辺境に道が現れる
リベッタ村を出て三日目。
ようやく“道”と呼べるものが姿を現した。
それまでは、馬車が通れるだけの草地や、雨で削れた土の窪みを、
ガルドの馬車は軋みを上げながらゆっくりと進んでいた。
車輪が跳ねるたび、ソラトの身体もふわりと浮き、また座面に沈む。
目の前に現れた道は、決して整備されたものではない。
けれど、幾重にも重なった車輪の跡が、
人や馬車が時折ここを行き来していることを静かに物語っていた。
「ようやくスピードを上げられるな」
ガルドが手綱を軽く引くと、馬車は少しだけ軽やかに揺れた。
風が頬を撫でる感触が、これまでよりもわずかに強い。
ソラトは揺れに身を任せながら、周囲の景色を見渡した。
「ようやく道に出ましたね。そろそろ村とか町とかあるんですか」
ガルドは前を見据えたまま答える。
「村はグランツの近くまで行かないとないんだ。この道は北の山岳地帯にある採石場へ向かうためのものなんだよ」
「採石場……?」
「このあたりの山には希少な鉱石の鉱脈が多いんだ。それを採りに来る人たちのための道なんだよ」
ガルドは手綱を軽く握り直しながら続けた。
「それに、ここはまだリベッタ村の結界の余波が届いている。だから魔物も出ない。冒険者じゃなくても採掘できる場所なんだ」
「結界にそんな影響があったんですか」
「そうだよ。結界の余波はグランツの街の手前まで届いている。だから私が冒険者の護衛なしでリベッタ村に行けるんだ」
ソラトは少し考え、ふと疑問を口にした。
「じゃあ、このあたりに村を作ったほうが便利なんじゃないんですか?」
ガルドは肩をすくめ、苦笑いを浮かべる。
「それが残念なことにね……グランツからリベッタ村までの間には、村や町を作るのに適した土地がないんだよ。
水場がない、土が痩せてる、風が強すぎる……どれも長く住むには向かない。だから誰も定住しないんだ」
ソラトは、荒れた大地と遠くに連なる山々を見つめた。
“辺境”という言葉の意味が、ようやく実感を伴って胸に落ちていく。
ガルドはふと思い出したように声を上げた。
「そういえば、リベッタ村に行く途中で“村を作る”って言ってた一家がいたな」
「ええ、どこでですか?」
「ここからあと三日ぐらい進んだところだったかな。小さな森のすぐ横に小屋を建てて住んでたよ」
ガルドは苦笑しながら続ける。
「今は遠く離れた川に何時間もかけて水を汲みに行ったり、雨水を溜めたりして生活してるらしい。
けど、その父親が言うには『森があるなら必ず水脈はあるはずだ』ってさ。多分、井戸でも掘るつもりなんだろうね」
「でも……なんでそんなところに村を作ろうなんて思ったんだろう」
ソラトの疑問に、ガルドは目を細めて笑った。
「ソラトくん、良いところに気が付いたね。私はその時そんな疑問を持たなかったから聞いてなかったよ」
そして、どこか楽しげな声で言う。
「せっかくだから立ち寄って様子を見に行こう」
ソラトは頷いた。
胸の奥が、ほんの少しだけ高鳴る。
“村を作ろうとする一家”――
その理由を知りたいという気持ちが、自然と湧き上がっていた。




