魔力の欠片と皮紙の謎
父は木箱の中を見つめながら、静かに言葉を継いだ。
「この箱の中の“それ”は……魔力を放っている。
魔力を感じ取れるのは、魔力を持つ者――つまり魔物とエルフ、そしてハーフエルフなんだよ」
ソラトは息を呑んだ。
父は続ける。
「人間は魔力を持たないから分からない。
私も特に何も感じないし……父さんは?」
祖父は腕を組んだまま、あっさりと言った。
「わしもさっぱりじゃ。光ってるのは分かるが、それだけじゃ」
父は次に母へ視線を向けた。
「母さんは……どうだ?」
母は箱の中を覗き込んだ瞬間、ぱぁっと顔を輝かせた。
「わぁ……なんて綺麗な石なの。
これでアクセサリー作ったら、さぞかし素敵な――」
父は額を押さえた。
「……母さんはちょっと魔力にやられてるみたいだ」
ソラトは苦笑しながら言った。
「そうなんだよ。ロックもこれを見たら、ちょっと人が変わったみたいになって……」
父は木箱の中の光を見つめながら、ゆっくりと言葉を継いだ。
「ロックや母さんが“それ”に魅了されるのは……魔力のせいなんだ」
ソラトは思わず呟く。
「魔力……」
父は頷いた。
「何らかの“人を引きつける魔力”が込められているんだと思う。
魔力を持たない者は、逆に心を奪われやすい」
ソラトは不安そうに父を見た。
「でも父さんたちは大丈夫なの?」
父は胸に手を当て、少しだけ誇らしげに言った。
「我々、賢者の血筋は人間でもある程度の魔力耐性が備わっている。
だから、多少の魔力なら影響を受けないんだ」
祖父が鼻を鳴らす。
「わしも平気じゃ。ピカピカした石にしか見えん」
父は次にソラトへ視線を戻した。
「そしてソラト……お前はその魔力を“感じ取る”ことができる」
ソラトの胸がわずかに震えた。
父は続けた。
「本来、ハーフエルフは耳がエルフほど長くはないが、形に特徴がある。
だが……ソラトの場合は、ちょっと分かりにくい。
そうと言えばそうだし、違うと言えば違うようだし……」
母が横からひょいと顔を出す。
「でも小さい頃から、ソラトの耳は可愛かったわよ。ほら、ちょっと尖ってて――」
ソラトは不安と期待が入り混じった声で言った。
「でも……本当に魔力とか……ぼくが魔法を使えるってことなの」
父は落ち着いた声で答えた。
「それは明日、試してみよう。
我が家の魔導書庫にいけば、魔力の有無を確かめることができる」
ソラトは目を丸くした。
「魔導書って……ぼく、まだそんなに字が読めないのに……」
父は微笑んだ。
「我が家の魔導書は字が読めなくても大丈夫だ」
ソラトは少し安心したように息をついた。
だが次の瞬間、ふと何かを思い出したように顔を上げる。
「あっ……そういえば、木箱の底に何か書いてある紙が……」
その言葉に、父と祖父の表情が一瞬だけ鋭くなる。
母は相変わらず金属片をアクセサリーにする妄想で目を輝かせている。
父が静かに言った。
「……紙だって? ソラト、どんなものだ?」
祖父も身を乗り出す。
「木箱の底に紙が残っておるとなると……欠片が何なのか書いてあるんじゃないのか」




