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賢者の末裔ソラトと八英雄の遺産  作者: じろりんたん


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防護障壁を砕く者たち

副団長が地面を蹴った。


大柄な体が信じられないほど高く跳躍し、

そのまま人面犬めがけて剣を振り下ろす。


「うおおおっ!」


剣は人面犬の首を狙い――


ガンッ!!


透明な壁に阻まれた。


防護障壁だ。


だが副団長の一撃は重い。

障壁には大きなひびが走る。


しかし――


そのひびは首元まで届かず、

途中で止まり、

やがて光を取り戻して消えていった。


副団長は歯を食いしばる。


「……これでも割れんか!」


エリシアはその光景を見て、

副団長の“必殺の一撃”でも一発では破れないことを悟る。


(ならば――やり方を変える)


エリシアは一歩踏み込み、人面犬へ切りかかった。


剣が障壁に触れた瞬間、

エリシアは剣を“滑らせた”。


撃ち込まない。

叩きつけない。

ただ、斬る。


剣への負担を最小限にし、

攻撃回数を最大化するための動き。


シャッ、シャッ、シャッ――!


正確で、速く、無駄のない斬撃が次々と障壁を削っていく。


副団長が驚愕する。


「な、なんという速さ……!」


人面犬は障壁の維持に魔力を取られ、

一歩も動けない。


エリシアの斬撃はさらに加速し――


ピシッ。


障壁に一本の線が走った。


次の瞬間。


バリンッ!!


防護障壁が真っ二つに割れた。


「終わりだ」


再生するより早く、

エリシアの剣が人面犬の首を落とす。


魔物は塵となって崩れ、

緑の魔石が地面に転がった。


エリシアは剣を軽く振り、刃を確認する。


ほとんど傷んでいない。


「……この戦法は使える」



ミリィは借りた剣を構えると、地面を蹴った。


「いくっ!」


小さな体が高く跳び上がり、空中で前転しながらぐるぐると回転する。

その回転は加速し、まるで渦のように速度を増していく。


そのまま――人面犬の真上へ落下。


落下の勢いと回転の加速が合わさり、

振り下ろされる剣は常識外れの速度になった。


バリンッ!!


防護障壁は一瞬で砕け散り、

剣はそのまま人面犬の首をはね飛ばした。


ミリィは着地し、借りた剣の刃を確認する。


刃こぼれは少しだけ。


「けっこう頑丈。まだまだいける!」



――そのとき、アレクは。


彼は別の人面犬と対峙していた。


人面犬は素早い。

アレクは攻撃をかわすだけで精一杯だった。


(……このままじゃ、自分は何もできない)


副団長のような重い一撃もない。

エリシア団長のような洗練された技もない。


ならば――自分にできることは何だ。


アレクは息を整え、剣を構え直した。


(自分には……魔術がある)


アレクは低く詠唱を始めた。


「澄みし流れよ――

 静寂を裂く刃となりて走れ」


構えた剣の周囲に、水の刃が重なるように発生する。

青白い光を帯びた水の刃が、剣と同じ軌道を描いて揺らめいた。


アレクは叫ぶ。


「――水刃斬!」


剣を振り下ろすと同時に、水の刃が先に飛び出した。


水の刃は剣より速く加速し、

人面犬の防護障壁へ先に到達する。


ガンッ!


水の刃は弾かれた。

だが、その直後――


アレクの剣が防護障壁に叩き込まれる。


連続の衝撃。


水の刃 → 剣の一撃。


二段攻撃のように重なった衝撃に、

防護障壁は耐えきれなかった。


バリンッ!!


障壁が砕け散り、

アレクの剣はそのまま人面犬の胴を切り裂いた。


人面犬は塵となって崩れ、緑の魔石を落とす。


アレクは息を吐き、剣を握り直した。


(……これが、自分にできる戦い方)




ソラトは前線の少し後ろに立ち、杖を構えていた。


スラッグラッドが兵士へ到達する前に――

すべて撃ち落としていた。


バシュッ!

バシュッ!


閃光が走るたび、スラッグラッドの頭が爆ぜ、赤い魔石が転がる。


徐々に、現れる数が減っていく。


ソラトは周囲を見渡し、声を張った。


「ここはなんとかなりそうですから、みなさん休んでください!」


疲弊しきった兵士たちは、ほっと息をつきながら後方へ下がる。


「助かる……本当に助かる……」


戦況に余裕が出てきたソラトは、ふと別の魔術を試し始めた。


「水刃(すいじん)」


水の刃が飛び、スラッグラッドを切り裂く。


「風刃(ふうじん)」


風の刃が走り、魔物を両断する。


「氷矢(ひょうし)」


氷の矢が連射され、次々と魔物を貫く。


後方で見ていた兵士が、目を丸くした。


「な、なんだあれ……

 属性適応どうなってるの……?」


ソラトは淡々と魔物を撃ち落とし続ける。

その姿は、もはや“後衛一人で戦線を維持している”と言ってよかった。


一方その頃――


ミリィは回転切りで人面犬を次々と倒していた。


「これで五匹目っ!」


だが、次の瞬間。


バキッ!


