな」


ソラトは肉を飲み込み、さらに言葉を続ける。


「欠片って、魔物を強化する作用もありますし……

 知性のある魔物なんかが見つけたら……なんかヤバいですよね」


エリシアは短く息を吐いた。


「そういうことだな。

 だから私たちが先に見つける。

 ――この旅の意味が、また一段と深くなったな」


その言葉とは裏腹に、

エリシアの表情はどこか楽しそうだった。


アレクはパンを置き、不安げに尋ねる。


「これから……あんな魔物が、まだ現れるんでしょうか」


エリシアは迷いなく答える。


「そう思うほうがいいだろう。

 見たことがない魔物は、これで二回目だしな」


(……これも、世界が変わる予兆なのかもしれない)


エリシアはそんな予感を抱いていた。


エリシアは話題を変える。


「明日は鍛冶屋に行く予定だが……アレクの剣はどうだ」


アレクは自分の剣を軽く確認し、首を振る。


「自分の剣は大丈夫です。刃こぼれ一つありませんでした」


エリシアは満足げに頷く。


「さすが名刀タガネだな」


その言葉を口にしながら、

エリシアはふと、胸の奥が熱くなるのを感じた。


勇者と賢者の出現。

知性を持つ魔物。

欠片を巡る新たな脅威。


――今、自分の目の前で世界が変わろうとしている。


その変化に自分が立ち会っている。


そう思うと、

エリシアは自然と笑みがこぼれた。


「……今日の酒は、一段とうまいな」


グラスの麦酒を口に含むと、

その素朴な味わいが、いつもより深く感じられた。


四人の旅は、

ただの“欠片集め”ではなくなりつつあった。


世界の変化を見届ける旅へ――

そして、その中心にいるのは自分たちだ。


エリシアは静かに、しかし確かな高揚を胸に感じていた。

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