知らなかった先祖の物語
ハルデン一家は三人家族のはずなのに、食卓は驚くほど大きかった。
まるで初めから旅人を迎えることを想定して作られたような、ゆったりとした造りだ。
テーブルには、近くの森で採れた食材を使った料理と、
ガルドがさきほど渡したリベッタ村の野菜をふんだんに使った皿が並んでいる。
木の香りと温かい湯気が、家の中にやわらかく満ちていた。
「さあ、召し上がってください。ここは近くの森でいい食材が取れるんですよ。
でも……リベッタの野菜には及びませんけどねえ」
ミーナが明るく笑うと、主人は席につき、手を合わせた。
「さあ、それではいただきましょう」
ソラトとガルドも席につき、旅の疲れがふっとほどけていく。
温かい食卓の空気が、荒野の冷たさをゆっくりと溶かしていった。
食事が進むにつれ、五人の間に自然な談笑が生まれた。
「それでソラトくんはグランツに……でも、まさか八英雄の子孫に会えるとは思いませんでしたよ。これはすごいことです」
ハルデンの言葉に、ソラトは思わずガルドの顔を見る。
「リベッタ村じゃ、五百年前の魔王討伐の話はあまり語られてないみたいだが……
グランツでは教科書に載るくらい有名なんだよ」
ガルドの言葉に、ソラトは胸の奥がざわつくのを感じた。
自分の先祖がそんなに知られた存在だったとは、想像もしていなかった。
ガルドはソラトの驚いた表情に気づき、さらに問いかける。
「ソラトくんの家には、当時の文献とか残ってないのかね?」
「書庫に大量の本はあるんだけど……ほとんどが魔導書とか魔法の研究資料で。
魔王討伐のことは“魔王強かった”くらいの記述しか残ってないんですよね」
「なるほど、それは腑に落ちます」
ハルデンがうなずく。
「私が習った歴史でも、八英雄の賢者は研究に没頭するために辺境の小さな村へ移ったと書かれていました。
賢者は研究者で、名声には興味がなかったのでしょうね」
ガルドは続ける。
「それに、グランツでは賢者の話はいろいろ語られているんだよ。
強力な防御魔法の開発、村を守る巨大な結界……
それから、リベッタ村の野菜が美味しいのは、賢者が品種改良したからだとかね」
「そうそう」
ハルデンが指を鳴らすように言う。
「でも、そんな賢者でもできなかったことが一つあってね。
日持ちするミラッタの実の改良だけは、どうしても成功しなかったと聞いています」
その言葉を聞いた瞬間、ガルドがハッと目を見開いた。
「……そうだ。ちょっと待っててください」
そう言うと、ガルドは席を立ち、馬車を停めている納屋へ向かっていく。
ソラトはただ驚くばかりだった。
自分の先祖が、こんなにも多くの人に語られているという事実が、
胸の奥でじわじわと広がっていく。




