村を作ろうとするハルデン一家
夕方の光が傾きはじめた六日目。
リベッタ村を出て続く荒野の向こうに、ようやく濃い影を落とす森が見えてきた。
その手前に、ぽつんと真新しい家が建っている。
「見えてきたね、ソラトくん。あれだよ、この前話していた家族の家だ」
手綱を握るガルドが、夕陽に照らされた家を指さす。
「……村を出てから、家を見るのって初めてだよね」
ソラトが呟くと、ガルドは少し驚いたように笑った。
「おや、なかなか鋭いねソラトくん。言われるまで気づかなかったよ。
確かに、ずっと荒野ばかりだったからね」
ふと、ソラトが家の横を指さす。
「隣に、もう一つ建物がありますね」
家の横には、一回り小さな建物が寄り添うように建っていた。
木材の色がまだ新しく、最近完成したばかりなのが一目でわかる。
「納屋を建てるって言ってたけど……私が来たときは基礎だけだったんだよ。
もう出来てるなんて、あのお父さん、なかなか腕がある人みたいだね」
ガルドが感心したように言う。
馬車はゆっくりと家の前で止まった。
夕暮れの薄闇の中、家の窓からは温かい明かりがこぼれている。
荒野の冷たい風の中で、その光だけがやけに柔らかく見えた。
馬車の音に気づいたのか、玄関の扉が開いた。
体格がよく、どこか安心感のある優しい顔の男が姿を見せる。
家の主人だ。
「おや……あなたは、この前の」
「覚えていてくれてましたか。どうも」
夕暮れの静けさの中で、再会の声が柔らかく響いた。
そして主人は、迷いのない声で言った。
「今日はもう遅いですし、よければうちに泊まっていってください」
ガルドは最初からそのつもりだったように、軽く笑ってうなずく。
「では、お言葉に甘えて」
馬車を建てたばかりの納屋へと入れ、
リベッタ村から持ち帰った野菜をソラトと二人で抱えて家に入る。
「これは、泊めてもらうお礼と言っては何ですが」
テーブルに置かれた野菜を見た主人の目がぱっと明るくなる。
「おーい、ミーナ、レオ!」
奥から二人が現れる。
「こんばんは。妻のミーナです。どうぞゆっくりしていってくださいね」
ミーナは柔らかく微笑み、レオは少し照れたように会釈した。
ミーナの視線がテーブルの野菜に移る。
「あらっ……リベッタの野菜がこんなに。嬉しいわ」
主人が続けようとしたところで、ミーナが明るく声を重ねる。
「じゃあ、支度しておきますね」
ガルドは軽く頭を下げて名乗った。
「申し遅れました。私はグランツで商店を営んでいるガルドと申します。
そしてこちらは、リベッタ村のソラトくんです」
ソラトも小さく会釈する。
「よろしくお願いします」
主人は穏やかな笑みを浮かべた。
「ようこそハルデン家へ」
家の中に、旅人を迎える温かい空気がゆっくりと広がっていった。




