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賢者の末裔ソラトと八英雄の遺産  作者: じろりんたん


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ハルデンの決意の始まり

ハルデン夫婦とその息子は、ガルドが語るリベッタ村の話にすっかり魅了されていた。

穏やかな気候、風に揺れる畑、季節ごとに色を変える作物の豊かさ――そのどれもが、彼らの暮らしの中にない“ゆとり”を思わせたのだろう。


とりわけ、村人たちが誇るブドウ酒や麦酒の話になると、三人の目は子どものように輝いた。

香り、味わい、作り手の気質まで、ガルドが語るたびに想像が膨らんでいく。


「いやあ、話を聞けば聞くほどリベッタ村に行ってみたくなりますね。ソラトくんは良いところに住んでいたんだね」


ハルデンの言葉に、ソラトは少し戸惑った。

褒められている“良さ”が、自分にはまだよく分からない。

生まれてからずっとリベッタ村しか知らないのだから、比べようがないのだ。


けれど――知らない誰かが、自分の村を良いと言ってくれる。

その事実だけが、胸の奥をじんわりと温めた。


「私も、ここに作る村はそんな村にしたいですね」


ハルデンがそう言ったとき、ガルドはふと思い出したように顔を向けた。


「そういえばハルデンさんは、前もここに村を作るとおっしゃっていましたが……それはまた、なんでこんなところに村なんか作ろうと?」


ガルドの問いに、ハルデンはすぐには答えなかった。

困っているというより、どこから話せば筋が通るのか――その順序を慎重に選んでいるような沈黙だった。


そのわずかな空白を、妻のニーナがそっと埋める。


「夫はね、ナラカム開拓庁の職員だったんですよ。そこを辞めて、ここに来たんです」


ガルドは目を丸くした。


「ほう、ということは……ハルデンさんは貴族の方だったんですか」


その言葉が、ハルデンにとって良い“きっかけ”になったらしい。

彼は軽く息を吐き、肩の力を抜くと、ようやく口を開いた。


「いや、貴族と言っても私は騎士から成りあがった男爵でしてね。代々続く家柄というわけじゃないんですよ」


ガルドは素直に感心したようにうなずく。


「それは立派じゃないですか。せっかく爵位を取って開拓庁勤めなのに……なぜお辞めに?」


問いかけは率直だったが、責める響きはどこにもない。

ただ純粋に、そこにどんな理由があるのか知りたい――そんなまっすぐな眼差しだった。


ハルデンは、ほんの少しだけ視線を落とした。

胸の奥に沈めていたものを、ようやく外に出す覚悟を決めるように、ゆっくりと息を吸う。


「私は開拓庁に勤めるようになって、初めて気づいたんです。ナラカム大陸の南西――つまり、グランツとリベッタ村の間には町も村もない。広大な無人地帯が広がっていることに」


声は淡々としていたが、その奥には長く抱えてきた疑問の重さが潜んでいた。


「しかもその無人地帯は、リベッタ村の結界の余波で魔物もいない。ここを開拓すれば国益になる。そう思って、私は上司に調査をやらせてもらえないかと進言したんです」


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