旅立ち
朝食を終えると、ガルドは手際よく出発の準備に取りかかった。
ソラトも自分のカバンを馬車に積み、ガルドの隣の席に腰を下ろす。
家の前には、父と母、そして祖父が揃って立っていた。
三人の姿が並ぶだけで、胸の奥がきゅっと締まる。
父が一歩前に出る。
「じゃあソラト、気をつけて行ってこい。
グランツに着いたら勇者を訪ねるといい。同じ八英雄の子孫だ。何か手がかりがあるかもしれない」
「うん。僕も、まずそうしようと思ってるんだ」
父は少し笑い、目を細めた。
「そうだな。もう今は、お前の方が正解を導き出せるだろう。
自分の思う通りに進め」
「……うん、父さん」
母は寂しそうに微笑んだ。
「体には気をつけるのよ。ちゃんとご飯も食べないとダメよ。
あんたは夢中になると食事もしないでやり込むんだから……」
ソラトは苦笑しながらうなずく。
祖父が手を振りながら言った。
「ソラト、グランツ名物の土産、頼んだぞ」
「うん、おじいちゃん」
その時、遠くから声が飛んできた。
「おおーい、ソラトー!」
ロックが息を切らしながら駆けてくる。
「なんだよソラト、もう行くのかよ!」
「今から行ってくるよ、ロック」
「おまえさ、行くならちゃんと声かけろよ。つれねーじゃねーかよ」
「ごめんごめん。でも、次にガルドさんが来るときに一緒に帰ってくるから。
永遠の別れじゃないし」
「まあ……そうだけどよ。
なんか、グランツ名物とか土産頼んだぜ」
「オッケー」
ロックは照れ隠しのように鼻を鳴らし、拳を軽く突き出した。
ソラトも笑って拳を合わせる。
ガルドは手綱を握り、家族に向かって軽く会釈した。
「どうもお世話になりました、リヴェルさん。
それじゃあ、ソラトくんはお任せください」
母が笑顔で返す。
「頼みますよ、ガルドさん。
また今度来たときは、ごちそうをいっぱい用意しておきますからね」
「おお、それは楽しみだ。
では皆さん、ごきげんよう」
ガルドが手綱をゆるめ、小さく掛け声をかける。
馬が鼻を鳴らし、馬車はゆっくりと動き出した。
ソラトは立ち上がり、家族とロックに向かって大きく手を振る。
「じゃあ、いってきまーす!」
馬車は家から離れていく。
ソラトは振り返ったまま、家が小さくなるのをじっと見つめていた。
父は腕を組み、母は手を胸に当て、祖父は大きく手を振り続ける。
ロックも負けじと両手を振り、声を張り上げていた。
やがて、家も、家族も、ロックの姿も、道の向こうに溶けていく。
それでもソラトは、見えなくなる最後の瞬間まで、ずっと後ろを見ていた。