剣が折れた。


「うわっ、おれた!」


ミリィは慌てて後方へ走り、

疲れ切って座り込んでいる兵士の前に飛び込む。


「ちょっと剣かして!」


兵士が返事をする前に、

ミリィは腰の剣を引き抜き、前線へ駆け戻っていった。


兵士は呆然としたまま、

「……どうぞ……」

と遅れて呟いた。




副団長は苦戦していた。


「くっ……!」


あと少しで防護障壁が破れない。

全力の出し過ぎで、動きが鈍くなっていた。


その隙を――人面犬が逃さない。


鋭い爪が振り下ろされる。


(……これはダメだ)


副団長は死を覚悟した。


だが――


上から影が落ちてきた。


「たああああっ!!」


ミリィの回転切り。


高速回転する剣が人面犬を真っ二つに裂いた。


魔物は塵となって消え、緑の魔石が転がる。


副団長は地面に尻もちをつき、震える声で言った。


「あっ……危ないところ……助かった……」


ミリィは剣を肩に担ぎ、胸を張る。


「仲間はだれも死なせない!

 それが勇者だっ!」





エリシアは素早い斬撃で人面犬を切り伏せ、静かに息を整えた。


「これで五匹目……少し手こずったな」


そう呟き、剣の刃を確認する。


刃は鈍り、細かな欠けがいくつも走っていた。


「刃がだいぶ鈍(なま)くらになってきた。そろそろ限界だな」


エリシアは周囲を見渡す。


「……あと何匹だろうか」




一方その頃、アレクは二匹目の人面犬と対峙していた。


だが苦戦していた。


詠唱を始めると、人面犬が飛び掛かってくる。

魔術を発動する前に潰されてしまうのだ。


(……さっきの戦いを見て、学習した……?)


アレクはそう感じた。


魔術を使わせないように、

詠唱の気配を察知して襲い掛かってくる。


(なら……魔術に頼らない戦い方を考えないと)


アレクは必死に思考を巡らせる。


副団長のような重い一撃はない。

エリシア団長のような洗練された技もない。


だが――剣は力だけではない。


腕、肩、体幹、足。

全てを連動させ、

寸分の狂いもなく刃に力を伝えることができれば――


(……あるいは、いける)


アレクは覚悟を決めた。


次の瞬間、人面犬が飛び掛かってきた。


真っすぐ、一直線に。


アレクは全神経を集中させ、剣を振り下ろす。


無駄のない軌道。

一切のブレがない。

完璧な一撃。


剣が防護障壁に触れた瞬間――


バリンッ!!


全ての力が乗った刃は、障壁を真っ二つに裂いた。


そのまま勢いは止まらず、

人面犬の体を左右に切り裂く。


魔物は塵となって崩れ、緑の魔石が転がった。



エリシアはアレクのそばへ歩み寄り、静かに声をかけた。


「凄いなアレク。今の一太刀は、完璧な軌道だったぞ」


アレクは肩で息をしながらも、エリシアの言葉に顔を上げる。


「団長……魔物はもう……」


「ああ。いまので最後だ」


その言葉を聞いた瞬間、アレクの体から力が抜けた。

緊張の糸が切れ、膝がわずかに震える。


エリシアはそんなアレクを見つめ、

(あの完璧な一太刀は、今まで積み重ねてきた努力の結晶だ)

と心の中で静かに感心していた。


そこへ、ミリィと副団長が駆け寄ってくる。


ミリィは胸を張って叫んだ。


「ミリィ、六匹退治した! エリシアは?」


エリシアは苦笑しながら答える。


「私は五匹だな」


「アレクは?」


アレクは少し申し訳なさそうに視線を落とした。


「自分は……二匹だけです」


ミリィは次に、副団長を見上げる。


だが名前がわからず、困ったように眉を寄せた。


「……えーと、おっちゃんは?」


「お、おっちゃん……」


副団長は一瞬たじろぎ、

そして恥ずかしそうに視線をそらした。


「……私は、一匹も倒せませんでした……」


ミリィは胸を張り、満面の笑みで宣言する。


「じゃあ優勝はミリィだっ!」


エリシアもアレクも、副団長も、

その無邪気さに思わず笑ってしまう。




後方でスラッグラッドを片付け終えたソラトは、

四人のやり取りを見ながら、どこか安心したように微笑んだ。


夜の山に漂っていた緊張が、

ようやく静かにほどけていった。

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