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賢者の末裔ソラトと八英雄の遺産  作者: じろりんたん


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三つ目の欠片

ソラトとエリシアは、鍾乳洞を抜けて地上へ戻り、

騎士団訓練場へ向かう道を並んで歩いていた。


戦闘の緊張がほどけ、

二人の足取りはどこか軽い。


エリシアがふいに口を開く。


「ソラトは……顔の割になかなかいい動きをしていたな」


「ええっ、僕そんなにどんくさそうな顔してます?」


エリシアは淡々とした声で返す。


「運動場より図書室にいる者の顔をしていると思うぞ」


ソラトは褒められているのか、けなされているのか分からず、

なんとも言えない表情になる。


「村ではいつも友達と森に行って狩りをしてましたからね。

 勉強よりそっちのほうが楽しかったし」


エリシアは少し意外そうに眉を上げた。


「だがお前、魔導書を読むのにはエルフ語だろ。

 完全に覚えるには何年もかかると聞いたが」


ソラトはあっさりと言う。


「エルフ語は旅に出る前に即興で覚えましたよ。

 あの時、僕は普通に文字も読めなかったから……

 それとセットで一日がかりで」


エリシアは思わず足を止めた。


「……なにっ。

 ナラカムの文字とエルフ語を、一日でだと?」


「父さんはエルフ語覚えるのに半年って、母さんに笑われてましたよ」


エリシアはソラトを横目で見た。


(……賢者の血筋というのは、ここまで規格外なのか)


さっきの戦闘で見せた判断力と応用力。

詠唱なしで魔術を発動させる異質さ。

そして、言語を一日で習得する才能。


“魔法使い”ではなく――

やはり“賢者”なのだと、エリシアは改めて実感する。


二人はそのまま歩き続け、

遠くから騎士団訓練場の喧騒が聞こえ始めた。




ソラトとエリシアが訓練場に入ると、

そこには大勢の騎士たちを前に、技を披露しているミリィの姿があった。


「ミリィ・スパーク!

 ブレイブ・シュート!

 ハッピー・スラッシュ!」


技名を叫びながら剣を振るミリィ。

その動きは素早く、キレがあり、まるで踊るように軽やかだ。


ソラトは思わず感嘆の声を漏らす。


「ミリィすごいですね……剣技に技名まであるんだ」


エリシアは腕を組んだまま、淡々と言う。


「あれは適当に名前を付けて叫んでいるだけだ」


「ええっ、どうしてそんなことを……」


「そのほうがカッコいいと思っているんだ。

 人が見ていると、ミリィはすぐカッコつけをする」


ソラトはミリィの動きをよく見る。

確かに――同じ動きなのに、技名が毎回違う。


「ミリィ・オブ・レジェンド!!」


ミリィは叫びながら、ものすごい勢いで剣を振り回し、

最後に高く跳び上がって剣を振り下ろした。


エリシアは小声で呟く。


「この前はその剣技を“ミリィ・インフィニティ・ブレイク”と言っていたぞ」


ソラトは思わず吹き出しそうになる。


その時、ミリィが二人に気づいた。


「――あっ、お帰り!」


ミリィがこちらへ駆け寄ってくるのと同時に、

訓練場にいた騎士たちはエリシアに気づき、慌てて整列した。


エリシアは軽く顎を上げ、前列の騎士に問う。


「どうだった、勇者の剣技は」


騎士は背筋を伸ばし、真剣な表情で答える。


「全く……我々とは格が違い過ぎます。

 誰一人、勇者様に剣を当てることはできませんでした」


「そらそうだ。勇者と賢者は規格外だからな。

 私も先ほど、賢者の凄さを見たばかりだ」


その言葉に、騎士たちの視線が一斉にソラトへ向く。


(えっ、僕……?)


