ミラッタ酒の夜
玄関の扉が開き、納屋からガルドが戻ってきた。
手には五つのミラッタの実と、一本の瓶。
その姿を見た瞬間、食卓の空気がわずかにざわつく。
「それは……ミラッタの実!」
ハルデン一家が声をそろえて驚く。
「せっかくだから、みんなで食べましょう」
ガルドが笑いながら言うと、ハルデンは恐縮したように肩をすくめた。
「いいんですか……こんな高級品を……」
ソラトはその反応が不思議でならない。
リベッタ村ではいくらでも採れる実だ。
(そんなに珍しいものだったのか……)と胸の内でつぶやく。
「ささ、奥さん。みんなでどうぞ」
ガルドはミーナにミラッタの実を手渡す。
ミーナは嬉しそうにお礼を言い、軽い足取りで台所へ向かった。
その背中には、客を迎えた家の温かい高揚がにじんでいる。
「ところでご主人、酒の方はいかがですかな」
「そりゃもう、好きですね」
「そうですか、それはよかった。息子さんはもう成人に?」
「こいつは去年成人になりましたよ。最近は二人でよく晩酌してます」
レオは微笑みながらガルドに会釈した。
寡黙だが、どこか柔らかい雰囲気をまとっている。
「じゃあ三人でやりましょう」
ガルドはグラスに酒を注ぎ、ハルデンとレオに手渡す。
瓶の口から立ちのぼる香りは、ミラッタの実特有の甘酸っぱさを含んでいた。
「これは、ミラッタの実で作った酒なんですよ」
「ミラッタ酒ですか、これは贅沢な……」
三人はグラスを持ち上げ、軽く乾杯した。
まずは香りを確かめるように、そっと鼻を近づける。
「おお、素晴らしい香り……これはたまりませんな」
隣でレオが静かにうなずく。
二人が口に含んだ瞬間、目が同時に輝いた。
「おお……なんと、想像以上の味だ。これは素晴らしいぞ!」
「うまい……これは、うまいです」
レオが初めて声を出し、ハルデンは嬉しそうに笑った。
「本当に美味いですな。帰りに五本も持たせてくれたリヴェルさんに感謝ですな」
ガルドはそう言って、ソラトの方を見て優しく微笑む。
ソラトは、村の当たり前がこんなにも価値を持つことに、またひとつ驚かされる。
そのとき、台所からミーナが切り分けたミラッタの皿を持って戻ってきた。
「あらあら、なんだか楽しそうね。どうしたんですか?」
「ガルドさんがすごいものを持ってきてくれたんだよ。なんとミラッタで作った酒だ」
「ええっ、ミラッタでお酒って……なんて贅沢なの」
「奥さんもどうです?」
「いただきますっ」
ミーナの目がきらきらと輝く。
どうやらハルデン一家は、そろって酒好きらしい。