ソラトが戸惑っていると、ミリィが勢いよく駆け寄った。


「お帰り!」


ソラトは笑顔で応える。


「ミリィの剣技、すごくカッコよかったよ」


褒められたミリィは、ぱあっと顔を輝かせる。


「えへへっ!」


ソラトはふと、ミリィの手にある剣を見て首をかしげた。


「でも……なんでその剣で?

 ミリィ、もっと小さい剣のほうが使いやすいんじゃ……」


ミリィが使っているのは、騎士団の大人用の模擬剣。

六歳の少女には明らかに大きすぎる。


ミリィは当然のように言った。


「模擬戦用の剣はこれしかないんだよね」


ソラトは目を丸くする。


「そんな大きな剣で、あんな剣技ができるなんて……すごいね、ミリィは」


ミリィは胸を張り、得意げに言い放つ。


「勇者は剣を選ばずだよ、ソラト!」




エリシアが副団長の前に歩み寄ると、

騎士たちは一斉に姿勢を正した。


「ところで副団長。

 我々は明日出発するので、後のことは頼んだぞ」


副団長は驚いたように目を見開く。


「もう行かれるのですか」


エリシアは淡々と、しかし確信を持った声で答える。


「勇者と賢者が現れたのは、この世界に何かが起こる兆しだからな。

 急いでも損はない」


副団長は一瞬迷い、口を開く。


「何名か護衛を連れてはいかがです。

 道中、危険も多いでしょうし……」


エリシアは小さく首を振った。


「勇者の戦いを見ただろう。

 足手まといになるだけだ。

 私も……彼らの邪魔にならないよう気を付けるつもりだ」


その言葉に、副団長は返す言葉を失い、静かに頷いた。


エリシアは続ける。


「それと副団長。

 街の下にある鍾乳洞は、たまに魔物討伐をしておいたほうがいいかもしれん。

 ザコとはいえ、魔物は侮(あなど)らないほうがいい」


副団長は真剣な表情で答える。


「……わかりました」


エリシアの言葉には、ただの助言ではなく、

“実際に危険を見てきた者”の重みがあった。





宿舎に戻った三人は、部屋の机に三つの欠片を並べていた。


ミリィの欠片とソラトの欠片は、

まるで最初から一つだったかのようにぴたりと噛み合う。


だが――


今日見つけた欠片だけは、

ソラトがどれだけ角度を変えても、押し込んでも、

はまる場所が見つからなかった。


「うーん……これは合わないですね」


ソラトが肩を落とすと、エリシアは淡々と答える。


「ほかの欠片が必要なのだろうな」


「多分そうですよね」


ソラトは二人に欠片を返し、

自分の欠片をペンダントの金具に挟むと、

母が作ってくれたハート型のカバーを“パチッ”とはめて隠した。


ミリィは勇者の紋章が刻まれたロケットを開き、

そこに欠片をそっとしまう。


エリシアはカバンから一枚の紙を取り出した。

八英雄の名簿だ。


「ここに――ヒーラーのミレイユ・サンクティア、そしてブッカンと書いてある。

 ブッカンの街はここから南へ馬車で十日もあれば着くだろう」


紙を指でなぞりながら続ける。


「馬車は騎士団のを借りていく。

 この前の王政院の馬車ほど快適ではないが、荷馬車よりはましだ。

 それに頑丈なのもいい」


ソラトは立ち上がり、軽く伸びをした。


「じゃあ僕も部屋に戻って準備してきます」


「ああ。準備が終わったら食事に行こう。

 お前たちは何が食べたい」


ソラトとミリィは、息ぴったりに声をそろえた。


「肉っ!」


エリシアは小さく笑い、肩をすくめる。


「では、またあそこの店だな」


三人の声が宿舎の廊下に柔らかく響き、

明日の旅立ちへ向けて、静かに夜が深まっていった。

読んでくださっている皆さん、ありがとうございます。

41話でひとつの区切りがつきました。

次話から、欠片集めの本格的な旅が始まります。

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